~202~
少し早めに皆から離れたベリエはというと・・・。
「あ~。緊張してきた・・・。人に見られたりするのはいいんだけど、こう大勢だとかなり来るわね。」
廊下の見えない片隅で壁にもたれ掛かって、ため息をついていた。
足元を見ると少し震えているようだった。
「お姉ちゃん・・・。私頑張るから勇気を頂戴・・・。」
ポケットから出したのは、子供が縫って作ったお守りだった。
「よし!頑張らなくっちゃ!」
自信を胸に控室へと足を進めた。
「ベリエちゃん。ちゃんとあれ持ってきていたのかな・・・?」
「ん?」
「何でもないよ。お守り持ってきていたのかなって思っただけ。」
「あいつお守りなんか持ってたっけ?」
急にレオーネがボソッと小さな声で言ったので、聞き返したらお守りの話だった。
ただ、リンブルも知らないことの様だった。
「ベリエちゃん小さなころからずっと持っているお守りがあって、今でも大事な時には持ち歩いているよ?」
「そうだったのか。それは知らなかった。」
「もしかして!?」
リンブルが急に大きな声を出したので、周りから一斉に見られた。
「おっと・・・。あれのことか?」
「そうよ。お守りって言うより小さな袋だけどね。」
「そっか・・・。」
「なんかあったのか?」
「なんかあったんだけど、それは本人から聞く方がいいよ。」
「そうだな。でも、言いたくないことでもあるから、本人が喋れる時だな。」
なんとなく察して分かったが、自分から打ち明けれるようになるまで待つことにする。
「これが終わったらベリエだな。」
「ベリエちゃんもトンファー使わないってさ。」
「そうだよな。元々あいつは拳で戦ってきたから、それでも十分に強いよな。」
「べりえちゃんが入って来たよ!」
競技場を見てみると、ベリエが自信満々に入ってきていた。
「やっぱり本番に強いのがあいつだよな。」
「がんばって~!ベリエちゃ~ん!」
レオーネが大きな声で応援すると、聞こえていたのか手を振って返してくれた。
「聞こえたのかな?」
「たぶん聞こえたんじゃないかな?あれは分かって手を振っていたよ。」
「試合とかに集中したりすると、周りの声がはっきりと聞こえたりするからそれじゃないかな?」
よく調べものとかしているレオーネがそう解説してきた。
確かに集中するとアドレナリンが分泌されて、感覚が研ぎ澄まされる。
この世界には科学が発展していないが、なんとなくは解明?されているみたいである。
「ベリエちゃんはあえての端っこを陣取ったね。」
「あぁ。あいつの得意な戦法だな。」
「あれはどうやって戦っていくのだ?」
プワソンが気になったのかリンブルに説明を求めた。
「あれは忘れもしね~夏のことだった。ベリエがいつからか体を鍛え始めて、村でも強いとされているおっさんに習いに行ったりしていてな?その時に、馬鹿な悪ガキがベリエのことを馬鹿にしたんだ。男女ってな。」
「それは怒るよね。」
「それがそれでは怒らなかったんだ。無視をして、通り過ぎようとしたときに、言ってはならないことを言ったんだ。」
「なるほどな。」
「そこからはもう鬼のように怒ったのが俺はよく見ていたからわかったんだが・・・。馬鹿ガキは分からずに、さらに付け足して行ってな。あいつは振り返ってこう言ったんだ・・・『おまえらかかってこい』って。」
「・・・それは怖いな・・・。」
「だろ?そこからは今から見ての楽しみだぜ。」
視線をベリエに戻すと、開始の合図が鳴った。
ベリエはトントンと軽いステップを踏み始めた。
「あれは・・・ボクシング?」
「見たことがあるの?」
「似たようなものをね。でもあの戦い方なら、この競技場にぴったりだな。」
「なんだ知っているのか・・・。」
「私は知りませんわ。」
「私も知らないな。」
「動き出したぞ?」
見ていると、やはりボクシングの動きだった。
しかし、しっかりと身についているのか無駄がなかった。
「あの時より鋭くなっているな。」
キレのある動きで攻撃をかわしてどんどん後ろの場外に落としていく。
「あの動き凄いですわ~。」
「お姉さまとお呼びしたいですわ。」
「あの方は戦士ですわ!」
「でもお姉さまの方がよろしくってよ。」
「付けるなら戦乙女ですわ。」
「いえ女戦士よ!」
戦うことがメインの名前になりそうだった。




