~194~
リュシオル視点に戻ります。
リュシオルが目を覚ますと、体が動かなかった。
もぞもぞと動くと、耳元で声が聞こえた。
「ん・・・・。」
「え?」
耳元の声にびっくりして体を少し逸らしてみると、綺麗な女の人に抱きしめられていることが分かった。
「アンブルか・・・。いつの間に人型になったんだ?」
「ん~。あ・・・おはようございます・・・。」
すごく眠たそうにしながら、さらにリュシオルを抱きしめた。
アンブルの胸に顔を押しつぶされ息が出来ない。
「うぷっ!アンブル!・・・・窒息・・・。」
「あら?ごめんなさいね。」
言葉の意味を理解して、開放してもらった。
「あまりにリュシオル様が暖かくていい匂いがして気持ちいいからつい。」
てへぺろしながら謝ってきたが、全く反省の色が見えなかった。
「それよりいつの間に人型になったんだ?」
ほんとは意識的に変化したのだが、ごまかすことにした。
「ん~。寝ぼけて変化してしまったのかも。最近人型になることが増えたからかしら?」
「寝ぼけてならいいが・・・。まぁ~アンブルなら寝ぼけて変化しても問題ないもんな。アルシュが寝ぼけて変化したら恐ろしいな・・・。」
「本来は大きいですものね。さぁ!起きましょうか?」
「そうだな。」
起き上がろうとしたときに頬に柔らかい感触がした。
びっくりして頬を手で押さえるとアンブルがしてやったりの顔をしていた。
「隙ありですわ。」
「急になんてびっくりしたよ。」
「それが目的ですわ。それとわたくしの気持ちですわ。いつまでも貴方様を心から支えさせていただきます」
「・・・ありがとう・・・。」
昨日のことを含めてだろう。
心強い仲間である。
「朝食を作らなきゃな。」
「わたくし、ニンジンサラダが食べたいですわ!」
「シャキシャキのでしょ?もちろん作るよ。」
「さすがですわ!」
きゃいきゃいとはしゃぎながらアンブルが後を付いてきた。
「おはようございます。朝食はできていますよ。」
「ルーチェ・・・ありがと。」
「じゃあわたくしのシャキシャキニンジンサラダも作ってほしいですわ!」
「かしこまりました。少しお待ちくださいね。」
ルーチェにニンジンサラダを注文し、調理しているところをアンブルは見ていた。
そして、あまりにルンルンしているので尻尾と耳が目の錯覚で・・・いや出ていた。
「アンブル・・・耳と尻尾が出ているよ・・・。」
「あら?あまりに楽しみすぎて出てしまいましたわ。でも・・・構いませんわ!」
耳と尻尾を仕舞うことを諦めて、サラダの出来上がりを待った。
リュシオルはせっかく作ってくれた朝食が冷めないうちに食べることにした。
「お味はいかがですか?・・・!美味しくなかったですか?!」
ルーチェが作ってくれたのは日本式の朝食だった。
お米はもちろん、だし巻き卵・魚・味噌汁と和食である。
一口食べて、気持ちが緩んだのか、片目から涙が出てしまった。
「おいしいよ。ありがとう。」
「でも涙が・・・。」
「あれ?おかしいな?目が乾燥していただけだと思うよ?」
涙が流れていた方の目を袖で拭き、何事もなかったように笑顔を浮かべた。
「そうですか・・・。」
これ以上聞いても何も答えてくれないと思ったルーチェは、これ以上聞かなかった。
「今日の放課後、クレールス家に行くことになるから。」
「わかりました。事前にしなければならないことはありますか?」
「ジェイドに連絡を頼んだから大丈夫だよ。」
「そうですか。わかりました。・・・アンブルさん出来ましたよ。」
大量に千切りにしたニンジンが皿に盛られていた。
「これこれ!リュー様!あれを出してもらえますか?」
「すっかりこれの虜だね。」
「これすっごい美味しいですもの!」
サラダにかけるものとして、ドレッシングやマヨネーズを教えたところ、アンブルはものの見事にマヨネーズの虜になった。
そしてただのマヨネーズではなく、ゴマの風味の効いたドレッシングと混ぜ合わせたものを使っている。
ちなみに、あっちの家には置いてあるのだが、こっちにはなかったためリュシオルにお願いしたのだ。
「おいしいですわ~。」
美女が大量のニンジンをシャクシャクと食べているのはなんとなくシュールである。
「ごちそうさまでした。学院に行く用意をしてくるよ。」
「ふぁふぁふしふぁたふぇてひぃまふふぁ『わたくしは食べていますわ』。」
「器用なことをしなくてもいいから食べてて・・・。」
口で喋るのと同時に念話で会話をしてきた。
実に器用である。
着馴れた制服に袖を通して、学院に行く準備をし自室を出た。
「おはよ~。」
着替え終わっているリンブルが口に頬張りながら挨拶をしてきた。
「おはよう。早く食べないと遅刻するぞ?」
「もうそんな時間か!」
慌てて口の中に放り込み、食べ終えた。
「一体どうやって食べているのかいつも不思議だ・・・。」
「ん?慣れたらできるぜ?」
「出来ないだろう・・・。」
ため息をつきながら学院に登校するのだった。




