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201/212

201.流石に十万の戦をどうこうするのは無理があるだろ


 それはそれは、凄惨な戦であった。

 イジョラ軍兵が反乱軍の攻撃を受け止めている間に、魔法使いが後方よりの魔法で反乱軍を次々と打ち倒していく。

 それはもう一方的にすぎて、大人と子供の喧嘩にしか見えぬようなものであったが、他方、一息にイジョラ軍兵の壁をその旺盛な士気によって乗り越えた場所では、魔法使いに対する反乱軍兵の見るも無残な殺戮が繰り広げられている。

 反乱兵もまた、かつてイジョラの魔法使いに使役されていたからこそわかる。どの魔法使いを殺せばどの兵士たちが魔法による強制から逃れられるのかを。

 魔法の支配を脱した兵士たちに、反乱軍は戦の最中であろうと寝返りを強要する。

 寝返らないのなら自分の街や村に帰れるなんて思うなよ、などという台詞を伴う説得は、一般的には強要というのである。

 イジョラ軍にとっての誤算は、反乱軍は半数が徴兵経験のある元イジョラ兵でもあり、イジョラ軍がいかに魔法使いを運用するかを熟知していた点である。

 その対魔法戦術の巧みさは、その点だけならば対イジョラ戦を想定し多大な予算を割いて研究してきたカレリア軍にも匹敵するもので。

 そして反乱軍の将が、勝つためにはこれしかない、と常識では考えられぬ消耗戦を強いてきたことだ。

 騎馬を用い、伏兵を使い、イジョラ兵に化け、擬態を行い、偽報をつかませ、およそ考えられるありとあらゆる手段を用いて魔法使いを殺しにかかったのである。

 戦が開始されてから終了するまでの間、ただの一時たりともこれらの猪口才な小細工が途切れることはなく、その多様さ多彩さは、これを指示した将軍の才を存分に知らしめるものであった。

 反乱軍、殿下商会隊(驚くべきことにこれが正式名称である)所属レア・マルヤーナは、開戦直後こそ指示通り本陣側に戻ってはきていたが、一度強力な魔法使い対策として前線に送られて以後は、一切本陣に戻ることはなかった。

 最前線にて、レアの顔はこれでもかという勢いで歪んでいた。


「……何、これ」


 これはレアの知る戦ではない。

 歩兵同士のぶつかり合いにおいては、互いが隊列を組んで戦っている間はそう易々と敵を殺せたりはしないものだ。だから隊列は簡単には崩れないし、一進一退なんて膠着状態にもなりやすい。

 なので反乱軍の中列に居る兵士たちは、まるで攻城戦にでも用いるような大きな破城槌を用意していて、歩兵同士がぶつかるなり隊列を開き、これを敵歩兵前部に叩き込むのだ。

 そうやって無理やりこじ開けた敵歩兵陣に切り込み、その奥の魔法使いを目指すのである。

 無理に歩兵陣に突っ込んでも、周囲を取り囲まれてしまうだけだ。だが、この斬り込みに突っ込む連中の士気の旺盛さたるや。よほど魔法で支配されている兵よりも恐ろしいものである。

 そうして歩兵のど真ん中を突っ込むとどうなるのか。

 敵魔法使いは、自軍の歩兵を巻き込むことを躊躇するなと教えられている。なので、味方ごと突っ込んできた反乱軍兵に魔法を撃ちこむのだ。

 そんな真似をすれば自軍の士気がだだ下がりしようものだが、イジョラ軍において兵の士気は勝敗に直結しない。魔法により兵士は絶対に逃げられないようになっているせいだ。

 だから反乱軍の突撃はこれで終了、であるはずなのだが、これにはもう一つの効果がある。突撃隊が突っ込んでいる間は、魔法使いによる攻撃はそちらに向けられているため、反乱軍が再度破城槌を叩き込む猶予を与えられるのだ。

 レアは生唾を飲み込む。

 平民が、魔法使いと戦をするということがどういうことなのか。いざその目にしてみるとさしものレアも大いにドン引く内容であった。

 反乱軍のやることは一事が万事この調子で、友軍のそんな姿を見て、レアも見捨ててはおけなかったのだ。それが、レアが命令に逆らって最前線に残っていた理由である。


「うりゃー!」


 味方歩兵の最前列には、彼らの肩を蹴りながらその上を飛び辿り着く。そしてレアの蹴りが盾を構えた敵歩兵にぶち当たる。

 金属鎧に身を包み、大盾を構えた歩兵はすぐ後ろの二人の兵士を巻き込み吹き飛ばしながら、更に後ろの兵の頭上をぶっ飛んでいった。

 レアは小柄で素早さが身上、それは事実であるがあくまでその比較対象は殿下商会の残る三人である。

 兵士の一人や二人、遥か彼方に蹴り飛ばすぐらいできないようでは、そもそも殿下商会は名乗れぬのだ。

 兵士の集団が、破城槌を歩兵戦に持ち込むような自殺紛いの戦闘をしなければ突破もならぬ敵歩兵陣を、ただの一蹴りで叩き崩すと引き続き敵陣への切り込みの先頭をきる。

 後に続く兵士たちは、もう側面の心配だけしていればいい。前は全て、彼らが走るよりずっと速い速度でレアが敵兵を処理していってくれるのだから。

 更に味方ごと狙ってくる敵の魔法もまた、最前列のレアが盾を振り回して全てを防ぎきってしまう。ちなみにこの場合の盾とはレアが直前に処理した敵兵を指す。

 一度、魔法使いの並ぶ隊列にまで反乱軍兵が辿り着いてしまえば、後は数名の犠牲者を出すのみで津波のように圧し潰せる。

 通常、イジョラ軍のこの布陣において、歩兵をぶち抜いて魔法使いにまで届くなんて例は滅多にない。

 魔法使いたちは恐慌に陥り、逃げ遅れた者は必死に助けを呼び、逃げきれた者もまた悲壮な表情でこれを見捨て、戦場らしからぬ悲鳴が各所より聞こえてくる。

 突撃隊の隊長に、レアは返り血塗れの顔で言う。


「じゃ、次行ってくる」

「助かった! アンタすげぇよ! どうか他の連中も頼む! これでまだ俺たちも戦える!」

「ん、頑張る」


 あちらこちらとレアは最前線を移動し、膠着した戦線を次々崩して回るのだった。





 レアが肩で息をするほどの疲れを溜め、敵から奪った剣が十五本目になった頃、レアが何もしていないのに敵陣が崩れた。

 レアはというとまた馬鹿みたいに魔法をもらいながら突っ込む、と覚悟を決めたところであったので、拍子抜けして足を止めてしまった。

 代わりに兵士たちが歓声を上げて突っ込んでいった。

 はふう、と一息ついて空を見上げると、太陽はもう山の側までにじりよっており、後少ししたら空全体が茜色に染まるだろう。

 戦が始まったのが昼過ぎだったから、随分と長い時間戦っていたようだ。

 本来、面目の上からもイジョラ軍は退却を許されていなかったはずだ。

 下がれぬを下がったとなれば、それは余程のことが彼らに起こったのだろう。もしくはイジョラ軍が一番嫌がる、魔法使いの多大な損失が予想されるような戦況になったか。

 くすりと笑うレア。


『魔法は、本当に強い。そんな魔法使いたちが何千人もいて、そのうえ城壁を作り出して、視界の端から端までを繋ぐような堀を掘って、一撃で小隊を消し飛ばして、空からこっちの陣を偵察してって、常識では考えられない魔法を使えるイジョラ軍は、誰が聞いても負けようのない軍なのに、負けた。戦って、本当に面白いね』


 カレリア国軍がイジョラ魔法兵団に勝ったのにも非常識なほどの練度や徹底した対策研究などの理由があったが、反乱軍が勝利したのにもまた何がしかの理由があったのだろう。

 ここまでレアは、反乱軍が勝利するための動きに終始してきた。

 敵陣を突破できるまで手伝い、兵に任せられるようになったら次の場所へを繰り返したのだ。これまでさんざっぱら戦をしてきたおかげで、レアにも軍の動きの機微といったものがわかるようになってきていたので、どこが上手くいっていて、どこがよろしくないといったものが一目で見てわかるようになっていた。

 軍に所属し、敵軍に勝つための動きを、レアは単騎で動き回りながら己で判断できるようになっていた。いかに腕が立つとはいえ、レアの年齢でここまでできてしまうのは、それほどこれまでの戦闘経験が常軌を逸していたということの証であろう。

 レアは戦に勝つための動きはもう十分と考える。ならば次は反乱軍の主目的、魔法使いを殺す、だ。

 混乱する戦場を大きく迂回する。こんな動き、並みの兵士が行なったなら追撃も何もないのだろうが、レアは第十五騎士団であり殿下商会である。その構成員の脚は、馬より速い。

 イジョラ軍が後退する時、通らなければならない道は反乱軍に任せ、レアは付近の山道へと向かう。

 この険しい山道を抜けさえすれば、その後はもうほぼ敵の追撃は考えなくてもいい、そんな道だ。自分の力に自信がある者、反乱軍の主目的が追撃にこそあると察した勘の良い者、そういった抜きんでた者を、レアは狩るつもりであった。

 その場所は山道ではあるが、多少なりと開けた場所である。上り下りが一時的になくなり、山中にありながら平坦な道が続く珍しい場所。更に、山道を抜けるまで後ほんの少しといった場所でもある。

 レアは道のど真ん中に座る。

 開戦からずっと戦場を走り回り、ここまでは先に抜かれないようありったけで走ってきた。


「あー、疲れたっ」


 腰にはどこから持ってきたかちょっと口には出しづらい袋が六つも下げてあり、これを一つずつ取り出す。

 中身は糧食。反乱軍のそれを持って戦場を走り回るのはできれば避けたかったので、勝敗が決してからそこらにあるものを拾ってきたのである。死人がどうこうとかいう繊細さと無縁なのは、狂ったように戦場にあり続ける第十五騎士団の全員がそうである。

 硬いしロクに味もしないしで普段ならとても食えたものではないのだが、へろっへろに疲れて腹が減っているところで食べる一口目は、こんなシロモノですら絶品に感じさせてくれる。

 まああくまで一口目だけで、後は普通のマズイ飯であるのだが。


「切実に、スティナが欲しい。こういうまっずいご飯、おいしくするの得意なんだよね」


 常備してるらしいちょっとした調味料とお湯とそこらにある野草とで、あっという間に食べられるご飯に調理してくるのだから、これこそ魔法だろう、とレアは本気で思ったものである。

 とはいえ空腹のせいか、六つあった袋全部空にしてしまった。

 待ち伏せであるし来るまで寝ているか、と思っていたが案外すぐに敵は来てくれた。

 数は十数人。

 全員、表情がまるで死人のそれだ。

 負けるはずのない戦に負け、惨めに落ち延びなければならないのだから当然と言えば当然かもしれないが、常に自信に満ち溢れ、我が世の春を謳歌し続けてきた魔法使いの姿としてはあまりにみすぼらしいものであろう。

 そんな彼らであるが、道のど真ん中に座り込んでいる少女を見るや、自身の不運を容赦なく八つ当たる。


「貴様! 邪魔だどけ!」

「小娘が! 今がどんな時だかわかっているのか!」

「今の我らに冗談は通じん! 運の悪い奴め! 戦の恐ろしさ貴様にも教えてやろうか!」


 彼らの戯言を全部無視して、レアはゆっくりと立ち上がる。

 剣は道の脇の草むらに隠してあったのでこれを拾い上げると、彼らが驚きの顔を見せる。もちろん驚きでしかなく、警戒では断じてない。平民の小娘一人に怯えるような人生を彼らは送ってはいないのだ。

 レアの衣服が、厚手の服でしかなくとても鎧なんてシロモノではないのも影響していよう。もちろんこれも、油断を誘うために鎧を予めレアは脱いでおいたのである。

 手にした剣をすらりと抜きながら、レアは笑って言った。


「殿下商会、だよ。ここは通れないことになってる。諦めて、死ね」


 言われたことの意味がわからない。そんな一瞬をレアは作り出したかったのだ。そのための擬態であり、すっとぼけた態度である。

 不意打ちでもいいのだが、むしろこちらは敵も戦の直後で緊張感を持続しているだろうこともあり、不意打ち直後に即座に反撃に動くなんて真似をしてくるかもしれない。なら、緊張感を失ってもらってから襲えば、精神の立ち直りはそちらの方が難しかろう。

 そんな気配りのおかげかどうか全くわからないが、敵はほとんど反撃らしい反撃もできず全て殺し尽くされた。逃げようとする者さえ出なかった。

 じゃ、とレアは山道を少し先に進む。こうして待ち伏せ場所を徐々に敵が来る方向にずらしていけば、死体の処理をしないでもこちらの待ち伏せがバレないという寸法である。

 相当に雑な作戦であるが、実行者がレアほどの実力者ならば案外に効果的であったりもする。

 結局この山道で、レアが殺した魔法使いの数は六十三人になる。殺された魔法使いのほとんどが生還を期待されていた有望株ばかりであったため、イジョラ軍にとっては大きな痛手となった。


 やる事やって反乱軍に合流したレアは、自身が反乱軍の中でそこそこ有名になっていると知る。

 兵士たちがびっくりするほどよく声を掛けてくるのだ。

 それら全てがとても好意的なものであり、特に声を掛けてくるような者は直接的にレアに助けられた者ばかりであり、レアも戦友とも言うべき者たちに対して無下にはしづらく、一々愛想笑いなんて似合わない真似をしていた。

 イェルケルはどうやらここ一番といった場所でのみ用いられていたようだ。反乱軍の素晴らしい指揮をすぐ近くで見られたこと、特に優れた魔法使いと戦えたことで当人はかなり満足気であった。

 開戦前にテオドル・シェルストレームとの一騎打ちなんて真似までしておいて不満だったなんて抜かしたら、レアはきっと本気で殴っていただろうが。

 自身のことに関しては不満はないのだが、戦の結果に関しては思うところがあるようで、あまり良い顔はしていなかった。


「レア。反乱軍の損害、五割超だってさ」

「……え? 戦、勝ったんじゃないの?」

「勝って、これだってさ。なあ、騎士学校の授業で教わったよな。自軍兵二割も死ねばもう戦線を維持するのは不可能になるって」

「うん。損害に怯えて兵が逃げるって。五割って何? それで勝ったってそれでも戦ってたってこと?」

「そうらしい……なんなんだこの軍? これ、本当に軍隊なのか?」

「農民反乱怖っ」

「勝たなきゃ後がないって必死になってる兵士が七万人も集まったんだろうなぁ……つくづく、非常識な戦だよなぁ……」


 反乱軍が真正面から力押しでイジョラ正規軍に勝利した、魔法のタネはこれらしい。他にもあるのだろうが、これはかなり強烈な理由であろう。

 イェルケルもレアも、お互い不安そうに顔を見合わせる。

 この戦は、二人にはまるでわからぬ戦だ。少なくともカレリアで経験してきた戦とは、根本的な所で違ったものだ。

 レアは戦の最中、兵たちが死ぬのをかなりの数防げていたと思う。だが、レアに守られ生き残った兵士たちがどうするかといえば、その後もやはり自殺紛いの特攻を繰り返すのだ。

 イェルケルも似たようなもので、難敵を選び投入されていたが、そんな強敵を幾ら倒したところで、兵たちが死んでいくのを減らせた気はまるでしなかった。

 理屈の上では、イェルケルもレアも反乱軍の勝利に大きく貢献しているとわかっている。だが、感覚的な所で、本当に二人はこの戦で役に立てていたのか自信が持てなかった。

 そんな気味の悪さが二人の表情に表れているのだ。

 イェルケルは、この戦を最後まで指揮し続けた反乱軍将軍の顔をずっと見ていた。

 実際に刃を交えるような場所にいるでもないのに、彼の表情は恐ろしいほどに殺気だったもので、彼は味方の大きな損害が予想されるような命令も僅かな躊躇もなく命じ続けることができていた。

 その心中にてどれほどの激情が吹き荒れているものか、イェルケルには想像すらできない。

 イェルケルはしみじみと呟く。


「ここ、私たちには向かない場所かもな」

「同感。そういえばシルヴィは?」

「戦場を見て回りたい、って言ってたな」


 戦場とは、およそ一度の会戦で出た死者数とはとても思えぬ数万の遺体が転がっている場所である。

 イジョラに来て、シルヴィがずっとやってきていたこともイェルケルたちは聞いている。

 残念そうにレアは言った。


「シルヴィってさ、私たちと違って、根っからの平民なんだね」

「そうだな。あれで教養もあるし頭も悪くないけど、あくまで教育を受けた平民、なんだよな」


 自分たちとはあり方、立ち位置が違う。そう思えてしまうことが寂しい、そんな話である。

 イェルケルたちにはどことなく居心地の悪いこの反乱軍の中も、きっと彼女にとっては過ごしやすい場所であるのだろう。

 レアは、戦の最中にへし折れてしまった剣の代わりに、反乱軍からもらった剣の調子を確かめながら、イェルケルに問うた。


「で、反乱軍と別れた後、でんかはどうするか決めてるの?」

「ああ、もちろん。これだけは、絶対にやっておきたいことがあるんだよ」





 反乱軍は、全軍の半数を犠牲に、その戦略目標の大半を達成した。

 戦闘の勝利は言うに及ばず、イジョラ軍主力魔法使いを多数殺害し、以後の大規模軍事行動を大幅に制限することに成功した。

 この余勢をかって彼らの殲滅にかかるのであれば、まだイジョラ軍にも抗する術はあった。

 だが反乱軍はイジョラ軍が大きな動きを取れないとみるや、各地の都市への攻撃に切り替えた。

 それぞれの都市には規模に相応しい軍兵が配されているものだが、これらはあくまで籠城などにより敵軍を防ぐだけが目的の兵である。王都よりの援軍がないとなればその戦略は破綻する。

 王都よりの援軍がないとわかるや、各都市の貴族たちは誰しもが我先にと都市より逃げ出した。それは臆病だのなんだのといったことではなく、単純に、そうしなければ殺されるとわかっているからだ。

 抵抗して勝てるのならばそうしている。だからと降伏なぞ許されるはずもない。この戦は領地の奪い合いではなく、貴族と平民との戦であるのだから。

 事ここに至ってようやく、イジョラの魔法使いたちもこの反乱が最早貴族たちの手に負えないものになってしまっていることを理解した。

 だが、それでも、彼らが頼りすがる寄る辺はあるのだ。

 コウヴォラに貴族たちが集まってきているのは、最後の一線を頼りにしてのこと。

 イジョラ四大貴族の内、三人はまだ生き残っている。何より、長年にわたってイジョラの象徴であったセヴェリ王が健在である。

 かつて帝国に攻め込まれ絶対の窮地に陥った時のように、貴族たちは王の奇跡を期待したのである。

 そして、反乱軍側はといえば、貴族たちのそういった思考をこれ幸いと、コウヴォラ以外の都市を片っ端からその手に収めていった。

 イジョラ国内でコウヴォラ以外で反乱軍に抵抗できそうなのは、最早エルヴァスティ侯爵の治める南部地域ぐらいであった。


 イジョラ魔法王国の終焉の時は、刻一刻と近づいてきているのであった。


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