~233~
怒りに支配されたリュシオルは、下を向いたまま止まってしまった。
「シャドーブラック様!危ないです!」
ルーチェが気づいて声をかけるも、反応がなかった。
「主様!」
「主!」
武器たちも必死の声を掛けるが、全く反応がない。
そして、ゆらりと動き出したと思った瞬間、リュシオルの姿が消えた。
「え?」
あまりに突然消えたために、驚いて声を上げてしまった。
そして、次に現れたのは、巨人の肩であった。
瞬時に移動し、肩まで登りつめたのだった。
しかし、それに気づいた巨人は肩を手で払ったのだが、その払った手に器用にリュシオルは立っていた。
「がぁあああああ!」
馬鹿にされたと思った巨人は反対の手で、捕まえようとするが、全くつかむことが出来ず、空振りばかり繰り返していた。
「うるさい・・・・・。」
リュシオルは、ぼそりと呟いた後、刀を下向きに構え、また瞬時に移動し、巨人の手の甲を刺した。
「ぎぃぃぃぃぃ!」
初めて深手を負った巨人は先ほどとは違う声を出していた。
そして、刺した後、ふわりと地面に降り立ったリュシオルだが、すぐにまた消え、今度はうずくまっている巨人の背中に降り立ち、また刀を下向きにし、刺して離れて降り立つ。
蝶のように舞い、蜂のように刺すといったような戦法をしていた。
「お前は楽には殺さない。苦しめ。」
相当怒りに支配されているのか、残忍な考えになってしまっているようだった。
巨人は至る所を刺され、血で全身が染まりそうだった。
「ぎぃ!ぐぁぁ・・・・」
そして止まることなく刺され続け、ついに巨人は情けない声になって来たのだった。
その頃、参加できなくなってしまったアルシュとノワール、ルーチェ、シャインは口を開けて茫然としていた。
「あんなリュシオル様見たことない・・・。」
「あんなに怒っているところは初めてですね・・・。」
「怖いです・・・。」
「かっこいいな~。」
すると、聞いたことがない声が聞こえたのだった。
「お前は誰だ!」
「おっと!急に弓で攻撃するのはやめてよ~。危うく刺さっちゃうとこじゃないか。」
「刺さるように撃ったのですが、刺さらなかったみたいですが?」
誰だといいながら、ルーチェは弓で相手を撃っていたのだが、あっさりと躱されてしまった。
「それはこわいね~。せっかく彼が戦っているところが見れると思ってはるばるやって来たのにぃ~。」
「そんなことが聞きたいわけではない。お前はダーククライムの者か?」
「あれ?知っているの?ん~・・・あ!君は彼の奴隷の子だ!だからか~。じゃあ知っているかもしれないけど、僕がAだよ~。」
ひらひらと手を振りながらルーチェに挨拶をした。
「それと、そこにいる召喚獣達。命を投げ出して飛びかかってきても僕は倒せないからやめた方がいいよ?たぶん彼じゃないといい勝負できないかもね~。」
少し殺気を飛ばしながら脅してきたのか、召喚獣たちが怯んだのだった。
「さて、君ものその弓をおろして?僕は純粋に彼を見に来ただけだから、危害は加えない。なんなら拘束してもいいよ?意味ないけどね。」
両手を上げて、何も持っていないことをアピールし、大人しくその場に座ったのだった。
「ルーチェ様・・・下手に刺激しない方がいいようです。」
「姫様・・・こいつ計り知れないです。」
召喚獣たちもルーチェを庇うように立っているが、立つのがやっとのように見えた。
「わかりました。」
「よかった~。せっかく見に来たのに君を壊して見るのはなんか違うなって思ってさ。たぶん君を壊したら、僕が対象になっちゃうでしょ?そうじゃないんだよね~。」
本当に観客みたいに、座ってジュースを出して、さらにお菓子も用意していた。
少し拍子抜けしたが、危険なのは変わりなく、リュシオルの戦いが見え、かつAも監視できるような位置にに移動し、リュシオルを見守るのであった。




