Don Quixote ―ドン・キホーテ―
オーガの集落の異様さは、遠くから見ただけでもわかった。
集落全体を囲む土塀。
壁には一定の高さで小さな穴がいくつも空いている。
「あれは、弓を射るための穴でしょうね」
ヨルマの言葉に緊張が走る。
知性を持っているのだ。
今まで倒した魔物は、ほとんど知性など無かった。
虫系はもちろん、ミノタウロスも、ただ本能で襲い掛かって来るだけの魔物だった。
ゴブリンは藁でテントなど作っていたが、その程度。そもそも弱い個体だった。
だが、オーガは一体一体が強力で、しかも戦略というものがわかっているのだ。
ちなみに、私はわからない。
要するに、私よりも頭がいいって事だ。
しかも、魔法使いまで居ると言う。
「オイラ達には無理じゃね?」
「だよなぁ」
そんな言葉が出て来る中、ヨルマが参謀のくせに「クレリック様、いかがいたしましょうか」と、私に聞いてきた。
マッチョ嫌いなのに、自分が脳筋だという自覚がある私が下した答えは当然・・・・・・
「突撃! あの門をぶち破って中に入れば後はなんとかなるわ! 皆殺しよ! 私を敵に回した事を後悔させてやるわ! 私はこの地に召喚されし漆黒の堕天使! 魂を捧げるがいいわ! その代償として、地獄への片道切符を渡してあげる! さあ、蹂躙の始まりよ!」
とりあえずリアル中二なので許してください。
「おおーっ!」
「クレリック様に続け!」
「我らの勝利の女神、クレリック様の力を思い知るがいい!」
「「「おおーっ!!」」」
「え? いや、皆さん、ちょ、ま・・・・・・」
私の掛け声にみんなの志気が上がり、死期が早まりました。後悔しました。蹂躙、されました。
ええ。頭上から降り注ぐ矢の雨に、ほぼ全員が瞬殺。
私も瀕死でした。
ただ一人、冷静にみんなを止めようとしていたシロさんの機転により、私だけはその場からシロさんに引きずられて逃げる事はできたようです。
ですが、引きずられているうちにだんだんと視界が狭くなっていき、静かな暗闇が訪れたような気がします。
次に目覚めた時は、つい最近見たことがあるような顔が目の前にありました。
「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」
ああ、神殿の神父様だ。
わりとすっきりした目覚めだったのだけれど、どうやら私は一度死んで、神殿で蘇生されたらしい。
傍らではシロさんが、青い涙を流していた。
目の下の白い毛並みに、青い筋がついている。
「わたくしがついていながら、ホノカ殿をお守りできなくて申し訳ございません。他の方々はお連れする事ができませんでした。ホノカ殿に戻って蘇生して頂くしかありません」
この国の気候も考えると、もう遺体は腐っているかもしれない。
そんな状況で蘇生したら、ゾンビになってしまうのでは? と思ったのだが、蘇生術とは、魂を呼び戻すだけでは無く、肉体ごとフレッシュに作り変えるらしい。すごい。
その後、隣村に戻り、シロさんの身内だというクロさんにご協力頂き、夜間にこっそりとパーティーメンバーの遺体を回収し、全員蘇生しました。