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無双系女騎士、なのでくっころは無い  作者: 赤木一広(和)
第四章 王都ジェヌルキ
54/212

054.教会の盗賊



 当人たちにとっては忙しないが、案外と穏やかな日々が一週間ほど続いた。

 王都に戻って一週間だ。

 いい加減入団希望者たちもルールに気が付いてほしいと思うイェルケルだったが、遠方からいきなりイェルケルの屋敷に来る者も多く、なかなか入り口で騒ぐ者は減らない。

 ただ、あまりに騒がしいとのことで、なんと王都の衛兵が動いてくれたのだ。

 屋敷を訪ねてくるのは皆武器を携えた血の気の多い者たちばかりで、そうした連中が毎日毎日騒いでいるのだから、周辺住民にとってはたまったものではあるまい。

 おかげで衛兵が常に二人、イェルケルの屋敷前に立つようになった。

 それからは朝以外の時間に来て無駄に食い下がる者も減った。

 減っただけで居ることはいるのだが、その受け答えを屋敷の使用人がせずとも良くなった。

 平穏の戻った屋敷に、今日は第十五騎士団ではアイリが一人残っている。

 屋内を移動し続け、家中の窓という窓を見て回る。

 使用人は一度だけ何か手伝うかと問うたが、好きにさせろと言われたら二度と誰も声をかけなくなった。

 当たり前のことではあるが、そうした連絡の徹底が使用人間できちんとなされていることに、アイリは満足気であった。

 アイリに動きが見えたのは、昼前ぐらいになってからだ。

 窓の外を見たまま動きが止まった後、そろりとその場を離れ、物凄い速さで屋内を駆ける。

 屋敷の二階に駆け上がり、窓を開くとそこから躊躇無く飛び降りる。

 着地は音も無く、庭の木々の間を縫って正門脇の壁まで走り、これを一足で飛び越えた。

 表を歩いていた者は居た。

 居たのだが、壁を越えて人が降ってくるなぞ考えてもおらず、ちょうど視界の外に着地したこともあってその超人技には気付かぬまま。

 だが、アイリが凄まじい速さで走るのは見てしまった。

 獣が疾走するように低く滑り進む姿は、ものの数秒で角を曲がって見えなくなってしまった。

 目撃者は、自分は寝ぼけたと考えた模様。

 一方アイリは、角を曲がってまだ走る。

 隣家の敷地内に侵入してしまっているが全く気にせず、目標を捕捉した。


『間抜けに斥候は務まらぬぞ』


 一瞬で、木の上に隠れていた男を掴み、これをイェルケルの屋敷敷地内に向かって放り投げる。

 いきなりのことに混乱していた男は、それでもなんとか受身を取ったが、すぐ側にひらりと着地したアイリから逃れる余裕は無かった。


「盗人の下調べか、はたまた我らへの監視か。どちらでも良い。ここはイェルケル殿下のお屋敷だ。ここに不当に忍び込んだ賊が、どんな目に遭おうと衛兵は目をつぶってくれるであろうよ。さ、行くぞ」


 アイリに襟首を後ろから掴まれた男は、そのまま引きずられていく。

 抗議の声を上げることもできないのは、先ほどぶん投げられ地面に落下した時、受身は取ったが息が止まるほどの衝撃を受けてしまったからだ。

 捕らえられた彼は、口と全身を縄で縛られ袋詰めにされた後、馬車で屋敷から外に移動させられる。

 移動先はスティナが王都に用意してある隠れ家の一つで、書類上は老商人夫妻が住んでいることになっている屋敷であった。

 アジルバの時もそうだったが、スティナは訪れた街で活動をしようとした時、こうした隠れ家をまず確保する。

 条件は、その隠れ家に地下室があるなどで、悲鳴が外に漏れない場所があること、である。

 なのでアイリもそんな隠れ家は重宝するのだ。

 地下室に放り込んで袋から引きずり出して、さて、と言ったところで、アイリはその男の表情を見る。

 とんでもなく怯えた顔である。

 アイリの少女にしか見えない容姿を見てもそうなのだから、アイリがこの男に為した行為の威力をきちんと把握してくれているようだ。

 なら話は早いとアイリは男をじっと見る。

 年は若い。十五、六か。成人してすぐといったところだろう。


「ふむ、となると教会の者か。確かあ奴が言っておったな。教会には盗人かゴロツキしかおらぬと」


 教会。

 慈悲深き神の名の下に、身寄りの無い子供を集め養っている。

 そんな場所だ。

 信者からの寄付金を元に細々と活動している、そういった建前で彼らは教会に住んでいる。

 実際のところは、身寄りの無い子供をかき集め教会の上に報告し活動資金を得た神父が、これをピン跳ねしつつ、子供たちに仕事をさせている、というのが実態だ。

 スリや空き巣の元締めでもある神父が子供にどんな仕事をさせているかは、敢えて言うまでも無いことであろう。

 今回イェルケルの屋敷を調べていたのも、この内の一人であろう。

 一人納得しているアイリに、男が弱々しく尋ねる。


「あ、あの……どうして、俺があそこにいるって……」

「盗賊の下調べがどういうものかを知っておった、それだけだ。一味によって多少段取りの差はあれど、目的が一緒なのだからやり方なぞそうは変わらんだろう」

「ふ、普段からそうやって気をつけてるんっすか?」

「まさか。来るのがわかっていたからこそだ。さて、どうしたものかな。なあおい、どうしてほしい?」


 怯え震える男は、すがるように、頼るように言葉を漏らす。


「……チクショウ、兄ちゃん、俺に勇気をくれ。アジルバで勇敢に戦って死んだ兄ちゃんみたいに、俺もかっこよく死ぬって決めてたんだ……チクショウ、怖ぇ、ちくしょう」

「アジルバ? ついこの間のアジルバ市街戦か?」

「そ、そうさ、あそこで、にーちゃんは戦って死んだって」


 アイリの表情が緩む。


「アジルバの戦いならばよく知っておる。あそこで逃げ出しもせず戦って死んだというのなら、その男はよほど勇敢な兵士であったのだろう」

「アンタ、アジルバを知ってるのか! そうさ! にーちゃんはどんな敵が相手だってビビらなかったんだ! よーし、よしよし、それなら俺だってビビってらんねえ! さあ来い! あの世で俺もビビらなかったってにーちゃんに自慢してやるんだ!」

「うむ、兄にも負けぬ、良き覚悟よ」


 覚悟を決めたのなら快く送ってやってもよかったのだが、別段コレを殺さなければならない理由もない。

 後で盗賊の一味だということで衛兵にでも突き出してやればいいだろう。

 王族の屋敷を狙った盗賊の一味ならば十中八九死罪だろうが、それが法を守るということであろう。




 男を地下室に閉じ込めたまま、下調べが居なくなったことに気付かれる前にアイリは動き出した。

 連中の根城である教会に忍び込む。

 天井裏を這い進んでいると、数箇所に潜入を報せる罠が仕掛けられていた。

 こういうことをしようと思いつくのは余程忍び込まれる心当たりがあるか、自分が忍び込む側であるかのどちらかだ。

 忍び込む技術は以前からあったが、こうした罠への対処法はスティナに教わるまでアイリは知らなかった。


『前から思っておったが、あ奴はどこでこんなもの覚えたのやら』


 綺麗に罠を外し、神父の部屋へと。

 昼日中のことであり、神父はどこかへ出かけているようだ。

 教会の中に残っているのはまだ幼い子供達が多い。

 子供たちは教会の庭に出て、走ったり跳んだりができる遊具で遊んでいた。

 丸太を縄で結んだ四角い骨組み。これを登ったり、登った上で、高い位置にある丸太を手をつかずに歩いたり。

 アイリは何をしているのかすぐにわかった。


『訓練、か。ちょうど生垣と建物で見えぬようになっておる場所だな。こうまで本格的な物があるということは、ここも赤い刃同様、かなり昔からあるということなのだろうな。さて、となると貴族の後ろ立てがあると考えて間違い無さそうだが』


 神父の部屋と思しき場所に天井から忍び込んだアイリは、部屋の書棚にまとめてある書類を手に取り、順に目を通していく。

 さすがにすぐ目に付く所に犯罪の証拠になるようなものは無いようだ。

 アイリは以前領地があった頃、父の部下の犯罪捜査専門の衛兵から聞いた話を思い出す。

 隠さなければならないものであろうと、使用頻度の高い書類は利便性に負けて簡単に取り出せる場所に置いてしまうものらしい。

 一番多いのは、鍵の付いた棚を二重底にすることだそうな。

 鍵部を指先で挟み潰しつつ、棚を引く。無い。

 次に多いのは、執務机のすぐ下の床だと言っていた。

 じっと床を観察すると、動かせる板の痕跡を見つける。

 これを開いてやると大当たり。

 幸い、暗号化してあるようなこともなく、すらすらと読めるこれは盗品を含んだ裏帳簿であった。

 この後もアイリは屋内を探して回るもこれといった物は見つけられず。

 大体のところで見切りをつけ、アイリは裏帳簿を懐に収め天井裏に隠れる。

 じっと待ち続けること四時間。

 途中暢気に昼寝なんぞをしながら待っていると、人の気配で目覚める。

 音のみを頼りに屋内に入った男の位置を推測し、こちらが見えぬ場所に来てからそっと天井の板を外す。

 下には中年の男が一人。

 椅子に腰掛けようとしているところであった。

 アイリはひらりと飛び降りると、音も無く男の背後に着地。

 中年の男はまだ気付いていない。

 その首をぴょんと飛び上がって背後から締め上げながら、後方に引きずり倒す。

 そこからは、あっという間だ。

 男をうつ伏せに倒したかと思うと口にするりと猿轡をかませ、その上に布を被せてしまう。

 これを取ろうと伸ばした男の手は、どちらもアイリが掴んでへし折った。

 激痛のあまりばたばたと動く足はもまた、両方共を折ってやると男は胴をくねらせるぐらいしかできることが無くなってしまう。

 後はもう全身を縄で巻き縛って手足がだれ下がらぬようにした後、部屋の乱れを丁寧に直してから、ひょいっとばかりに天井の穴に男を放り投げ、天井裏を男を抱えたまま移動する。

 時間は夕暮れ時。

 日が落ちるのを待ってから、アイリは男を抱えたまま空き部屋の窓を抜けて外に脱出。

 そのまま王都内にスティナが用意しておいた隠れ家の一つに向かった。




 隠れ家に運んでおいた、イェルケルの屋敷を見張っていた男の縛り上げられ気を失った姿を死体だと言って見せると、神父は狼狽し嗚咽を洩らし始める。

 神父が根性無しならば、仲間の死体でも見せれば怯えて話すようになると思っていたアイリにとっては予想外の反応だ。

 どうしたものか、と考えていると連絡を受けたらしいスティナが顔を出してきた。


「あら、エセ神父じゃない」


 嘆き喚いている神父を見るなりそんなことを言い出すスティナ。

 アイリの顔から血の気が失せた。


「なっ! ま、まさかお前の手下であったか!?」

「ああ、違う違う。元帥探ってる時に、接触したのよ」


 神父は両手両足が折れているので、いも虫のように身じろぎしながらスティナの方を向く。


「お、お前はあの時の女盗賊! 貴様の手の者だったか! いったいどういうことだこれは!」

「ああ、それ嘘よ嘘。んでアイリ、コイツ何しでかしたの?」


 どうやらスティナの邪魔をしたわけではないとわかり、安堵したアイリが答える。


「ああ、殿下の屋敷を探っていた盗賊の頭だ。神殿を根城にしておってな、何か引き出せるやもとさらってきたのだ」

「何かって……あんたそーいう出た所勝負な真似止めなさいっていつも言ってるでしょう」

「い、いや、だな。こやつの私室を調べてる時、机の鍵を壊してしまったのでな。どうせバレるものだが、バレるのを少しでも延ばそうとな。何も吐かんでも、その時はその時であるし」

「ま、とりあえず今回は問題は無さそうだからいいけど。んで、エセ神父。一つ聞いていい?」

「黙れ。我が子を殺した貴様らに語る言葉など無い」


 神父の妙な強気にアイリが真顔で言い返す。


「いや、そんなに大事なら盗賊などやらせるでない」

「我らには他に選択の余地などない! 毎年送り込まれる孤児たちを! 一人でも多く受け入れるためには他に手段なぞなかったのだ!」

「だったらこの接待費やら避暑地への出張費やらを削れば良いのではないか?」

「……そんなものに金など使ってはいない」

「いや、しかしここに書いておるぞ」


 持ち出した裏帳簿を見せてやると、神父は大いに驚き再び叫びだした。


「それは子供たちが仕事をするため! 貴族からのお目こぼしを頼むのに必要な金だ! 大体! 嬉々として子供を殺すような貴様が何を抜かすか!」

「そもそも、子供たちと言っているが、実際に活動しておるのはもう子供なんて年でもなかろう。ほれ、ここに書いてある連中への給金も結構な額ではないか。慎ましやかに生活すればこんな馬鹿みたいに金は食わんものだぞ」

「彼らはずっと苦しんできたのだ! こうして苦労が報われ良い生活をしたとて! 何が悪いと言うのだ!」

「人様の物を盗んで良い暮らしをするのは悪事以外の何者でもなかろう。というか、もしかして貴様、本気でそれ言っておらぬか? 本気で、子供たちのためだと思っているように見えるのだが……」

「当たり前だ! 私は神父だぞ! 教会に捨てられた身寄りの無い子供たちのためにこそ私は生きておるのだ!」


 スティナは、へえ、といった顔をしている。

 アイリもまた興味深げに神父を見つめる。


「これは面白いな、コヤツ、本気でそう思っておる。なるほどな、幼い頃より育てた子供に空き巣やらスリやらをやらせようというのだ。情が移るのも当然であるし、そのうえでこうした犯罪をさせようとなれば、自分に対する言い訳も必要になってくると。ははっ、実に愉快な奴だな、お前は」


 神父に対しアイリは笑っているが、その目の奥では憎悪が煮えたぎっている。


「人が金で死ぬということをわかっておる者は、そう容易く金なぞ盗めぬものなのだがな。なあ神父よ、お前が盗みを働いた家のその後を、お前は聞いたことがあるな。無いとは言わせぬぞ」

「子供たちのために助力をするのは大人ならば当然であろう!」

「で、財産ありったけ盗まれた家はどうなった? 潰れた店の従業員は? 彼等の家族の内、いったい何人が生き残っておるかな。財産を失い食うものも無く路上でのたれ死ぬことがどれほど惨めで苦しいものか、孤児を引き取っておる貴様が知らぬと言うのか?」

「盗まれる奴らに隙があるのが悪い! いずれ誰かに盗まれるのならば子供たちのためにこそ活かすべきなのだ!」

「金が無ければ、人は死ぬのだ。なあ、その金を盗んだお前に、お前たちに、くれてやる報いはなんであろうな」


 そこでスティナが止めに入る。


「そこまでよ、アイリ。この手の異常者と口論なんて、最もやっちゃいけないことよ」

「……すまん。少し頭に血が上った」


 この部屋から出ていこうとするアイリに、スティナがそちらを見ぬまま声をかける。


「教会、アンタ一人で行っちゃ駄目よ。コイツらの後ろ盾は……」


 全てを言わせず、アイリは音を立てて扉を閉めた。

 肩をすくめつつ、目の前に寝転がる神父にスティナは言ってやる。


「あれは止まらないわ。残念ねエセ神父さん。貴方の大事な教会は、どうやら今日までみたいよ」

「はっ、馬鹿めが。一人で行くだと? 教会の子らは逞しい。貴様らのような女だのガキだのは、即座に地獄に落としてくれよう」

「その大口を後悔させてやりたいんだけど、あいにく私それほど貴方に時間は取れないのよ。だから、手短に、ね」


 両手足をへし折られて尚心折れぬ者に対し、スティナが何をしたものか。

 スティナはエセ神父と繋がりのあるゴロツキ集団の名前だけは引き出した。

 それ以上は無理だと悟り、すぐに神父は殺したが。

 愉快で笑えて気に食わない男だったが、スティナは用が無くなれば、特に嬲るでもなく殺してやった。

 男の死に際に、スティナはその理由を教えてやった。


「別に、人が嫌がる顔見るの、あまり好きじゃないだけよ」

「……嘘をつけ、この悪魔めが」


 信じてはもらえなかったようだが。






 アイリは走りながら考えていた。

 スティナはどうやら、アイリが教会の者を皆殺しにするつもりだと思っているようだが、アイリにそんなつもりはない。

 むしろ今のアイリの頭にあるのは、兵士になった勇敢な兄を尊敬しているという男と、子供たちを大切だと言い張る神父のことだ。

 どちらも死罪に相応しいことをしでかしているし、あの場で斬り捨てても構わないような奴等だ。

 だがアイリはどうしても考えてしまうのだ。

 孤児たちを集め、盗人となり果てながらも貧しい者のために金持ちのみを狙う、物語に出てくるような義賊を。

 血の繋がらぬ同士でありながら、孤児たちは皆兄弟と呼び合い、お互い助け合って困難に立ち向かっていく姿を。

 法では拾いきれぬ者がいることもアイリはよく知っている。

 或いはこの教会こそが、王都におけるそうした者たちの最後の救いなのではと。

 そんな夢物語のような、都合の良いことを考えていたのだ。




 今はもう夜も更けていて、アイリが潜入するのも容易い。

 天井裏へと忍び込もうとしたアイリが足を止めたのは、若い男の話し声が聞こえたからだ。


「な、なあ。俺どうにかなっちまったのかなあ。アイツ見てるとすげぇ、緊張するっていうか、声も出せないっていうか、こんなの、俺初めてでさ」

「あー、うん、見てすぐわかったわ。一応、兄貴たちに了承は取ってあるから、ここは俺たちに任せておけよ」

「うわ、バレてたのかよ!?」

「当たり前だ。あれでどーやってバレてねえって思ったんだおめーは」

「やっべ、すげぇ恥かしいこれ。兄貴たちにもバレてんのかよ……俺どんな顔して明日会えばいいんだよ」

「兄貴たちみんな、初々しくて笑えるっつってたぜ。まー、兄貴たちも付き合ってくれるそうだから、おめーは待ってりゃいいんだよ」


 思わずくすりとしてしまうような、初恋の話のようだ。

 アイリはこれを聞いてしまうのは申し訳無い気がしてきて、そっとこの場を離れようとした。


「明日の夜にはソイツさらってきてやっからさ。大丈夫、一番はおめーにやらせてやっからよ」

「マジか……俺、そんなにしてもらって本当にいいのかよ」

「ははは、それなんだがな、知ってるか? ほらおめーも筆おろしさせてもらったあの娼館。あそこの女たちって、みんな兄貴たちがさらってきた女なんだってよ」

「はあ!? なんだよそれ、俺初めて聞いたぞ」

「上手いこと言って教会に連れ込んじまえばこっちのもんってな。昔っから、俺らと仲良くなった女とかを教会に連れ込んでさ、んで俺らのモンにしちまうんだと。後はその女に家出させて、そのまま娼館行きって話だ」

「はぁー、そんな上手くいくもんかね」

「逃げ出そうったってよ、俺たちから逃げられるわきゃねーだろ。これも兄貴たちから聞いたんだけどさ、昔は娼館とかじゃなくて道端で客取らせてたんだと。そしたら神父様がさ、そういうルールに外れたことをしてたらエライことになるっつんで、他の娼館とかに話しつけて俺らも店一個持ってもいいって話まとめちまったんだよ」

「なんだそりゃ!? 娼館の連中ってめちゃくちゃ怖いのばっかじゃねえか! 神父様大丈夫だったのかよ!」

「おうよ! その時は兄貴たちも、なんでそんな所に気を使わなきゃなんねえんだ、って思ってたらしいんだけどさ、他の娼館のやり方教わったら、逆に自分たちがどんだけヤバイ橋渡ってたか気付いて青くなったんだってよ」

「すっげぇなぁ、さすが神父様だわ」

「そうそう、おかげで俺らも良い目が見れるってもんだ。明日の夜、楽しみにしとけよ」


 あれー、とこめかみを押さえるアイリ。

 何かちょっと違うんじゃないのかー、とか思い出したようで。

 とりあえず天井裏に忍び込み、色んな部屋を回ってみる。


「アンタ! 私が他の男に抱かれても平気だっていうの!?」

「うるせえ! おめーは黙って客取ってくりゃいいんだよ! それとも前みたいにまた全員でまわされてーか!」


 うわー、と何これ顔で次の部屋へ。


「この間の間抜けな商人の話よ! これを取られたら私たち一家はどうやって暮らせばいいのですか! だってよ! 知るかよそんなの! むしろそのまま野たれ死ぬところ見てーから生かしとこうかと思ったぜ!」

「それな! 生かしといてやるって言った時のアイツの顔! ごめんやっぱうそーって斬ったらめちゃくちゃ驚いてやんの!」


 これはひどい、とアイリは眩暈を覚える。

 まさかさっきアイリが口にしたことそのまんまが行われていようとは。


「今度さ、あの飯屋襲っちまおうぜ。すげぇ恥かかされたんだわ、マジありえねえ」

「いいぜ、前からあそこの店主クソ生意気だったしな。ちっと騒いだだけで出てけとか抜かしやがってよ」


 アイリは思う。

 スティナは全部わかっていて、アイリが襲うと考えたのだろう。

 つくづく、スティナには敵わないと思わされる。

 後、明日の夜何やらされる見知らぬ少女のためにも、今晩動くのが良いだろうなと。



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