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190.クソビッチさんの戦争準備


 パニーラ・ストークマンは丸二日の間馬を走らせ続けた。この間使い潰した馬は十頭になる。

 パニーラにはきちんと良馬を見る目があるので、普通に走らせる分にはここまでにはならない。パニーラは騎乗した全ての馬に、身体強化の魔法を用いて限界を超えた走りをさせ続けたのだ。

 もちろんこの間パニーラは魔法を制御していなければならない。それ自体はそれほどの手間でも苦労でもないのだが、二日間、高速で駆ける馬に乗り続けながらそうするのは、身体を徹底的に鍛えてあるパニーラであっても、二度と経験したくないほどに辛く苦しい道行きであった。

 南部の街に辿り着いたパニーラは、地面の上にだらしなく寝転がりながらぼやいた。


「……向こう十年、食用肉以外の馬は見たくねえな……」


 絶世の美女、口調はチンピラ、地面に寝転がって平然としている、などと、とてもお偉い誰かには見えぬパニーラであったが、駆け込んだのはパニーラの顔を見知っている者のいる場所で、手にはエルヴァスティ侯爵の命令書を携えているのだから、彼女がぶっ倒れる前に指示した命令に街の兵も魔法使いも皆即座に従った。

 街の入り口、門のすぐそばにパニーラはだらしなく寝転がっていて、その周囲に門を守る兵士が数人、これを遠巻きに見てびくびくしている。

 そんなパニーラのもとに騎馬が二十騎、かなり急いだ様子で駆けてきていた。

 その馬音を聞いて半身を起こしたパニーラの目が細まる。


『見たくねえって言っただろうが……』


 と、ここで理不尽に怒鳴り散らしていたのが以前のパニーラである。だが、カレリアから帰還した新パニーラは一味違う。


「……俺の分の馬車はどうした?」


 騎馬隊の先頭の男が不思議そうな顔をした。


「あれ本当にパニーラ様の指示だったんですか。珍しいこともあるもんですね。おい、悪いがやっぱり馬車いるんだそうだ。一台回してくれ」

「お前……」

「いや申し訳ない。パニーラ様が馬車に乗るとかあまりに驚天動地の出来事でしたので、ありえんと笑い飛ばしてしまいましたわ。はっはっは」

「……てめぇ……」


 そこでまた男は首をかしげる。


「パニーラ様、何かありましたか? いつものパニーラ様ならほら、とっくに怒鳴り散らしてるところだと思うんですけど」


 こめかみのあたりを指で押しながら、パニーラは頬をひくつかせ答える。


「俺はなあ、もう大人になったんだよ。そんな小せえことで喚いたりゃしねんだ。いいからさっさと馬車もってこい。股が痛くてもう馬乗りたくねえんだよ」

「また男漁りですか? 股痛くなるまでとかどんだけやりゃそんなことになるんですか」

「うーまーに! 丸二日も乗り続けてりゃ誰でもこーなるわ! 人がせっかく真面目に軍人やろうってのにくっだらねえことで人の忍耐試しに来るんじゃねえええええええ!」


 怒鳴るパニーラにも男はけらけらと笑うのみ。恨みがましい顔でパニーラは男に言う。


「……お前、反乱軍討伐に連れていってもらえなかったの、絶対その口の悪さのせいだよな」

「それ、本気でへこんでるんっすからあんま言わんでください。まあ、おかげでデカイ手柄立てられそうではあるんっすけどね。けけっ、ざまー見ろってんだ」

「一万二千相手に呑気な奴だな」

「パニーラ様がいるってんなら、街はやられても負けるはありえねえですしね。なら、後は生き残りさえすりゃ手柄の山ってなもんでさ」

「悪いが今回ばっかりは大して勝ち目ねえぞ。万超える軍なんざ、俺でもできて嫌がらせ程度だ」


 男は怪訝そうな顔に。


「……本当に、どうしちまったってんですか? 勝ち目のないクソ戦に、わざわざ二日もぶっ通しで馬に乗るなんて真似までして来るなんざ、まるで噂に聞く民想いで慈悲深いアニタ王女みてえじゃねえですか」

「何が腹立つって、コイツが本気で不思議に思ってるってことだよな……まあ、確かに今までの俺のしょぎょー考えりゃ無理もねえけどさ。いいかよく聞けよクソ野郎。今回の戦じゃ手柄なんざありえねえよ、おめーらの仕事は文句言ったり駄々こねたりする街の平民共を脅して怒鳴って避難させることだ。わかったか、わかったんなら馬車来次第さっさと出るぞ」

「うーわ、顔がマジだわこの人……あー、俺急に腹痛くなったんで、ちょっと席外していいっすかー」

「いいわきゃねえだろ! 俺から逃げる度胸ねえってんなら黙って言う通りにしやがれ!」


 男はわははと笑い出す。


「それそれ、やっぱパニーラ様はそーやって怒鳴っててくんねえと調子出ねーっすわ。おっし、お前ら気合い入れていくぞー。イジョラの魔女と一緒に戦できる機会なんざそうねえんだから、みっともねえところ見せんじゃねーぞー」


 なんでこんなめんどくさい男が残ってんだよ、とパニーラが愚痴っている間に馬車の用意が済み、すぐに街を出発する。

 そしてものの一時間も経たず、馬車の中から悲鳴のような声が響く。


「ケツ! ケツ超いてええええええ! なんだよこれ! 馬車ってもっと乗りやすいもんじゃねえのかよふざけんな! クッソ! 跳ねんな! 揺れんな! がたがたすんなあああああああ!」


 貴人を乗せゆっくりと道を進む馬車ではないのだ。疾走する騎馬に合わせて馬車を走らせれば当然こうなる。

 騎馬隊の隊長の男は、それはそれはもうこの上ないほど愉快そうに笑い転げるのであった。





 あまりにケツが痛いので、結局馬車の中で立ちっぱなしのまま目的地にたどり着いたパニーラ。これでも馬に乗るよりはマシであったので、文句を無理やり飲み込む。

 ここは現在の対帝国侵攻部隊最前線に当たる街だ。

 住民は、気の利いた連中は避難済み。察しの悪い奴らがまだもたもたと街中に残っている。

 パニーラは彼らを見て呆れ顔で呟く。


「侵攻受ける度思うが、どうしてこう民って奴ぁ頭が悪いんだ? しかもコイツら、いざ敵が目の前に来たらめちゃくちゃびっくりした顔して死ぬんだぜ。ずっとそう言ってるってのに何考えてんだか」


 騎馬隊隊長は肩をすくめる。


「村程度の大きさなら皆速攻で逃げ出してくれんすけどね。このぐらいの規模の街になると動かせない資産持ちも多いですし、なかなか踏ん切りがつかねえんじゃねえですかね。ギリギリで侯爵がどうにかしてくれるだろうと」

「それができねえから避難しろっつってんのにな。あー、イヤだイヤだ。んじゃ避難勧告は任せる。俺ぁとりあえず敵さん見てくるわ」

「何ならそのままぶっ殺してきてくれて一向に構いませんぜ」

「そうやって指揮官様を危地に放り込もうとするんじゃねえ。ま、敵将ぐらいは確定させてきてやっけどさ」


 最前線勤務が年齢に比して尋常ではないほどに長いパニーラは、国境付近に配備されている敵国の将や他国の有名所は概ね頭に入っている。

 いつものド派手な衣装ではなく、まるでボロ切れのようなだぶだぶのフードで全身を覆ったパニーラは、股の内側をさすりながら馬に乗る。


「あーくそ、まだ痛ぇ。どんだけ兵が集まりそうか、俺が戻るまでに正確な数出しとけよ。んじゃな」


 言いたいことを言ってパニーラは馬を走らせた。斥候なぞ下っ端の仕事である、とする者もいるのだが、少なくともパニーラはそうではない。

 むしろパニーラにとって斥候とは、その軍で最も優れた戦士が行うべき重要重大な任務であり、それは大抵の場合においてパニーラ自身である。

 本来指揮官である者がする任務ではないのだろうが、現在集まっている兵の中で最も優秀な斥候はパニーラであり、次点の騎馬隊隊長はどちらかといえば騎馬の指揮を得意とする者なので、やはりパニーラが行くしかないと考えたようだ。

 馬は街道に沿って街を離れるとしばらく田園地帯を進み、鬱蒼とした森の中へと。

 森の中にも街道が通っているのは、エルヴァスティ侯爵が通商の利便性を上げるためにそうしたもので、年に二回整備が必要なこの街道を税金を投じて維持し続けている。

 商人たちにとってはこの上なく素晴らしい施策であろうが、こうして敵の侵攻を受けるとなればそうも言っていられない。敵軍はイジョラの税金で整備されたこの街道を悠々と通ってくるであろうから。

 森の中の街道を馬で走りながら、パニーラの集中力は戦時であるかのように研ぎ澄まされていく。


『まだ、敵は森に入ってねえ、な。ありがてえ話だが、さて、行軍が遅れた理由はなんだろうかね』


 パニーラの計算では既に敵軍は森の中に入っていてもおかしくはないはずであった。だが、森から感じる気配は軍が入っているとは思えないもので。

 用心の為、森の半ばでパニーラは馬を放棄する。

 ここからは徒歩だ。

 森の中を、草木をかき分けながら進む。

 森の音に耳を澄ましながら、草木の動きに注意を払う。

 聞こえてくるのは常の森と変わらぬ、緑なす賑やかさだ。警戒心の強い森の鳥獣が慌てふためく音は聞こえてこない。

 パニーラは危険を承知で、森の木をよじ登り、慎重に踏みしめる木の枝を選んだあと、下方に小さく息を吐く。

 跳躍の魔法によりパニーラの全身が、枝を蹴り風を切って上昇する。入り組んだ枝を突き抜け生い茂った葉天井の上へと飛び出す。

 森の上へと飛び出したパニーラは目星をつけていた方角に目を向ける。居ない。いや、更にずっと奥に銀の線が見えた。


「おいおいおいおい、幾らなんでも遠すぎだろ。予想下限から更に丸一日分はズレてやがる、どうなってんだ」


 パニーラが予想していたよりずっと行軍が遅い。この森の中で嫌がらせができれば最高、と考えていたので願ったり叶ったりであるが、予想外の動きの理由がわからねば並の斥候程度の働きでしかなかろう。

 再び森の中に戻ったパニーラは、森の端を目指して移動を始める。

 もちろん警戒度は変わらない。パニーラが敵軍指揮官であったなら、まず間違いなくこの森に斥候を放っているだろうから。

 しばらく森を進むと、パニーラの耳にソレが引っ掛かった。

 鳴き声だ。警戒を促す鳥の声。それ自体は自然界でも起こり得るが、通常この種の鳥が警戒の声を出す時は、同時に聞こえる羽音がもっと重なって聞こえるものだ。

 基本、派手好きで目立ちたがりなパニーラであるが、地味な斥候も大の得意分野である。幼い頃より戦場に出ていたおかげで、こうした知識を得る機会は多かったのだ。

 パニーラが指揮官として優秀と言われるのは、この手の兵士の仕事を熟知しているということもその理由であろう。

 森の中を音もなく走るパニーラ。足元の悪い森の中でこんな真似ができるのだから、パニーラが魔法だけの人間ではないということがわかろう。

 その集団を見つけたのは、街道から少し外れた場所だ。木々が林立しているが、比較的歩きやすい場所を進んでいる十人組。

 帝国の兵士らしい安っぽい革鎧を身に着け、剣の他に鉈を持っていてこれを使って藪を切り裂き進んでいる。

 周囲の地形を考え、パニーラはコイツらの目的を察する。街道に対し、待ち伏せに適した崖があるのでこの安全確認を行なおうというのだろう。

 となれば、もう少し我慢して森の中に招き寄せてから殺すのが良い。街道側には別動隊が残っている可能性もあるからだ。

 十分な距離を取った、そのうえで全員を一度に視認しやすい多少開けた場所に十人が差し掛かったところで、パニーラは仕掛けた。

 パニーラの魔法により、十個の光の弾丸が同時に放たれる。

 二人が即死。六人が致命傷。一人は急所を外れ、もう一人はなんと剣で弾かれた。

 手強いのが混ざっている、と舌打ちしたパニーラであったが、その手強い男の首が宙を舞うのを見た。


『なんだあ!?』


 急所を外したもう一人も袈裟に斬り倒される。そこでようやくもう一人の姿を視認する。

 小柄な、少女だ。パニーラと同じ、森の中で保護色になるようなくすんだ色のフードで全身を覆っているが、戦闘の動きで顔を覆うフードの隙間からその顔を見ることができた。

 驚くほどの美少女だ。自分のことを棚に上げ、パニーラはそんな美しい少女が敵を躊躇なく殺していく姿に、何ともいえない違和感を覚える。

 だが、状況判断を誤ることはない。


『味方、か? まあいい、まずは……』


 パニーラと少女が同時に振り向く。致命傷を負ったと思われた兵が一人、猛然と駆け出したのだ。

 その背に光弾と短刀が同時に突き刺さる。その瞬間、パニーラの目が鋭く細められた。


『この野郎、俺より速いだと?』


 ほんの僅かではあったが、敵兵の動きに対する反応速度は少女がより勝っていたのだ。

 パニーラは険しい表情のままでその少女、アイリ・フォルシウスの前に歩み進む。

 アイリもアイリでつまらなそうにパニーラを睨み返す。パニーラはアイリの前に立ち、にたりと笑った。


「やるじゃねえか。どこの部隊だ?」

「軍ではない、傭兵だ。貴様も大した魔法を使うのだな、恐れ入ったぞ。イジョラの正規軍か?」

「おう、エルヴァスティ侯爵直属だ。どっかの街に雇われてるってんなら、俺の指揮下に入ることになるぜ」

「お前の、か? 指揮官がこんな所にまで来たと?」

「まだ全然人数揃ってねえんだよ。気合入った斥候やれる人間がいねえもんで、仕方なく俺が出張ったって話だ」


 苦笑するアイリ。


「なんだなんだ、随分と頼りない話だな」

「そう言ってくれるなよ。さすがに今回の奇襲ばかりは誰にも予想なんざできなかっただろう」

「まあ、な。よし、では敵軍の情報、こちらで調べた分は全てお前に譲ろう。なに、礼には及ばん。金貨の数枚でも用立ててもらえればそれで十分だ」


 ぷはっ、と噴き出すパニーラ。


「そいつは情報の中身次第だな。だが、俺ぁ侯爵から軍の指揮権だけじゃなく街への命令権も頂いてる。こっちの財布の心配はしなくてもいいぜ」

「大っ、変っ、結構だ」


 敵軍の陣容、これまでの行軍経路、糧食の量や補給路など、基本的な内容から、兵士たちの士気や疲労度なんてところまで調べてあり、全ては口頭であったがパニーラが欲しいものはこれだけでほとんど揃ってしまった。

 だが、聞かされた話の中には、思わず声を出してしまうような話も。


「はあ!? 国境警備隊が帝国軍に突っ込んだだあ!?」

「うむ。帝国軍に襲われた街だ。これを見捨てることができず、五百の兵が暴走したらしい。跡形もなく木端微塵であったと聞いている。ただ、そのせいか帝国の行軍が慎重になっているな。己の土地を守るために戦う兵士は、とんでもなくしぶといからな」

「どんだけしぶとかろうと一万超えの軍相手に何ができるってんだよ。どうせロクに損害も与えず全滅だろ?」

「これを私に伝えた者は、彼らの雄姿を誇らしげに語ったものであるが、まあ、損害はほぼなかったであろうな。とはいえ、かなり運頼りであろうと帝国軍の行軍をあの数で遅らせられたのは、武勲と呼んでやってもいいのではないか」

「……それより五百の兵のがいい。それも魔法抜きでも必死に戦ってくれる兵とか、そんな良い兵なんだってそうやって無駄遣いしやがるんだよ……」


 ああ、やはりかと頷くアイリ。


「なるほど、やはり魔法使いはおらなんだか。……万の軍相手に怖れず突撃していく勇気は認めてやるが、ほんの僅かでも軍務を学んだ者ならば絶対に選ばぬ選択肢であったからな」

「まったく、毎度のことだが戦争って奴ぁどうしてこう嫌な方嫌な方に話が進んでいくかねえ。情報はそんなところか?」

「今、相棒が敵軍に潜入してるところだ。奴が戻ってくればもう少し色々と……」

「はあ!?」

「な、なんだ?」

「いや、敵軍に潜入って……」

「私も奴も、そういうのが得意でな。まあ戻ってくるまでもう少しかかるから、お前も一度帝国軍を見ておけ。案内しよう」

「お、おう。……そんな便利な魔法使える奴、まだこの辺に残ってたのか? だとすりゃありがたい話だが」


 立ち上がり森の外れに向かって歩き出すアイリ、その後をパニーラは追う。アイリは振り返り言った。


「嫌な話ばかりでもないだろう?」

「ああ、そうだな。俺ぁ使える兵士はいつだって大歓迎だ。金もあるからせいぜい役に立ってくれよな」


 任せろ、と気安く請け負ったアイリは、帝国軍が視認できる場所までパニーラを案内する。

 森の外れにある大きな木の上まで登ると、野営の準備を始めている帝国軍一万二千がよく見える。

 パニーラは嘆息する。どこからどう見ても軍である。間抜けが指揮をしている時特有の歪な布陣も見えなければ、部隊構成に偏りもない、兵の武装も必要十分なもので、一目見ただけでは全く付け入る隙を見出せない、れっきとした紛うことなき軍隊であった。それが、一万と二千。

 しみじみと、心底から嫌そうにパニーラはぼやく。


「うわぁ、帰りてぇ」

「……お前、本当に指揮官か? これからお前の下で働こうという者の前でなんてこと言い出すのだ」

「いやお前、そうは言うけどよ、ありゃねえわ。見ろよ、人なんざ爪の先程にしか見えねえってのに、そいつがぞろぞろぞろぞろと集まって、デケェ池みたいに溜まっちまってるじゃねえか。あんなんどーしろってんだよ」

「それを考えるのが貴様の仕事だ。下らんこと言っとらんできりきり働かんか」


 細い目でパニーラは隣のアイリをじとっと見る。


「……お前みたいにえらそーな傭兵、俺ぁ初めて見たぞ」

「お前の見分の狭さをさも私のせいのように言うでない。心配せんでも、勝てなどとは誰も言わんであろうし、打つ手があるからこそこの森にまでわざわざ出張ってきたのであろう」


 パニーラは、今度は不思議そうにアイリを見つめる。


「ん? 何かあるのか?」


 そして勢いよく笑い出した。


「いいや、なんでもねえよ。俺ぁお前みたいな奴は嫌いじゃねえって話だ」


 そうか、と答えつつアイリは木からするりと降りていく。


「私も、気前の良い雇い主は嫌いではないぞ」


 けらけらと笑いながらパニーラもまたアイリに続いて木を降りる。

 パニーラは面白い兵士を見つけたと上機嫌。アイリもまた、話のわかるイジョラ軍指揮官と出会えて幸運だと思っていた。

 この時点までは。


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