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無双系女騎士、なのでくっころは無い  作者: 赤木一広(和)
第二章 アジルバ市街戦
20/212

020.スティナさん的お手軽簡単情報収集


 スティナがイェルケルとアイリに怒ったのは、怒りのままに爆発し後先考えず暴れて回るような真似をしたからだ。

 なので別段、アレらを斬ったこと自体には文句などない。あのような人間の屑共が何人死のうと知ったことではなく、もしあの中に善人が居たらなどと言われても運が悪かったわね、で済ませるだろう。

 恨まれたらどうするか? それを気にするぐらいならそもそも戦場だろうとどこだろうと人を斬るなんて真似ができようか。


「ねえ、そこ通してくれる?」


 スティナが声をかけたのは、アジルバの街の貧民街にある一軒の宿。見るからにガラの悪そうな男が店番をしている宿の、一階奥の部屋へと繋がる扉の前に立つ筋骨隆々とした二人の男に向かってだ。

 その部屋には扉の前に陣取る二人の男と店番の三人。

 扉の前の男が驚いた顔で口を開いた。


「おっと、こいつはとんでもねえ上玉だな。だがな、悪いがこっから先は許可の無い奴ぁ通せねえことになってんだ。どこの旦那の女か知らねえけど、用があるんなら出てくるのを待つんだな」


 扉の前にいるもう一人の男が下卑た顔になる。


「そうそう、それまで暇だってんなら俺が時間つぶしに付き合ってやってもいいぜ」

「おい馬鹿よせ。コイツの顔見りゃどんだけ高いかわかんだろ。下手すりゃ手を触れただけで殺されかねねえぞ」

「チッ、おめーはいつもそうだ、冗談のわかんねえ男だよ」

「冗談で首を切られた馬鹿を何人も見てきたんでな。いいからお前は口を出すんじゃねえ」


 舌打ちしつつ引き下がる。スティナはにこにこしながら、最初の男の顔に向けて手を伸ばす。


「手を触れるって、こうかしら?」


 スティナの右手が男の頬に触れた瞬間、男の顔がその場で首を軸に勢い良く二回転する。

 直後、スティナの左手が後方に向かって振り上げられ、その手の内より放たれた短剣が店番の男の額に突き刺さる。


「て、てめっ……」


 それ以上の言葉を発することもできず、残った男は顔が真上を向くように首をへし折られた。

 スティナは鼻歌交じりに倒れた男二人の襟元を掴んで引きずり、店番の男がいたカウンター奥の部屋に二人を放り込み、店番の男も同じようにカウンター奥の部屋へ。

 掃除用具入れから雑巾を取って僅かにこぼれた血を拭き取ってから、宿のドアと窓を全て閉め切り鍵をかける。

 乗り込む直前に見た感じ、一階に後三人、二階に七人いる。

 まずは一階から、と一階厨房で食事の仕込をしていた男女二人を素手で音も無く殺害。仮眠室で寝ていた男も殺して一階は終了。

 二階は少し面倒だった。四人の男が一部屋に集まって何やら賭け事に興じている。これを後回しにして、残る寝ている三人を先に始末する。

 一階、二階と既に制圧済みなので、最後の部屋は少し大きな音も許される。

 スティナは堂々と、部屋の入り口から中へと入る。


「あん?」

「おう、どうした? ……って誰?」

「そんなのいいからさっさと振れよ!」

「……嘘だ、今日は絶対厄日だちくしょー」


 すたすたと歩み寄り、男二人の間に立ち両手を伸ばし、右手と左手でそれぞれの男の首を掴んで力を込める。

 篭るような鈍いような音が響き、男二人の首が握り潰される。

 残る二人の男が驚きに目を見張っている間に、スティナの体は宙を舞う。手では届かない距離、まずは右の男の頭の先を蹴る、その反動を利用して左側の男を逆の足で蹴り抜く。

 蹴り飛ばしてしまわないよう気を使ったおかげで、蹴られた男二人共、その場で首を折られて崩れ落ちる。

 ほっとして息を吐くスティナ。この中に一人でもきちんと鍛えている者が居たなら、こんな簡単にはいかずもっと大きな音を立ててしまっていただろうから。

 スティナの考えるきちんと鍛えている者の基準に達しているようなバケモノが、そうそう居るはずもないのだが。

 そのまま二階の窓も全て閉じたスティナは、さて、と一階の奥へと続く扉へと。開くのに結構な腕力がいったが、スティナにとってはまあその程度で済んだ。実はスティナは鍵開けも得意なのだが、それが通じない類の扉もこうした厳重な造りの扉にはあるのだ。

 これを開くと、その先には地下へと通じる階段があった。


「この手の建物ってどこも一緒ねぇ」


 そんなことを呟きながら地下へと降りていく。壁には火が灯っており、階段を降り切った先の通路も明るくなっていた。

 地下に部屋は四つある。スティナが耳を澄ませながら進むと、左前の部屋からは複数の人の声が聞こえてくる。

 右奥の部屋からも声は聞こえてくるが、これは恐らく悲鳴の類であろう。残る二部屋から音は無し。先に音無しの部屋をスティナは確認する。

 右前の部屋、応接室のようだが中に人はいなかった。左奥の部屋、ガランとした何も無い部屋だが、部屋に染み付いた人間の本能に基づく行為独特の臭いが、ここがなんの部屋だかを教えてくれた。スティナは肩を竦めるのみで外に出た。

 しかしスティナの度胸はどうだ。まるで我が家を歩くかの如く、気負いもなく隠れ潜む動きすら見せない。だが、足音は全くせず、ドアを開ける時も最低限の音で済むようにしている。

 悲鳴を発する部屋には、悲鳴のリズムに合わせて扉を開けると、すぐに自分をその中に滑り込ませて後ろ手に扉を閉める。扉を開いた状態で悲鳴が発せられると、別の部屋に居る者に悲鳴の声量が違うことで扉を開いたことがバレるためだ。

 三分後。悲鳴の主も、悲鳴をあげさせていた者も、等しく沈黙しており、スティナは二人より多少の情報を得た。


『んー、この辺りで一番の顔役の根城ってのは合ってたけど、領主子飼いの連中に頭上がんないのか~。それだと大したこと知ってそうにない、かな』


 そう、スティナはアジルバの街で犯罪者たちを仕切っている者の根城に乗り込んだのだ。

 こうした者たちは自分たちが生き残るために、より強い者の動向に敏感であるのだから、当然様々な情報を手にしているだろうと期待してのことだ。

 もちろんスティナはここの関係者とは一度も会ったことはなく、当然利害関係も存在しない。なので、目撃者全てを消せば絶対に足は付かない。

 情報収集のためだけに全員を殺害したなんて正解に辿り着きそれを基に捜査をしたいなんて言い出した捜査員が居たとしたらきっと、その者は即日解雇されてしまうだろうて。

 スティナは最後の部屋を、やはりこれといった緊張もなく開いた。


「ん?」


 部屋はこちらも応接室のようだ。低いテーブルを囲むように大きなソファーが二つ。うちの一つは入り口から入ってすぐ座っている者の顔が見える位置、もう一つはその対面だ。

 スティナの顔がすぐに見えた初老の男は、いぶかしげな顔を向けてくる。そんな男の顔を見たスティナから背を向ける形でソファーに座っていた男はこちらを振り返る。

 振り向いた男は中年の男でこうした場所に似つかわしくない随分と上等な衣服を着ていた。

 少し考えた後、スティナは訊ねる。


「もしかして、手前の貴方、貴族?」

「おい、コイツはなんだ?」


 そう身なりの良い男が初老の男に振り返って問う。そんな致命的な隙を見せたのも、ここが彼にとってはよほど安全だと思える場所であったからだろう。

 初老の男が警告を発する前に、スティナはすいっと男の隣に移動し、ほいっとばかりに彼の足を蹴る。

 少しの間を置き、絶叫が上がる。この時にはもうスティナは初老の男の前に。彼もまた反応し懐より短剣を抜いていたが、スティナは手首を掴んで握り折り、二つの膝を順に蹴飛ばし動きを止める。

 そこからは速い。二人の両手足を折った後、それぞれの衣服を破って猿轡を作り、動けない二人を引きずって先程見つけた拷問部屋へと。

 スティナは各種取り揃えてあった器具を用いて、やはり鼻歌交じりに色々と気になったことを訊ねてみた。

 紆余曲折をさておけば、スティナは概ね満足できる情報を得ることができた。

 初老の男は、弱弱しくスティナに問うた。


「アンタ、本当にそんなどうでもいい話を聞きたかったんか? それなら別に、ワシらである必要、どこにも無かったんじゃないか?」

「心の平穏って大事でしょ。悪いことしてる相手なら、何をしたって良心が咎めるようなことないじゃない」

「ば、馬鹿、な。ワシらは、確かに人に褒められるようなモンじゃあねえ、でもな、ワシらがおるからこそ、世の中って奴ぁ穏便に回ってるんじゃ。ワシらのような最後の受け皿が無きゃ、どうしようもねえ底辺の人間は生きてくことすらできやしねえ」

「ふふっ、それがそんなにも大事なものだっていうんなら、ほっといてもまた誰かが代わりにやってくれるわよ」


 取り付くしまもない。

 スティナは、身なりの良い男に顔を向ける。彼は器具を使うまでもなく全てを涙声で話してくれる。


「お、俺はバルトサール家にもう十年仕えている騎士だ! お、お主ほどの圧倒的な技量があれば、きっと領主様も召抱えてくれよう、お、俺が強く推薦してやるぞ。どうだ! 領主様ならば報酬はお前が考えもせなんだ額を用意できよう! どうせ殺しの仕事なんて危ないことをするのなら! 領主様のような大きな方にお仕えした方が良いぞ!」

「召抱える? なんでまた…………ってちょっと待ってよ。え? 殺しの仕事? もしかしてアンタ、私のこと殺し屋か何かだと思ってる?」


 身なりの良い男は目をぱちくりと瞬いた。

 スティナは、眉根を寄せて剣を手に取る。


「あー、もういい、殺すわ。……まったく、誰が殺し屋よ」


 世界中からつっこまれそうな台詞と共に剣を身なりの良い男の首筋に当てると、男は可哀想なほどに震えてしまう。


「待て! 待ってくれ頼む! 私は騎士だ! 私の言葉には証言能力がある! い、今から国にとって重大な秘密を教えるから、どうか、待ってはくれぬか!」

「あーはいはい、遺言はそれで終わり?」

「だから待ってくれと言うに! ば、バルトサール侯爵の閲兵式はな! カレリアへの反逆の布石なんだ!」

「は?」

「お、俺はずっと侯爵に仕えていたからな、侯爵がよく愚痴っているのを聞いてるんだ。今のカレリアはイカン、正しいカレリアへと戻らねばってな! ど、奴隷法なんてものがあるからイカンといつも怒っておられた!」

「長い、そろそろ帰りたいんだけど」

「ほ、他にも貴族たちが集まってカレリアへの不満を言っていた! たくさんだ! たくさんの貴族が皆カレリアはイカンと言っていた! きっと反乱を起こすつもりなんだ! お、俺が証言する! お前の手柄になるぞ! きっと素晴らしい恩賞がもらえよう!」

「終わり?」


 全く興味を示さぬスティナに、男は涙ながらにその場に崩れ落ちる。


「頼む、頼む、殺さないでくれ。まだ死にたくない。俺はまだ……」


 スティナはにっこりと笑う。


「だめー」


 男の首をかすめるように剣を引くと、驚くほどの血が首から噴き出し、男は床に倒れ痙攣を始める。


「だって貴方。きっと死んだ方がたくさんの人が幸せになれるでしょうから、ね」


 大量の噴出した血にも、当たり前にその全てがかからぬ位置を確保していたスティナは、初老の男を見る。

 そして結構真面目な顔に戻って問うた。


「反乱って本気?」

「……生き残りたいがためのでまかせじゃろ」

「うん、私もそう思う。けど、何かこう、聞いてみたら、これ、ぴたっとはまるもの無い? あまりに不自然すぎる閲兵式への答えとしちゃ、案外矛盾は少ないと思うのよね」

「なあ、アンタぁ、どうも嬲る趣味はねえみてぇじゃ。ならそろそろ、一思いにやっちまっちゃくれねえか?」

「協力してくれないのかしら?」

「馬鹿言え、アンタ俺が何言おうとこの場で殺す気じゃろうに。それにこれ以上知ってることもねえしな。いい加減、年のせいか痛いのも我慢できなくなってきてるんじゃ」

「反乱、本気だと思う?」

「……本気の反乱は、少し前に潰されたんじゃろうよ」


 少し前と言えば、サルナーレの戦いしかない。反乱を考えていたのだとしたら、確かにこの時の反乱が連動してないと考えるのは不自然だ。

 そのうえで、まだ諦めずに次を狙っているということなのだろうか。


「にしたってねえ。そもそも勝てないでしょ、反乱起こしたって」


 初老の男は小馬鹿にするように言う。


「ここは辺境領とは違うし、バルトサール侯爵は宮廷に山ほど味方がおる。侯爵ならば武力鎮圧を受けることもあるまい。兵を引くのを条件に宰相閣下より妥協を引き出そうというところじゃろ。交渉の狙いとしてはさっきそこの馬鹿がぬかしておった奴隷法辺りがクサイとワシは思うがの」

「……色々と詳しいのね貴方」

「生かしておく気になったかの?」

「うん」

「嘘つけ」

「うん」

「どっちじゃ。……そろそろ頼むわい」

「最後に一つ、何か話してよ。できれば私が気持ち良く貴方を殺せるよーなのお願いっ」

「良かろう。ワシの最後の家族の孫娘二人がな、揃って侯爵に持っていかれてしもうての、二人がその後どうなっていくのかを侯爵自らがワシに実演して見せてくれたんじゃ。あの時誓った想いを考えるに、侯爵がどこかで楽しそうに過ごしていると思うと、実に無念じゃの」


 本気で嫌そうな顔をするスティナ。


「サイテー」

「ざまぁみろじゃ」


 からからと笑う初老の男の首を、スティナはすぱりと切って落とした。

 ここまで付き合ったのは、かなり本気でこの男をスティナが気に入っていたせいであろう。


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