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200.魔法なんて怖くない


 レア・マルヤーナは、第十五騎士団、殿下商会として戦っていく中で、集団というまた人間とは別個の生き物に対する経験を重ねていた。

 数十人、数百人、数千人、そして数万人の集団、それも戦闘に特化したそれは、勇ましくかつ単純な選択を好む。

 そのくせ不利となればあっという間に威勢を失い、一度に多数が死ぬ、派手な攻撃を仕掛けられる、周囲を包囲されそうになる、そんな簡単な一押しであっさりと瓦解していく。

 理性ではなく感情を重んじ、戦闘特化という死を前提としているはずの存在でありながら攻め掛からせるには、わがままな子供にそうするような十分なご機嫌取りが必要で。

 集団の頭脳にあたる者は理性と知性をもってこれを率いているのだが、彼らへのご機嫌取りを欠いた選択肢はよほど指揮者の能力が高いでもなくば行えず。だからこそ、その集団が今どういった状態なのかを正しく見抜くことができれば、敵の次の打つ手が読めてくる。


「シルヴィ、ちょっと付き合ってもらっていい?」

「え? うん」


 イェルケルがテオドルの首を斬る前、一騎打ちの決着がついた時にはもうレアはシルヴィを誘って動き始めていた。

 両軍前衛部隊の意識は完全にテオドルとイェルケルに向けられている。

 この隙に、身を低くしつつ二人はイェルケルのもとへと駆けだしていた。

 大軍同士がぶつかり合うのに相応しい平原であるが、自然の作り出したものであるから当然起伏はある。

 この決して大きくない起伏を拾い、敵軍から見えづらいよう移動する。レアのすぐ後ろにはぴったりとシルヴィがついてきている。


『ふーん、シルヴィ、やっぱりやるね』


 レアは殿下商会の四人で競い合うように鍛錬を続けてきた。それと比しても遜色ないような訓練を、シルヴィは一人でやってきているということだ。

 実際のところは、シルヴィは四人を知ってからは常にこの四人を意識しながら訓練をしているので、ある意味共に訓練をしているに近いものがあるのだが。

 レアはイェルケルの方を見る。動きを止めたテオドルの首をイェルケルが刎ねた。

 魔法だかで大きくなっていたテオドルの身体が崩れ落ちる。

 まだ、大丈夫。

 レアは移動速度を上げる。イェルケルの表情をこの距離から窺う。見えない。イェルケルはこちらに背を向け、敵陣に身体は向いている。


『うし、でんかは油断してない。なら大丈夫』


 しばらくの間は、イジョラ軍もテオドルの敗北が信じられず呆然としているだろう。だが、我に返れば必ずや激昂する。

 そしてこの距離であっても、連中は怒りをぶつける術を持つのだ。

 程なくして、レアの予想通りに彼らは動いた。


「おのれ! よくも我らが勇士を! 貴様ら! 奴を生かして帰すな!」


 おおよ! とこの声に応え、イジョラ軍前衛部隊の魔法使いたちは一斉にイェルケル目掛けて魔法を放ってきたのだ。


『あっぶな、ぎりぎりだったっ』


 イェルケルの前に、シルヴィと二人で滑り込む。飛来するは炎、礫弾、氷矢、等々、いずれも剣で弾けるものばかり。もちろん、レアの技量あってのことではあるが。

 二人がこちらに向かっていることには気付いていたらしいイェルケルは、呑気な声で言う。


「少し怪我がきついんで任せちゃってもいいかな?」

「いいよ。魔法の剣、使うけどいいよね」

「ああ、よろしく。シルヴィ、すまないがもう少しこちらに付き合ってもらえるか」


 悪びれた様子もないイェルケルに、シルヴィは嘆息する。


「後で、将軍さんに一言謝ってくれたら、それでいいよ」

「あ、もしかして怒ってるか?」

「怒ってるのは、わ、た、し、だ、よ。もう、みんなに一言も無しで勝手なことばっかして。大事な戦なんだからそーいうのよくないよ、ホントもうっ」

「ご、ごめんっ。わかった。言われた通りにする。だから勘弁してくれっ」


 飛来する岩を蹴り飛ばしながら、シルヴィは再度ため息をついた。


「これ私知ってるよ。今は悪いと本気で思ってるけど、また同じような状況になったら絶対に好き勝手やっちゃうやつだ」

「はっはっはっはっは」

「はぁ~。殿下は比較的、しっかりしてると思ってたんだけどなぁ」


 レアは片手を開いて高速で飛んできた礫を、手の平で威力を殺しながら受け止める。


「でんかは、外面だけはいい」

「内も外もまるで繕う気のないレアが言うなっ」


 距離もあることから、雨霰と打ち込まれる魔法にも、レアもシルヴィも余裕をもって対応しているように見える。

 だが不意にレアの表情が真剣なものに変わる。

 イェルケルより預かっていた魔法の剣をレアは背負っていたのだが、これを片手で綺麗に抜き放ち、まっすぐそのまま振り下ろす。

 レアの眼前で、雷光が裂けた。

 そして、かなり苦み走った顔でレアは言う。


「しまった。まっすぐ前から斬ると、ちょっと痺れる」


 二つに裂けた雷光はレアの左右に分かれていったように見えたが、どうもこれがかすっていたようで。

 その一撃に、シルヴィが驚いた顔をしている。


「え、かみなりの魔法って切れたの?」

「ふふふん、魔法の剣があればこそっ。次はもう少し、上手くやる」


 雷の魔法は何せその速度が尋常ではない。なのだが、何度か見て、しかも今回のように距離が開いていれば、レアにも剣で払うなんて真似ができる。それも普通の剣ならば雷がすり抜けて終わりなのだが、この剣ならば雷をまっすぐ前へと導く魔法の誘導を断てるので、雷の魔法も弾くことができるのだ。

 敵陣に動揺が見られる。当たり前だ。数十発の魔法の雨が、事もなく全て弾かれてしまっているのだから。しかもその内の一発は、回避も防御も不可能と言われている雷の魔法であるのだ。

 再び、雷の魔法独特の閃光が輝く。一直線に伸びた輝きは、レアの眼前で斜め上へと軌道を変え空へと消えて行った。

 右手には普通の剣、左手には魔法の剣を下げたレアは、敵陣を見つめたままシルヴィに言った。


「シルヴィ。魔法の避け方、見せたげる」


 わざとらしく、できるものならやってみろと煽るように、レアはゆっくりと敵陣に向かい歩を進める。

 イジョラの魔法使いたちはというと、それどころではないようだ。雷の魔法を弾かれたというのは、それほど彼らにとって衝撃的な出来事であったのだ。

 何が起こったか、何が原因なのか、それらを話し合いだした彼らに、レアは右手の剣を大地に投げ差し、右手で誰にでもわかるよう、ゆっくりと手招きを見せてやった。

 戦場という大きな舞台であるからこそ、こんな単純明快な挑発にも乗らずにはおれぬもののようで。

 血の気の多い魔法使いが即座に攻撃を開始すると、残った者たちもこれに続き、開戦前だというのに派手な魔法戦が始まってしまう。

 魔法使いたちの中にも、幾人かはこれはさすがにやりすぎなのでは、といった顔をしている者もいる。まだ本陣から開戦の指示は出ていない。

 成り行きのままに始まってしまった一騎打ちは本陣も許したようだが、これはさすがに越権であろうと冷静に判断していた。ただ、一騎打ちは負けてしまったので、これをどうにかしようという者たちの考えもわからないでもないので、強く文句は言えないでいた。

 そして事態は、イジョラ軍の誰もが想像していなかった状況に陥っていく。


「なんだよ! なんで当たらねえんだよ!」

「当たってるだろ! ほら! 炎の魔法なら至近弾で十分なはずだろ! なのになんで動けるんだよ!」

「なんで誰も当てられねえんだよ! 距離あるけどこんだけ撃てば一発二発は絶対当たるだろ!」

「馬鹿な! 我が雷の魔法が当たらんだと!?」

「いや、あれ、何か途中で二つに分かれなかったか?」

「下手くそ共が! 俺の雷の魔法でもう一度……」

「おいいいいい! 今度こそ本当に曲がったぞあれ! あの女の目の前で上に逸れてったじゃねえか! 雷の魔法を逸らす魔法とか聞いたことねえぞ!」

「……いや、理屈上は可能だ。だが、雷の魔法の通り道に魔法を置いておく必要があって、それは正直現実的では……」

「っだー! もうなんでもいいから誰か当てろよ!」

「おいっ! こうなりゃ意地だ! 全員で一斉攻撃を仕掛けるぞ!」


 魔法使いたちの一団は一度攻撃を止めて皆で集まり、せーので一斉に魔法を撃つ。

 標的は一人。一騎打ちをしていたイェルケルと、レアと共に来ていたシルヴィは既に起伏の奥に隠れていて、見える場所にいるのはレアのみで、これが小憎らしい顔で笑っているのである。

 多彩な魔法による同時攻撃は、強力な魔法使いに対して用いられる最も一般的な対処法である。

 これは受ける方からすればかなり受けづらい、避けづらい攻撃方法で、近衛に名を連ねるような猛者であっても、多数の魔法使いに囲まれれば秒殺もありうるというのは、イジョラでは有名な話である。

 だが、当たらない。

 命中弾はある。これだけ何度も撃っていれば魔法使いたちの狙いも初弾よりはずっと命中精度も上がっている。なのに、当たらない。

 胸のデカイ女の振り回す剣が、命中するはずの魔法を全て弾いてしまうのだ。

 魔法弾を剣で弾くというのは、訓練を重ねた兵士が度胸試しとばかりに稀にやらかすことはあるが、実戦でこれを行なう者はほとんどいない。

 魔法には様々なものがあり、炎であったり、石であったり、氷矢であったりと、これら全て弾き方が違う。一緒くたに弾こうとすれば弾き損ねる率が跳ね上がってしまう。

 ましてや。


「だからっ! 同時に放った雷の魔法も弾くたぁどういう了見だドチクショウがあああああああ!!」


 一斉攻撃をしたのだから、魔法を放った後の魔法使いたちは皆がこれを全てかわしきったレアを注視している。

 レアは、両手に剣を握ったままで、彼らを見ながら大きく肩をすくめてやった。


「ぶっ殺してやらぁあのクソ女ああああああああああ!!」

「このままでは士気に関わる! 巨岩の魔法を使うぞ!」

「爆破魔法の使用許可寄越せ! ぜーーーーったいぶっ殺してやるぁ!」

「あーもうっ! 加減なんざしてやらねえ! 全開だクソボケが! あの世で後悔しやがれ!」

「いや、お前らちっと落ち着け。つーか開戦すらしてないのに全力で魔法使ったとか将軍に知れたら……」

「うっせーーーーーー! 殺す殺す殺しきるぁああああああああ!!」

「馬鹿野郎! あんな鬱陶しい奴残しておいたらとんでもねえことになんだろうが!」

「全魔法使いに命じる! ありったけの魔法であのクソ女をぶち殺せ!」

「隊長アンタもかああああああああ!? 誰か隊長止めろ! つーかお前らも止まれっつってんだろうがよおおおおおお!」





 くぼ地の中に避難したイェルケルとシルヴィ。シルヴィは持ってきていた包帯と薬とでイェルケルの怪我の治療を行なう。

 イェルケルは、戦場であるのだから汗やら土やらの匂いがすると思っていたのだが、すぐ側のシルヴィの髪からはきちんと女の子の香りがした。

 別段、不埒なことを考えているわけでもないのだが、なんとなく悪いことをしているような気がしてきて、顔の向きを変えた。


「うわぁ、結構深いね」

「アイツとやるといつもこうだ。首やられた前回よりマシだとは思うけど」


 手早く手当てを済ませると、シルヴィは少し表情を険しくして言う。


「今回はもう、戦、やっちゃ駄目だよ」

「いやだ」

「もうっ、傷口塞がるまでは大人しくしてなきゃ。本陣で控えに入る。いい?」

「……うーむ、とはいえ、本陣に居てもやっぱり戦出ることになりそうじゃないか?」

「まあね。でも、要所要所で入る形なら、負担もそれほどじゃないでしょ」

「おお、シルヴィも結構考えてるんだな。それなら了解だ。……っと、シルヴィ、あっちあっち」


 イェルケルが指差す先は反乱軍側である。そちらからシルヴィとイェルケルに向けて手で合図を送っていた。

 反乱軍内部でのみ通じる合図によると、もう前進していいか、である。

 確認するようにシルヴィがイェルケルをじっと見る。


「もう少し待ってくれ。今、レアがちょっと面白いことするから」

「あれ、本当に大丈夫なの? あの調子だと、そろそろ大きな魔法も使ってくるよ?」

「それを待ってるんだよ。まあ任せてくれよ。私たち、ああいうの得意なんだよ」

「知らない魔法、飛んでくるかもしれないよ?」

「私たちがこれまで、どんだけ魔法撃たれてると思ってるんだ。多分今、イジョラで一番魔法避けるの上手いのは私たちだぞ」


 自信満々のイェルケルに、シルヴィは納得したのか反乱軍に向け、待て、の合図を送る。

 そしてじっとレアの動きを見守るのであった。





 飛来する魔法を剣で弾く。

 これは、当たり前ではあるが飛んでくる物体の硬さを見誤ったならばすぐに剣が折れる。

 速さはそのまま重さに繋がる。高速で飛んでくる物体はそれだけで相当な重さになってしまうのだから、無造作に剣で斬るなんて真似をしていては絶対に受けるも避けるもできっこない。

 レアがやっているのは正確には、剣を当てて逸らす、である。

 イジョラと戦をするようになってから、レアはもう何百回もこれを行なっている。

 一斉攻撃を受けた場合、真っ先に飛んでくるのは細い刃状のものだ。

 これは単独でもそうだが、他魔法と同時に放たれると結構恐ろしいもので。他の魔法と比べて、距離の半ばでぐんと伸びてくるのだ。

 形状もこちらに刃の先端部を向けているようなものが多く、かつてレアが戦った『閃光』の魔法もそうであったが、標的が小さくしか見えず距離感が掴みにくい。

 この刃型の魔法は更に二種類に分かれており、一つはそのまま短刀がまっすぐ飛んでくるもので、もう一つは錐のような円錐状の刃が回転しながら飛んでくるものだ。

 特に後者は命中精度が異常に高く、かつ威力も高い。


『ていっ』


 とはいえ、レアの膂力からすれば誤差程度の認識でしかないが。

 六発の魔法が既にレアへと到達しているが、命中弾は二発。円錐状の刃は六発中一発のみなのに、命中弾の内の一発がこれなのだからその命中率は大したものと言えよう。

 次に飛んでくるのは小さな石、飛礫の魔法と炎の弾の魔法と氷の矢の魔法だ。氷の矢などは形状的に刃の魔法と同じような速度で飛べそうなものだが、何故かここに属している。その不思議は未だにレアには解明できていない。

 こちらも大きさ的にはそれほど注意するようなものでもなく、炎も氷も剣が触れるのが一瞬であれば燃えたり冷えたりもしないので、問題はない。

 そしてここから僅かな間を置いて、直線軌道ではなく弧を描く魔法が飛んでくる。

 大きな岩など重量のあるものはまっすぐ飛ばすことができないようで、そのうえこの手の魔法は命中精度も悪い。当たり難さを飛ばす物の大きさで誤魔化しているようなものだ。


『よし、一つ、試すっ』


 一発目は激突時噴き上がるだろう土砂を嫌がって左方へ飛び、二発目は狙っている炎弾だ。これの着弾予想地点の上に飛ぶ。

 炎弾は大地に落着すると、大きな音と共に爆発する。


『おっ、おっ、おっ』


 空中にあったレアの全身が更に浮き上がる。右足の裏をこの爆発と平行になるよう構えていたので、この場所が一番よくその衝撃を受け止めている。

 足を頭上に振り上げるようにして縦に半回転。

 これにより、他多数の爆発したり土砂を噴き上げたりする落着物の範囲より逃れる。

 レアとしてはほぼ完璧に敵の攻撃を制したつもりであった。だが、魔法使いたちはまた別の受け取り方をしたようで。


「おい! 爆発の魔法! 後少しだったぞ!」

「つーかあれもう当たってたろ! 運よく空中に身体があったから衝撃逃がせただけだって!」

「そうだよ! 当たらないならデカイ範囲全部吹っ飛ばしちまえばいいってな!」

「おい! 爆発の魔法使える奴集まれ! 次で完璧にしとめてやる!」


 前から気になっていた、爆発の魔法では衝撃が主であり破裂したことによる破片の飛来ということがほとんどない、ということから、これに乗るってできるんじゃないかと考えていたレアは、実証ができて満足気であったが、すぐに敵から次の魔法雨が降り注いでくる。


『へ?』


 レアならばこれがなんなのかすぐに見抜ける。全て、爆発の魔法である。それだけで数十発。


『ちょっ!? 嘘っ!』


 爆発の魔法は避けることが難しい。一発一発の効果範囲が広いせいだ。また爆発の際、地面の上の石やらが飛んでくることもあって読み切れない部分もあるので、あまり受けたい類の魔法ではない。

 せめても爆発の魔法は弧を描いて上から降ってくるような魔法なので、時間的余裕がもてるのが救いか。この程度の僅かな差を余裕、と言えるのはレアのような時間域に住まう怪物のみであろうが。

 同時、だが、着弾には時間差がある。全て同一規格の製造品ではなく、人が都度作り上げ人が操るものであるのだからそれも仕方のないことであろう。

 否も応もなく、レアは新たな機動を試さねばならなくなった。

 高く上へと跳躍する。その前下方より最初の爆発がレアを襲う。両足を揃え、両の足裏で衝撃を受け止め、大きく後方へと飛び下がる。

 この爆発より前方に着弾したものはほぼこれで無効化した。残るは半分ほど。

 空中で緩やかに宙がえりをしていたレアは、腰を振り回すことで回転速度を上げる。二弾目がきた。

 こちらはレアの真下の位置だ。これは右足の裏のみで受ける。回転速度を速めても片足のみしか間に合わなかった。

 靴の裏には、ここでも武器を受け止められるような分厚い皮と鉄板を入れてある。レアの左足が再び勢いよく跳ね上がる。二回転目は斜めに軸がずれているので視界も揺れて気持ち悪い。

 そして三発目、四発目の爆発を高く舞い上がったことで回避しつつも、五発目は、なんとこれまた弾き飛ばされたレアの真下。


『こんっ! にゃろっ!』


 今度は弾かれる足に力を込め、全身を固定しつつ、衝撃に対し踏み出すように足を突き出す。

 すると、レアの身体は衝撃を足場に爆発の範囲から逃れるように飛んでいく。レアは三回転目にしてようやく意思を持った跳躍を行なえたのだ。

 レアの頭にあるのは、空中を蹴って空を飛び続けていた、カヤーニ山頂研究所の近衛の姿だ。

 彼がそうしたようにレアはその後三発分、爆発する魔法を足場に空中を飛んで回った。

 全ての爆発が終わると、レアはくるくるりと回りながら綺麗に着地。

 ここまでくれば魔法使いたちにもわかる。レアは爆発に吹き飛ばされていたのではなく、爆発に自らの意思で乗っていたのだと。

 馬鹿丁寧にお辞儀をしてやると、彼らに僅かに残っていた疑念は確信へと変わった。これは、少なくとも今の距離で放てる攻撃魔法でどうこうできる相手ではないと。

 それはちょうどイェルケルが了承し、シルヴィが反乱軍へと合図を送った時のことで。

 反乱軍側から大きな大きな声が聞こえた。


「見たか諸君! あれが魔法だ! あの程度が魔法だ! 一騎打ちを見たか! 魔法の嵐を見たか! その全てを打ち砕く! 我らが戦士の雄姿を見たか! 魔法使い恐るるに足らず! 魔法使い恐るるに足らず! 全軍! 前進せよ!」


 遂に、反乱軍対イジョラ正規軍の決戦が始まるのだ。


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