7thSt 開かずの鉄格子
「これで満足?」
再びキサラギという異形を痛めつけたロシュカは軽蔑の眼差しを贈る。
「はひ……はひ……」
対してキサラギは自力で立ち上がるも膝に体重をかけ疲労困憊といった様子。
「ぜぇ……キサラギっ復活、しまっ…した。ぜぇ……ぜぇ」
「さっきのサラはすぐに回復したのに、お前はだらしがないな」
ロシュカも流石にやりすぎたと背中をさする。
「ずびばせん……お姉さま。私たちも個体差があるんです……。ほら髪型だって違うでしょう」
落ち着きを取り戻したキサラギは長い黒髪を揺らしながら答えるとロシュカも納得の表情を浮かべる。
「そうか、さっきの奴はセミロングぐらいだったな。……って個体差があるなら何故、私は何度もお前を痛めつけなければならんのだ。単に私に好意があるサラが偶然呼び出されているのか?」
「いえ、その点に関しては全てのキサラギの共通事項です」
「と、いうと?」
「キサラギが若いメス型のモデルの異形で、空間を自在に移動できて。歪みから生まれるレデュエ達を従えられて。そして世界一可愛いことと同じようにお姉さまを愛しているのだと言ったらわかってくれるでしょうか」
にっこりと笑うキサラギとは対照的にロシュカは無表情へと変わっていく。
「よく、わかった……。とりあえずこれからもあのくだりは続くということでいいのか……?」
「はい!その解釈で間違いないです」
「そう……か……。ははは……」
ロシュカは頬を引きつらせながら乾いた笑いの後、終始の無言。
「ん?お姉さま?」
心配する声にロシュカは「言っておくが……」と
前置いて「今回、お前を呼んだのは、別に会いたかったからではない!!」ときっぱり言い放つ。
「ひ、ひどっ!!……わかってましゅけど……」
若干涙目のキサラギにロシュカは御構い無しとばかりに続ける。
「あとお前とのやりとりで毎回話が逸れる。謝罪しろ。とりあえず謝罪してから私の話を聞け」
「ひぃ……ごめんなさいぃ」
ロシュカは指を刺す。その先はもちろん開かずの鉄格子だ。キサラギの視線もその指の方向へ誘導された。
「わあ、開いてるー」
ロシュカは目を細めじーっと見つめる。
キサラギはその表情で自分の反応に不満を持っているなと直感した。
「実は……。さっきから気づいてたんですよねぇ。改めて初めて見た程でリアクションとっていいですか?」
「まあ、普通気づくよね。いいけど短めにね」
キサラギは「わかりました」とうなづいた後、
「あっ! あー!! 開かずの鉄格子が開いてる!! 開かずの鉄格子が開いてるってことは、開かずの鉄格子ではないから、これからなんて呼べばいいのかな!? 【開かずの鉄格子だったけど開いた鉄格子】とでも呼べばいいのかな!! でもそんな名前だと話に出すときとか名前が長くて困っちゃいませんか!? どうですか!? ロシュカお姉さま!!」
ロシュカの視線は相変わらず冷たいが、何かを分析するように腕を組み悩む素振りを見せる。
「……突っ込みどころが相変わらず意味不明。冗談にしては捻りも甘い」
ロシュカは手を組みながら悩んだそぶりをみせてから。
「45点」
ほんの数秒キサラギの中でその一言に対する返しが錯綜するも、結局、
「お姉さま……割と微妙な点数で反応しにくいです……。困ります」
「あぁ、私もいま返しにくいキラーパスを放ってしまったと後悔してたんだ」
お互いに渋い顔でお茶を濁して今のやりとりはなかったことになったらしい。
「ま、まあ、お姉さま……気を取り直して行きましょう。この鉄格子前まで開きませんでしたよね。お姉さまが開けて、わざわざそれを自慢するために私を呼び出したってところですか?」
キサラギの問いにロシュカはピクリと反応する。
「そう! いや違うが……私はその質問を待ってたのだ。ちなみに鉄格子を開けたぐらいで自慢するほど私は構ってちゃんじゃない! そんなに寂しい奴じゃないからな!」
ロシュカはふぅ……と一息つくと次はいたって真面目な顔で話を続ける。
「……まず私が開けたわけじゃない。開いてるところを私が見つけたんだ。様子を見れば鍵は無理やりこじ開けられているし、中から外に何かが這い出てきたのだろう」
キサラギはきょとんとしてから顔を強張らせる。
「それって。お姉さま以上のパワーを持つとんでもない何かが解放されたってことじゃないですか!! 考えただけで、考えただけで! あぁ!! キサラギちゃんは体が持ちません!!」
一人興奮する変態にロシュカは若干の呆れと引き気味の感情をのせて一言。
「……頼もしい奴だな」