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ダウンサイドへようこそ。  作者: ふぁぶらっく
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ダウンサイドにて

 世界には異形とよばれるヒトならざる者が少なからず存在する。彼らは普段、誰の目にも触れられないように身を潜めているものなのだが。この街では例外らしい。


 虚の街。

《ダウンサイド》と呼ばれるこの土地には今や何人もの異形が暮らしている。街全体を包むどんよりとした空気感や手入れの施されていない建造物の数々などが異形達の心を掴んでいるのだろう。彼らは平然と街中を闊歩し、奇異な日常を楽しんでいる。


  物語の始まりはほんの些細な出来事から。


 この街のメインストリートとなる場所から北へ向かった先の路地裏。血に濡れた鉄格子に阻まれた向こう側には暗闇に続く階段がある。


 この鉄格子。後述する異形の一体、怪力が自慢のロシュカでさえ破壊できぬ頑丈すぎる南京錠で閉ざされていたのだが。ある朝、唐突に鍵は破られていた。


  そして初めにこのささいな異変に気づいたのがロシュカこと【コード・ラ・ヴィンテヱジ・ロシュカ】その異形であった。


 彼女の中で破壊できなかった頑丈すぎる南京錠はどこかで気がかりであったのだろう。毎日の日課である街の巡回の際に無理やりこじ開けられた南京錠は発見された。


  彼女は彼女の周りで独立して浮遊する4つのユニットの一つをつかむと耳に押し当てる。


「うん、7thSt。路地裏の開かずの鉄格子。うん、よろしく」


 通信機器でどこかに一報を入れるとツーツーと音を立てるユニットを手から解放する。


 ただでさえ薄暗いダウンサイドの地下へと進む階段の向こうの様子は外からではまったくわからない。この街で最強と謳われるロシュカだからこそ、その異様な空間が生み出す空気に慎重になっていた。


 その間、ロシュカが誰かに連絡を入れたそぶりをしてからわずか数秒。彼女から数メートル離れた場所でバシッ、ビリッと音を立て空間が割れる。そしてその歪みよりもう一体の異形が姿を表した。


 黒髪に赤茶の瞳をもつその異形はロシュカを見るたびニタリと恍惚の表情を浮かべる。


「お姉さま! わざわざ連絡をいただけるなんて……まさか!? 愛の!! 愛のこ・く・はうぐぅ!!」


  4つのユニットの内の一機が猿轡のようになり現れた異形の顔に巻きつく。


「サラ。勘違いしないで。そんなわけないでしょう」


 そう吐き捨てるロシュカのもう一機のユニットが主の腕に絡みつく。ムチのようにしなるユニットは最短距離でサラと呼ばれる偉業の背中を襲う。


「あぁああん、痛いィいい。呼ばれてひたら、このひ打ち。はぁああん。愛を……愛をはんしますわ。ほ姉さまぁ…レロレロ…… ぉ姉さまの味ぃ。ひしゃらぎはしあわせです〜」


「ひぃ! 舐めるな!!」


 ぐふぅっ!腹から漏れ出る空気。サラこと【キサラギ】と呼ばれる異形の腹にボディブローが決まる。


「んひぃいいい!」


 勢いで猿轡が外れキサラギは痙攣しながら地面へ横たわる。


「起きて。まだ動けるでしょう?」


「はひ……わはりまひた……」


 キサラギは何もなかったかのように立ち上がると砂埃をパタパタと落とす。顔を両手でパンっと叩き。最大限に可愛い敬礼のポーズを取る。


「お姉さま!キサラギ復活しました!茶番に付き合って頂いてーーー」


 キサラギは「うーっ」と手足をばたばたさせると


「あざっす!!」


  両手を顔の前でピースさせながら両足を内股に最大限にあざといポーズをとる。


「はぁ……自分で茶番ってわかってるのに、毎回やらなきゃダメなの?この流れ」


  ロシュカは呆れ顔でキサラギに問う。


「そんな、面倒臭そうにいわないでくださいよー。キサラギ、こうやってお姉さま成分が取れないと周りが見えなくなるタチでして……恋は盲目って奴?」


 対してロシュカは「えぇ……」と不満足気に顔をしかめる。


「それっていいように使われてない? 私。」


「そんなことないですよ。だってお姉さまもなんだかんだで毎回バリエーション変えてくるじゃないですか。ふふ……本当は楽しんでたり?」


 ロシュカは耳が赤くなり、

「そんなわけないでしょ」と一瞥し、同時に照れ隠しにボカッとキサラギの肩に拳をめり込ませた後そっぽを向いた。


  ミシィッ! と悲鳴をあげる肩。


「痛っぁあ!あー、もー。お姉さまのせいで肩砕けちゃったじゃないですかー。力加減間違ってますよぉお」


「自業自得。サラが変なこというからいけないんでしょ」


「えぇ……それは暴論では?まあ別のキサラギに変わるだけだからいいですが」


  キサラギは振り返り砕けてない方の手を虚空へとかざすと先ほど目撃した空間がバリッと割れる現象が再び起きキサラギの体を飲み込んでいく。


「ちょっ、まって!」


ロシュカ引き止めるも時すでに遅し。


「じゃ、またよろしくですー」


  最後にそう言い残すと割れた空間は綺麗さっぱり口を閉じた。


  そして、ほんの数秒後。また空間が割れその歪みから先ほどと同じテンションとトーンで喋る異形が姿を現した。


「お姉さま!! わざわざ私を呼んで頂けるなんて!! どうぞこの体に愛を刻んで!! さぁ!!」


「…………」

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