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無双系女騎士、なのでくっころは無い  作者: 赤木一広(和)
第二章 アジルバ市街戦
23/212

023.王子の説得


 イェルケル王子が王都での情報収集を終えて戻ってきたのは、スティナとアイリが久しぶりにガチ勝負をした翌日のことだ。

 そして隠れ家にて、イェルケルはスティナとアイリからこれまでに起こったこと、手にした情報を聞き、戦利品である縄でぐるぐる巻きにされた少女を見下ろしていた。

 バルトサールを調べていた、かなり腕の立つ女剣士、小さくて胸がデカイ、っていうか顔立ちがダレンスに聞いた顔そのまんまである。

 最早疑う余地は無い。イェルケルは一晩床に転がされていた少女を見下ろして問うた。


「君、もしかしてレア・マルヤーナ、かい?」


 猿轡もされているため返事はできないが、少女の目に驚きが見えた。イェルケルは続ける。


「私の名はイェルケル。カレリアの王子で第十五騎士団の団長を務めている。ダレンス教官から君を私の騎士団に推薦したいと話があったんだ。……君の事情も聞いてる。ここに居るってことは、オホト・バルトサールを狙ってるってことで、いいのかな」


 少女は強くイェルケルを睨む。イェルケルは少女の反応には構わず淡々と自分たち第十五騎士団の立場を教えてやる。

 サルナーレの戦いの話。その時バルトサール侯爵のせいで窮地に陥った話。そして、騎士の身分と騎士団という立場を手に入れたことで、バルトサール侯爵を断罪するだけの発言権を得た話。バルトサール侯爵の違法な奴隷取引を確認した話。全部を話してやった。

 イェルケルはどこまでも本気な顔で言った。


「つまり、私たちはバルトサール侯爵を殺しに来たんだ、合法的にね。息子のオホト・バルトサールに関しては特に興味も無かったが、話に聞くようなクズなら後を継がれるのは面倒だ。君がアレを殺すっていうんなら一緒にやらないかい?」


 そう言ってイェルケルは少女、レアの猿轡を外してやる。


「どうだい?」

「……オホトを殺せるなら、なんでもいい。本当に、私に殺らせてくれるの?」

「それが君の望みなら構わないけど。君はそれだけでいいのかい?」

「他に、望みなんて無い」

「君をあざ笑いコケにしたのは、オホトだけじゃないんだろ?」

「…………」

「ダレンス教官に、君を見るよう頼まれた。騎士団に入れるかどうかは見てから決めると言ってある。どうやら、私じゃなくてアイリが見たらしいね。アイリが君を気に入ったっていうんなら、私は騎士団に受け入れてもいいと思ってる。なあアイリ、レア・マルヤーナは、君たちについていけるんだよな」


 イェルケルの問いにアイリは嬉しそうに頷いた。


「ええ、速さならば殿下をすら凌駕します。総合力では殿下が上と私は見ましたが、さて、後は実際にやってないことには」

「ははは、そいつは楽しみだ。なあ、レア、どうだ? 私たちについてくれば堂々とアイツらに挑めるぞ? 上手いこと勝てれば生き残る目もある」


 レアはイェルケルの言葉に強く惹かれていた。先のようなバケモノと共に挑めるのなら、暗殺の成功率も上がるだろう。

 ただ、少しこの王子の言い回しが気になったので問い返してみる。


「……堂々と?」

「ああ、そうさ。バルトサールの屋敷に正門から乗り込んで、警備も家人も何もかも私たち三人で皆殺しにしてやるつもりだったんだ。どうやらこの街には千人の兵士がいるようだが、まさか千人全部が屋敷にいるわけじゃあるまい」

「イカレてる」

「かもな。だが、私たち三人なら可能だ。悪いが負ける気はまるでしないな」

「…………その、通りかもしれない。そこの小さいのと、大きいのと、私より強いらしい王子となら……」

「君は?」

「混ぜて」

「よしきた」


 同時にアイリがスティナに向けて、どうだとばかりに胸を張り、スティナは呆れたように苦笑する。

 イェルケルはレアの縄を解いてやりつつ、スティナに訊ねる。


「攻撃は、いつやる?」

「今夜にでも、と言いたいのですが……」


 スティナの歯切れが悪い。勢い込んでいたアイリは責めるように言った。


「何かあったか? 閲兵式の理由ならば、それほど気にすることでもなかろうに」

「んー、もう一つ、嫌な情報がね。グレンマウザー元将軍ってのが来てる。バルトサールの私兵の指揮官らしいのよ」


 イェルケルが驚きに目を丸くする。将軍とは国軍における部隊の総指揮官であり、騎士団においては団長に当る。

 ちょっとした紛争程度ならば将軍一人に全ての采配を任せてしまうことも珍しくはない、高い権限を持つ役職である。


「グレンマウザー将軍? あの方に元が付くのは知らなかったぞ」

「息子が馬鹿やらかして連座させられたそうで。とはいえ軍歴を見るに他の将軍に劣るとは思えませんし、どうしてそんな大物が、それも閲兵式なんてものにわざわざ出るのか」

「……権威付け、ということはないのか?」

「だったら元ではなく現役呼ぶでしょうよ。あの豚親父ならそのぐらい問題無いでしょうに」


 スティナの発言にレアが、じゃあアイツは豚息子? とか言って一人でウケている。

 イェルケルはじっとスティナを見る。


「んー、じゃあ私が王都で聞いてきたことも関係あるか? バルトサールの派閥の貴族はほとんどが王都に居ない。皆自領に帰っている。自領だ、アジルバの街にきているという話は無かった」

「うーわ、あの馬鹿の寝言が嘘から出た真ってこと? 殿下、ここの有力者が言ってたわ。もしバルトサールが反乱を起こしたとしても、王都は戦ではなく交渉で収めるだろうって。そんな馬鹿な、って思ったんだけど、バルトサールの派閥が一緒になって叛くんなら、戦なんてしたらエライことになるし、交渉で収まるんならそうするってのもわかるわ」

「交渉? 反乱なんて危ない橋渡ってまで侯爵は何が欲しいんだ?」

「奴隷法改正」

「…………それ、バルトサールにとっては独占してる今の状況の方がいいんじゃないのか?」

「二年の空白を考えたら、今まともに奴隷取引の手配できるのって豚ぐらいなんじゃないかしら? だとしたら、法改正なんてすれば豚とその群が肥え太るだけになるでしょうよ。もしかしたらもう準備は始めてるのかもしれませんわね」

「その豚の餌は人間だぞ? 全然笑えん」


 ぶすっとした顔のイェルケル。笑うのをやめたレアが口を開いた。


「ねえ、面倒なことになる前に、さっさとバルトサールの一族、殺せばいいんじゃ?」

「それで止まるかわかんないのよ。元将軍が居るんなら、軍の指揮には豚一族一切関係してこないでしょうし。それに、バルトサールの派閥って言うけどあそこ、他にも音頭取れる有力貴族居たはずよ。本気で動く気だったんなら……ああ、アンタとしては豚息子が消えればそれでいいんだっけ」

「できるのなら、族滅希望。ウチの実家が、もの凄い迷惑を被った」

「あっそ。殿下、もう少し時間もらえません? ここまで大規模の反乱だったら、宰相閣下も気付いているかもしれません。下手に動いて閣下の邪魔したら面倒なことになります」

「……まいったな。こんなことなら閣下に無理にでも会っておくべきだったか。今更王都に戻っても間に合わん。こうなってくると少しでも正確な情報が必要だ。頼む、スティナ」

「了解です。殿下は屋敷で待機しててくださいね。アイリ、それと、レア、だっけ? 手伝いなさい。三日後の閲兵式までに全部調べあげるわよ」


 アイリが心底嫌そうにしながら頷く。レアは不思議そうにスティナに問う。


「私も?」

「できるでしょ、壁跳び。アレで足跡残さないやり方教えるから付き合いなさいよ」

「壁跳びって?」

「壁を蹴って屋根に登るやつよ。貴女の痕跡見つけたのもあれで壁に土跡が残ったせいなんだから、味方になるんなら跡が残らないコツ教えてあげるわ」

「……この騎士団相手だと、あれで足がつくんだ……」


 何やら納得したような、諦めたような嘆息と共にレアはスティナの要請を受け入れることにした。






 カレリア王国第二王子にして宰相アンセルミは、執務室の机に座りいつものように書類を見下ろしながら側近たちの報告を受け、必要に応じて言葉を返している。

 その中で、側近ヴァリオの報告を聞くと、アンセルミは目を通していた書類より驚き顔を上げる。


「閲兵式、だと? バルトサール侯爵がか? おいちょっと待て。それはまさか……」

「はい。文字通り受け取るのは危険でしょう」

「危険、ってお前簡単に言うが、侯爵の領地は王都にも近い、そんな所でまさか……数は、数はどれぐらい揃っている?」

「千、と聞いております」


 王都の国軍で充分対処可能な数である。この執務室はアンセルミの身内のみで固められているため表情を露骨に出しても問題無いので、ここではアンセルミも特に気を使うことなく思ったそのままを顔に出している。

 今は安堵の表情だ。


「その程度で済んだか。しかし解せんな、そんな数でいったいどうしようというのだ? 本気で閲兵式だけでもしようというのか?」

「グレンマウザー元将軍がついております。こちらは未確認情報ですが、どうもグレンマウザー様が千人に訓練をつけているようで」

「ん? んん? 余計わからんぞ。他の貴族との同時蜂起か?」

「侯爵の派閥の方々も大半は自領に戻っていますので、或いは」

「それは知っている。だが、そいつらも三千も四千も揃えたわけではあるまい。そこまでの数なら幾らなんでもこちらに漏れないということは無かろう」

「……例えば、五百程度でも幾つか合わせれば、その数字にも届くかもしれませぬ。そのうえで最低二千、できれば三千揃えてグレンマウザー様に指揮をお任せすれば、少なくとも他所の騎士団や即応出来る部隊では手も足も出なくなります」


 アンセルミは手元の書類から完全に思考を切り離し、集中してこの案件を熟慮する。

 ヴァリオ以外の側近たちはお互いで考えを口に出して話し合い、どうなるかの予測を立てている。

 アンセルミは考えをある程度まとめ終えると、側近たちに次々と指示を出していき、最後に残ったヴァリオに言った。


「元帥閣下は絡んでくると思うか?」

「そこに自信が持てぬうちは寡兵でどうこうしようとは思わないでしょう。即応可能な騎士団を確認しておきます」

「頼む。この時期に国内で騒ぎを起こそうとは、な。なあ、ウチの貴族共、本当に大丈夫なのか?」

「最後の一線を越えぬぎりぎりの所で、利益を得ようと必死なのでしょう。国を保たんとする意思に欠けるのは、まあ今更ですな」

「……中央集権、進めざるをえないのは絶対私のせいじゃないよな」

「連中の望みは、国を閣下がその全てを尽くして維持しつつ、国内の利益はそのありったけを自らの物とせんこと、ですからな」

「もうヤダ、この国……」



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