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無双系女騎士、なのでくっころは無い  作者: 赤木一広(和)
第四章 王都ジェヌルキ
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064.レア対蒼虎激流争覇騎士団(後編)



 騎士団長が討ち取られたとしても、仮にも騎士団だ、それだけで機能不全に陥ったりはしない。

 むしろこれまで騎士団長が統制していたものが無くなり、荒くれ者の本領が発揮されることになろう。

 騎士としての体裁や面目なぞかなぐり捨てて、蒼虎激流争覇騎士団の団員たちは一斉に剣を抜く。

 誰もが威勢の良いことを叫び、レアを大声で罵り、脅し、怒鳴りつける。

 レアはこの期に及んで誰も斬りかかってこない彼らに、呆れた顔で呟いた。


「犬、みたい」


 声で威嚇するのみの彼らを指してこう評しながら、レアは覚悟も構えも無い蒼虎激流争覇騎士団の団員たちを、一人一刀にて次々屠っていく。

 矢を使うまでは、レアにとっても遊びの範疇であった。

 だが、それがどこを狙ったものであろうと、矢を放った瞬間、レアにとっては戦を挑んだものと見なされる。

 既にケンカではないのだ。

 矢を射た者だけを殺す、とはならない。

 敵は集団であり、こちらの味方であるとの証明がなされぬ者は全て、敵として扱われる。

 そして敵は、殺すのだ。

 待てだの、止めろだの、本気かだの、話を聞けだのといった寝言は、戦が始まった以上聞く必要も無い。


『何コレ、全然人斬ってる気がしない』


 全身に力を込めた肉は、それだけで刃を通しにくくなるものだ。

 だがロクな構えも取れず、慌てふためくだけの肉なぞ、切ろうとするまでもなく刃を押し当てるだけで切れてしまう。

 楽に切れすぎて気持ち悪くなるほどだ。

 確かに、真っ先にレアは敵指揮官を打ち倒した。

 講演でも言った通り、軍隊は指揮官次第でまるで強さが変わってくるもので、指揮官を失った軍が脆いのもレアはよく知っている。

 だが、それでも最低限、敵は兵士であるのだ。

 レアに向かって打ちかかってくるし、受け方を間違えれば当然、レアも死ぬ。

 だがこの敵は、そもそもレアに切りかかってこない。

 いや、剣を向け振るってはくるのだが、斬ろうという意思に乏しいので、こんなものが当たったところで薄皮一枚切れるかどうかで、レアは決して斬れないだろう。

 敵を惑わす剣術を駆使するまでもなく、レアの剣を彼らは避けられず、馬鹿みたいに無防備に食らい続ける。

 次の兵は、次こそは、そんなことを考えながら警戒し続けるレアであったが、騎士団長も含め、ただの一人もレアと剣術の比べあいをしてくれた者はいなかった。

 レアには当然経験などないが、市民を虐殺して回るというのは、きっとこういう感じなのではないだろうか、なんてことを考える。

 そうなってくると、レアの剣にも迷いが出てくる。

 だが、答えは変わらない。

 コイツらは敵で、刃を持ち鏃を持ちレアを殺す武力を有する。

 そのうえでレアを殺さんとする意思を示し、恐らくはこの後見逃したとしたら、彼らは彼らなりの出来得ることで、第十五騎士団を滅ぼしにかかるだろう。

 つまり、全て殺すべし、だ。

 最悪でも、二度と逆らう気が無くなるぐらいの目に遭わせてやらなければならない。


『全部、が最良。でも、半分も殺せば、充分ではあるかな。逃げられたら、面倒でも追って殺さないとだ。コイツらこのまま全部、ここで死ねばいいなあ』


 ただ、逆に良い面もある。

 レアは彼らを殺して回りながら苦笑する。


『ここまで弱いのなら、殺してもカレリアの兵力が減った、なんて気にならない。むしろ、こんなの居ても邪魔なだけだし、無駄飯食らいなうえ、他人様に迷惑をかけるだけなら、居なくなった方が絶対、国のためになる』


 イェルケルも宰相閣下も絶対褒めてはくれないだろうが。

 レアは不思議でならなかった。

 ここら一帯は恐らく、彼らのテリトリーであるのだろう。

 だからこそこれだけ広い場所で、建物も数多建っているというのに、百人以上が集まって狼藉を働こうとも誰一人止める者が居ないのだ。

 少なくとも一区画、規模からすればもっと大きな区域を縄張りにしているだろう集団が、どうしてこうも弱いのか。

 レアは一人一人をよく見てみる。

 顔が違うとわかった。

 顔つきが、レアがこれまで戦で殺してきた戦士たちと圧倒的に違う。

 ここの男たちは、どこか真剣味の無い顔をしている。

 必死さも懸命さも感じられない、友達同士でじゃれあってるようにすら見える。

 レアの剣が当たれば、本当に死んでしまうというのに。

 居心地の悪い違和感を覚えながら、レアは彼らを切り伏せていく。




 この場所には蒼虎激流争覇騎士団のみならず、この地区のチンピラたちも皆集まっていた。

 その総数はなんと二百を超える。

 レアが殺しに動き出すと、瞬く間に十人以上が討たれてしまった。

 しかもここで討たれたのは騎士団にて指揮を執る立場の者たち。

 残るは、騎士団とは名ばかりのチンピラ紛いと、正真正銘のチンピラばかり。

 レアが縦横に駆け回るのを、止めることすらできず当たるを幸い次々と討たれていく。

 だが、二百人も人間がいれば、中には居るものなのだ。

 目端が利き、戦い方を思いつける者も。

 蒼虎激流争覇騎士団の平団員の男は、手強い敵を集団で殺すための仕掛けを思い出す。


「おい! お前今すぐ行ってアジトにある網持ってこい! 後、太い縄ありったけだ!」


 平団員の男はそこらのチンピラ十人にこれを命じつつ、腕力があって遠くまで物を投げられる奴を数人集める。

 彼らにその狙いを話すと、集められた男たちは大いに怯むも、平団員の男は拳を握って笑いかける。


「ばっか! ここで男見せねえでどうすんだよ! お前この窮地に大活躍したなんてなったらよ! お前にも騎士団正式入団の目出てくるんだぜ! それも縄を遠くから投げるなんて安全な手でよ! こんなおいしい役ねえよ!」


 チンピラと騎士団員とでは天と地程の差がある。

 収入もそうだが、外で圧倒的にデカイ顔ができるのが騎士団員だ。

 ここに集まったチンピラたちの誰もがこれに憧れている。

 なので平団員のこの発破に、彼らは奮い立った。

 また平団員の話を聞いていた他のチンピラたちも、俺も混ぜろと加わってくる。

 大きな網と、大量の縄が届いた頃には、平団員の周りには数十人の人が集まっていた。


「よーしお前ら良く聞け! いいか! 味方に構うな! むしろ味方ごと一緒に縄で巻いちまえ! こんがらがるのも望むところだ! あのふざけたドチビ女をお前らで潰してやれや!」


 同時に、平団員は女の動きを封じた後のため、槍を持った連中を集めている。

 こちらは五人が横一列に並ぶようにして、そうした五人組を幾つも作り、平団員の指示で突っ込むように備えさせる。

 そして仕掛けが始まった。

 大本命の網の前に、四方八方からレアに向かって、先を結んだ縄が飛ぶ。

 咄嗟に、その全てを斬り飛ばすレア。

 縄の切れ端がレアの側にばらばらと降り注ぐ。

 チンピラたちから威勢の良い声があがる。


「見ろ! アイツ縄を嫌がってるぜ! それ! 一気に仕掛けろ!」


 レアにはその意図がわからない。

 飛び道具と言うにはあまりに殺傷力が無さ過ぎるし、射程も短い。

 なので、レアは縄を投げてきた集団に突っ込み、これを順次斬っていく。


「うおっ! やべえよ! こっち来やがったじゃん!」

「縄だ! 縄をかけろ! それで動きを止めるんだよ!」


 大声で言ってくれたので、レアも敵の目論見を知る。

 縄を投げた程度で、どうやったら動きが止まるものか全くわからないのだが。

 何をとち狂ったか、レアに直接縄をかけようと突っ込んでくる男を、当たり前に斬り伏せる。

 左右からも同時に仕掛けてきているが、この程度の同時攻撃、戦場ならばいつものことだ。

 確実に処理していくレア。

 しかし、集団を処理するためにこの場に留まることを余儀なくされる。

 その隙を、平団員は見逃さなかった。


「今だ! 網行け!」


 怪力自慢四人がかりで、四方に錘の付いた網を放り投げる。

 空中にぶわさっとばかりに広がる網。

 ここで、レアの背の低さが裏目に出る。

 背の高い者たちに接近戦を挑まれ囲まれると、周囲の様子を確認しづらくなるのだ。

 偶々その時、レアを取り囲んでいたのは特に背の大きな男たちであった。

 そのせいで空に舞い上がった網に、レアは気付くのが遅れた。


『なっ!?』


 今から斬らんとしていた男を放置して、大慌てで走るレア。

 錘のせいで網の端はすぐに落ちてくる。

 それでも、ぎりぎり抜けられる。

 チンピラが一人、吼えながら突っ込んでくる。


「逃がすかぼけええええええ!!」


 絶好の機会と見てとったか、レアの眼前に立ちふさがり両腕を広げ掴みかかってくる。


『ここまでヘタレばっかだったのに! こーいう時だけ! まともな奴出てくるなっ!』


 男の脇の下をすり抜ける形で、低くすべるように飛ぶ。

 着地。網は後ろ。間に合った。

 よし、と踏み出そうとしたレアはその場で大きくつんのめってしまう。

 右足の踵に、網の端が引っかかっていた。


『ぎゃー!』


 心の悲鳴は、その後降り注ぐ縄の雨をこれで回避できなくなったからだ。

 縄なんて当たったからってどうだというんだ、なんて感想を持った少し前の自分をありったけの言葉で罵り倒す。

 上手く巻きつかなくても身体の上に垂れかかった縄は、レアが動こうとすると引っかかって動きを止めてくれるのだ。


『マズイマズイマズイマズイマズイマズイ』


 縄は更に増えようとしている。

 レアはその場で大きく足を開き、息を吸い込む。


「っだああああああああああ!!」


 剣を投げ捨てると、身体をその場で一回転させる。

 縄が身体を引っぱるが、全身に漲らせた剛力のみでその全てを引きずってやるのだ。

 もちろん縄を手にし引っ張る人間諸共引きずりまわすつもりで。

 そこら中から、驚きと恐怖の悲鳴が上がる。


「な! なんだこの力!?」

「嘘だろ! コイツ本当に人間かよ!」

「馬に引きずられたみてえだ! こんな力! ありかよチクショウ!」

「ばっきゃろう! 負けてんじゃねえ! 引き戻してやれや!」

「クッソがあああああ! やったらああああ!!」


 だから、ここに来てやたらやる気に満ちてきたのはどういうことかと、レアは全員に問いただしてやりたくなった。

 だが、全力で引きずったおかげで縄に隙間ができ、レアは幾本かを外すことができた。

 それでも何本かはまだ残ったまま、内の二本などは完全に腕と足に巻きついてしまっている。


『こ、これは雑にやっちゃ、ダメだ。丁寧に、一本一本、処理してかないと、エライことになる』


 剣で切っても縄はやはり身体にまとわりついてくるだろうし、そもそも既に縄が縦横に走っているせいで剣が物凄く振りづらい。

 そうこうしている間にも、新しい縄がレアの頭上に投げ付けられてくる。

 要領を掴んだらしく、彼らは縄をぶつけるではなく、上から覆いかぶさるように狙ってくる。


『なーんで急に手強くなる!? 何コイツら! できるんなら最初っからやれー!』


 つまり、優れた指揮官が出てきたという話で。レアが皆に話したことそのものである。

 縄は相変わらず降ってくる。

 だが、少し敵の動きに変化が見られる。

 ずらりと、槍を構えた男たちが並んでいるのが見えた。


『網と縄で動きを鈍らせて、槍で遠くから刺す。騎士らしいかどうかはさておき、良い、手。……問題はコレ、大型の獣の狩り方と、同じじゃないかってことぐらい』


 どうにも人間扱いされていないようで、ちょっと悲しいレアである。

 だがあいにくと、こちらは人間様なのである。

 からまった縄を雑に引っ張ったりせず、一本一本丁寧に、かつ素早く外していくなんて真似ができる、人間なのだ。

 上から降ってくる縄で動きが制される部分はあるにせよ、それだけで負けてやる理由にはならない。

 槍を潜って踏み込み、敵が腰に差した剣を抜いて斬る。

 彼らの身体を盾にすれば、縄もほとんど意味が無くなる。

 一度、完全にこの縄空間から逃れるべく、レアは全速で駆け抜ける。

 その動きを見たらしい男の一人が、ひどく焦った様子をしていた。

 それはつまり、今ここを抜けられたら最後、レアを再び縄空間に封じることができなくなるとわかっている者だという事。

 レアの目がきらりと光った。


『おー、まー、えー、かー』


 全くの勘で、レアはこれらの動き全てを指揮していた男、平団員を見つけ出し彼に向かって、手にした剣を投げつける。

 回転させてはダメ。平団員の急所に至る道筋は、他のチンピラ達が邪魔で大きさにして拳一つ分ぐらいの隙間しかない。

 ここを通すには剣をまっすぐ、刃の先端が大気を切り裂くように、突き刺してやるしかない。

 見事。そう思った。

 その平団員は、レアの投擲を見て咄嗟に身を大地に投げ出しかわしてみせたのだ。

 一瞬血飛沫が上がったのだけは見えたので、どこかには当たったのだろうが、それ以後、その男がレアの視界内に来ることは無くどうなったのかはわからない。

 いや、一つわかっていることがある。

 彼はその後、少なくとも指揮ができる状態ではなくなったようだ。

 残った連中は、それだけが勝てる道だとすがるように縄や網を投げ続けてきたが、その動きは散漫で一斉に仕掛けてくるでもないので、レアは余裕を持ってこれらに対処していく。

 途中からかなりの人数がこの場を逃げ出したのだが、レアは全員がこの場から逃げ去った後も追撃の手を緩めず、翌日までの間に蒼虎激流争覇騎士団の団員はほぼ全てを処刑し終えたのであった。


 かくして、王都で大いに幅を利かせていた蒼虎激流争覇騎士団とその郎党は、レアただ一人に壊滅させられることとなったのだ。



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