~187~
リュシオルがギルド長・シフラを連れてクレールス家の玄関ホールに戻ってくると、侍女に案内されて、応接室に向かった。
「急に訪ねてくるし、びっくりしましたよ。しかもギルドマスターを出せって言うし。」
「すいません。結構緊急だったもので。それでも、仕事を手伝って終わらせたでしょ?」
シフラの前に突然現れて、慌てながらもギルドマスター室に案内してくれた後、中に入るとすさまじいことになっていた。
ここに来るまでの経緯はこうだ。
~・~・~・~・~
「こんにちは。ギルドマスターは?」
「俺はここだ!」
机の書類の間から手を出して振っていた。
「そこにおられるのですか。お話があるんですか・・・。」
「このままでいいか?動かすと、崩れそうで・・・。」
「ではそのままで。実は王都のダンジョンに異常が発生しまして・・・。」
「王都のダンジョンに?すぐに調べに生かさないとだな・・・。」
報告を聞き、すぐに調査隊を組むように考えたところで待ったがかかった。
「いえ、その必要性はないです。もう終わりましたから。」
「何?俺に報告が来る前に終わったことだと?」
「はい。緊急依頼で私が依頼を受けて向かって解決しました。」
「なんだ。それならもう俺は必要ないじゃないか。」
「それが、その原因となった物に少し問題があったので、クレールス公爵の屋敷で話し合いを行う予定なんです。」
「ふむ。すぐにでも行きたいところなんだが、これが片付かなくては身動きが取れないのだが・・・。」
ほんとは投げ出したいのだろうと思うが、近くに控えている秘書が睨みを利かせていた。
「そのようですね。では・・・私が手伝いましょうか?」
「え?手伝ってくれるの?」
「どうすればいいか言ってもらったらやりますよ?」
「それはたすか・・・ダメなのか?」
睨みを利かせている秘書の視線に気づき、そっとそちらを向きながら聞いてみる。
「ホントはダメなんですけど、ランクZのシャドーブラック様なら構わないでしょう。機密を知られようが、知らなかろうが、国を潰せるだけの実力があるのですから。」
「だそうだ。手伝ってくれるか?なに・・・。俺でも簡単にできる仕事だ。」
「胸張って答えている暇があったらサッサと片づけてください。」
「俺の秘書が手厳しい・・・。」
秘書に怒られ、すぐに書類に向き合いガリガリとサインをし始めた。
「まずは・・・。秘書さんいらない紙はありますか?1枚で大丈夫です。」
「はい。こちらにございますが・・・どうなさるのですか?」
「見ていてください。マスターこれにサインを書いてもらえますか?」
「無駄じゃないなら書くが・・・。ほれ!書いたぞ。」
「ありがとうございます。」
書いてもらったサインを見て、質問をした。
「このインクには魔力は込められていますか?」
「あ~俺の魔力を染み込ませた特殊なインクを使っている。これは俺が厳重に保管しているし、サインをマネするだけでは無理なようになっている。それに、他の人間が瓶に触れると、その者の魔力がインクに染みわたり、サインをマネてもバレるって寸法だ。」
「そうですか。分かりました。」
そう言うと、アイテムボックスから素材を取り出し、何やら作り始めた。
「これで良しっと。じゃあ、マスターこれを使ってください。」
リュシオルが手渡したのは、地球でよく使われていたハンコである。
「これは?」
「ハンコっていう物です。試しにこちらの紙にインクを付けてから押してみてください。」
「おう・・・。これは?!」
「使ってみてわかるように、サインを簡単にすることが出来ます。」
「これは便利でもあるが・・・。」
「話を聞いて、作ったので大丈夫です。それに、そのハンコはマスターしか使えなくなっていますので。」
「え?魔道具なの?」
「軽い魔道具ですね。因みに、上に蓋があると思いますが、そこにインクを少し流しいれてください。」
言われるがまま、インクを流し込む。
「出来たぞ?」
「それで、インクがなくなるまで使用できますよ?」
「なんだと?!それは便利すぎる!」
「はい。頑張って押してくださいね?」
「・・・結局俺が押すんだな・・・・。」
「判を押すだけにしますよ。『風よ』。」
書類を風で舞い上げて、速読で読んでいき、早くサインがいる物・まだ時間がかかってもいい物・話し合いをしてからの物・必要ない物の4つに仕分けていった。
「はい。これで今日押さないといけない分はこれだけです。これは2~3日中に。これは話し合いになると思われる分。これが必要ないと判断した分です。」
「少しだけ確認させてくれ・・・・・・・。正確だ・・・・。」
「これは文句のつけようがありませんね。これだけならすぐですので、ちゃっちゃと押してください!」
「了解であります!」
ビシッと気持ちいい敬礼をしてから、ものすごいスピードで判を押し始めた。
~・~・~・~・~
「いや~あれは助かったよ。あまり仕事が好きじゃないから少し溜まったらしようと思っていたところああなっちゃっててさ。もう顔も見れないぐらい書類が溜まってしまっていたのはびっくりだったよ。」
「あれは、毎日に届く書類を溜めに溜めたからですよ。」
「ほんの一か月、目を話したらああなるってどれだけ仕事が多いんだ?もうやめたい・・・。」
「無理ですね・・・。諦めましょう!」
すっぱりとシフラに切られてしまい、うなだれていた。




