~210~
試合を終えたリンブルがリュシオルのいる観客席の所にやってきた。
「どうだった?!俺は何て言われてた?!」
もうお尻に尻尾があるかのようにウキウキした様子で話しかけてきた。
「そうだね~。犬って言われてたよ?」
「うん。犬だったね・・・。」
「私もそう耳にしました。」
「我もそう聞こえたな。」
それを聞いた瞬間にリンブルは膝と手を地面につけてうなだれていた。
「でも、いい戦いだったぞ?」
「うん!リンブル君らしかったよ。」
「慰めになっていないぜ・・・。」
起き上がり座り直した。
「でもいい名前を考えたらいいんじゃないか?」
「そう・・・そうだよな・・・。」
少し希望が出てきたのか、目に光が戻ってきた。
「っそうだったんだ!これか「次はエクラの試合だから静かに。」・・・はい。」
一瞬でルーチェに自信を叩き折られた。
「そこまで言わなくても・・・。ほんとだ。エクラちゃんですね。」
堂々としたエクラは輝いていた。
~第3試合は・・・クレールス家の美女!エクラ・クレールス!彼女はとてもか・・・隣が怖いので先に・・・睨まないでくれよ・・・。そして相手は3年の○○選手だ!~
もう男の紹介が雑である。
「会話は聞こえないけど、これは何か言っているようだね。」
中央を見ると、エクラと3年の男が話をしていた。
「これはこれは。クレールス家の方ではありませんか。」
下に見るような態度・言い方でエクラに喋りかけた。
「言い方が失礼ではなくて?」
「これは失礼しました。公爵の長女であるあなたに失礼なことをしましたね。だが、女である故、爵位を継ぐわけでもない。相応の対応ではないか?」
「これだから小物は困りますわ・・・。」
「なんだと?!つけあがりあがって・・・!」
「ほら。すぐに化けの皮が剥がれてしまっていますわ。それでなんでしたかしら?爵位を継がない女は価値がないですって?」
「その通りのことだろうが。どうせ格降格するか、誰かに貰われていくだけだろうが。まだ婚約者がいないのなら俺の妾にしてやっても構わないぞ?」
うすら笑いながらエクラの全身を舐めるように見ていく。
「失礼な方ですわ。そんなことは天が落ちてきてもありえませんわ。それも実力を見ればよろしいですわね。」
「あぁ。俺の前で許しを請うことになるだろう。」
ニヤニヤとしながら、構えた。
エクラも心底嫌そうにしながら構えた。
「(女であることで油断している間に床に寝転がることになるでしょうね。)」
油断せず、尚且つ徹底的に潰そうと少し本気になった。
「では、はじめ!」
場内に居る審判から合図が出て試合が始まった。
「先手をいただきますわ。」
「させないぜ?」
相手は防御の体制で避けようとしていた。
だが、エクラはそれを予想して急転回し、回り込む。
「っく!なかなかやるではないか。」
「あら?わたくしは今ので終わるかと思いましたがそこまでは簡単ではありませんでしたか。犬の骨から馬の骨に昇格ですわ。」
「きさま!」
わざと怒らす発言をし、頭に血を登らせた。
「(好都合ですわ。)あら?本当のことを申し上げただけで、間違っていませんわ。それにわたくし、あなたの家を全く知りませんわ。」
本当は全部頭に入っているのだが、あえて挑発した。
「きさま・・・!黙っていればいい気になりやがって!これでも食らいやがれ!」
バランスボールぐらいの大きさの炎を作り出し、エクラに向けて放った。
「あらあら。これは危ないですわ。『ウォーター・ラピッズ』。」
エクラに向けられて放たれた大きなファイヤーボールはエクラの作り出した水の勢いで消え、さらに奥に居た相手をも吹っ飛ばした。
~何が起こったのでしょうか!?エクラ選手に向けられて放たれたファイヤーボールが掌前に出現した魔法陣から一直線に放たれた水で消えて、相手選手までふっとばした~!~
~これは凄い魔法でしたね。では・・・勝者エクラ選手!~
会場はシーンとしてしまっていたが、司会より勝利宣言を聞いた観客は先ほどの静けさが嘘のように声を上げた。
エクラは綺麗な淑女の礼をし、その場を後にした。




