Suspicious village ―怪しげな村―
次の村へは1週間かかる。
もううんざりだ。
朝起きると、テントの中にはやたらと足の多い虫が入り込んでいるし、下に敷いている布は朝露でべちょべちょ。
毎日毎日、青臭い雑草が入った汁に、塩気の無い肉か魚を焼いた食事。
食パンも、納豆も、焼きそばも、麺つゆさえももう無い。
毎日毎日、毎日毎日毎日毎日、剣を振り回し、そこいらにいる魔物を倒し、魔力量を増やすためだと言って、魔物の乳首を無理矢理飲み込まされる。
本当にもうこんな生活、
「うんざりだわっっっ!」
叫びながら敵を両断する。
「あのね、あのね、死神様、僕がお歌、歌ってあげるから元気出すにゃ」
私の半分程しか身長の無いゴロを抱きしめる。
服の中に手を入れて、もふもふなお腹を撫でまわす。
「死神様、えっちなのにゃ」
逃げ出そうとするゴロをしっかりと抱きしめて離さない。
この時間だけが、私の癒しだ。
「死神様は最近、鬼気迫るものがございますじゃ」
「しかし、剣の腕はメキメキと上達しているでござる」
「でも、最近はマッサージもさせていただけません」
「俺も、声をお掛けしてもジロッと睨まれて、お返事を頂けない」
「オイラなんて目も合わせてもらえないぞ」
「・・・・・・ふむ。困りましたね。お疲れが溜まっているのかもしれません。ここは死神様にはゆっくりとお休み頂いて、私達が頑張りましょう」
ヨルマが揉み手をしながら近寄ってきた。
「死神様、本日は私達が戦いますので、死神様はごゆっくりと私達の後ろを歩いて来て下さい」
言う通りに、ゴロを抱きかかえて後ろからついて行く。
最近は剣ばかり振り回しているので、腕がマッチョなのだ。ゴロくらい、軽いものだ。
道の先に、肌色の集団が見えた。
裸族だ。迎えのようだが、この先の村は裸族の村だったのか。
と思ったら、腰巻は巻いているようだ。
だらしがなく垂れ下がった腹肉で隠れているだけだ。
デブ集団もこちらの存在に気付いたようで、肉をぶるんぶるん震わせて駆け寄ってきた。
おっぱいもぷるんぷるんと震えている。
その先端にはきれいなピンク色の乳首。
「あの人たち、死神様よりもおっぱいあるにゃ」
ゴロのその言葉に硬直した。
数秒、不思議そうに首を傾げるゴロと見つめ合った後、視線を戻すと、ヨルマ達の死体がボリボリと食われていた。
そう、みんな死んでいた。
デブ集団の人達は、身体は普通のデブだったが、頭が牙の生えた豚だった。
「魔物だったか!」
ゴロを下し、背後に庇って剣を抜いた。
全員食事に夢中だったので、サクサクと殺していく。
「蘇生」
最近、かっこいい呪文詠唱の言葉を色々と覚えたのだ。
「し、死神様、申し訳ございません。私とした事が、慢心して不覚を取ってしまいました」
生き返り、言い訳をしてくるヨルマをジロリと睨み、ゴロの手を引いて無言で歩き出す。
それから数キロ、鼻歌を歌うゴロ以外は全員が無言で歩き、時には私が一人で魔物を倒し、ようやく次の村に到着した。
「我々は女王様の命により、首都から」
ヨルマが門番に告げている途中に、村の奥から土ぼこりを立てて先程と同じ魔物が突進してきた。
思わず剣に手をかける。
が、よくよく見ると服を着ているし、髪の毛も生えている。
その人物は、門まで到着するなり息を切らせながらも機関銃のように喋りまくった。
「あらあらあらあら、あたくしはここの村長なのですけれど、もしかしてあれかしら。あれなのかしら、女王様のおっしゃってらした、異世界から召喚された勇者なのかしら。本物? もしかして勇者を名乗ってる偽物だったりしないかしら? 一応、お名前聞かせていただける? あ、いえいえ、やっぱりいいわ。ほら、あれよ、本物だとしても、うちの村には何の問題も無いの。だから勇者様の貴重なお時間を使っていただく必要が無いの。その、ほら、すぐに次の村に向かった方がいいんじゃないかしら。ああ、大丈夫よ。水と食料と、馬車も用意させていただいたわ。ね、ほら。善は急げって言うでしょう? ほらほら。馬車に色々と積んでいるわ」
「我が名は死神。リア充どもに死をもたらす者なり。天より舞い降りし、漆黒の翼を纏いし翼をもがれた堕天使なり」
「え? リア獣ってどんな魔獣だったかしら? 死神なのに天使? 神から天使って、グレードが落ちてるわよね。堕天使って天から降りて来るんだったかしら? 既に堕ちてるんじゃ? 翼、あるの? ないの?」
「あのねあのね、前に死神様に聞いたのにゃ。リア獣って、うちのとうさまとかあさまの事なのにゃ。んとね、僕が夜に起きるとね、とうさまとかあさま、裸でガオー! って襲い合ってるのにゃ。食べちゃうぞ~! って。それでね、死神様は、それはケモノじゃなくケダモノだって言うのにゃ。でもね、僕はね、とうさまもかあさまも、スウィートとかハニーとか呼び合ってるけどね、かじってみた事あるんだけどね、全然甘くなかったのにゃ。僕はね、ケダモノの中では、リンゴと桃が好きなのにゃ。ミカンはあまり好きじゃないのにゃ」
ゴロが説明を重ね、村長が更に混乱しているうちに勝手に村へと入り込む。
ぐるりと見回す。この村はかなり栄えているようだ。
真っ直ぐ続く広い道沿いに商店街のような物があり、その奥には立派な鉄格子の門。
多分、あそこが村長の家なのだろう。
建物は全てレンガ造り。
左に目をやると、横道の突き当りに大きな建物がある。
「多分あそこがこの村で一番立派なホテルだよね。今日はあそこに泊まろう」
指差した指先に、湿ったぶにょ、っとした感触。
いつの間にか、村長が私の指先に腹肉を押し付けていた。
「いえいえ、あそこは違いますの。あれですわ。あれですのよ。そう! 家畜を飼っておりますの!」
「え? 何飼ってるんですか? 牛? 馬? 羊? 私、結構動物好きなんですよ。見に行っても?」
問いかける私に、村長は顔を青くしながらも、汗を飛び散らせて首を横に振る。
「あ、違いますの。あそこは家畜達のおトイレですの! ほら、あれですわ、そう! 肥料とか作っているんですの! ですから、勇者様の近寄るようなところではございませんわ! や、宿をお望みでしたら、とりあえずあたくしの家へ来てくださいませ! ささ、こちらです!」
案内されながら、ヨルマが小声で囁く。
「何か、隠していますね」
先を歩く村長を見ながら、私は彼女が隠すべきものを予断なく考えてみる。
彼女の隠すべきもの・・・・・・それは。
年齢、体重、シミ、シワ、そばかす、乳首、股間。他に何があると言うのだろうか?