~175~ エクラ
わたくしはエクラと申しますわ。
クレールス家の長女に生まれて、プワソンとは姉弟ですの。
先に生まれたのがわたくしだっただけですが、姉風を吹かしておりますの。
「エクラ様。準備はできましたか?」
「もうすぐ終わりますわ。持っていくものの用意はできまして?」
「もちろんでございます。このバスケットに詰め込ませていただきました。」
「よろしいですわ。さあ出かけますわよ。」
そうそう!この間はダンジョンに潜りまして、いい経験が出来ましたわ。
大人になると身動きが取りづらくなるのをリュシオルは理解してくれたのか、仮面を付けるだけで姿を変える物を作ってくださいましたの。
これがあるからすごく身動きが取りやすくなりましたわ。
ダンジョンから帰ってきて、実は一人で依頼を受けたことがありますの。
大したことではないですが、貴族とバレずに依頼を遂行することが出来ましたわ。
服は色々と用意していますので、バレることはありませんわ。
「もうそろそろ着くと思われます。馬車はどちらにお付けすればよろしいでしょうか?」
「門の中まで入ることを許されているから、中まで回して。」
「かしこまりました。」
昨日は王家主催の夜会で王女様に捕まってしまい、本日お茶会に招かれてしまいましたわ。
学院は本日休みなので、お茶会に行かなくてはなりませんわ。
まぁ~王女様も学院ですので、わたくしが休みなことはバレているのですが・・・。
「ようこそお越しくださいました。クレールス家のエクラ様ですね?」
「そうですわ。話は通っていますのね。」
「はい。中庭の方でするということなので、ご案内します。」
「おねがいしますわ。」
馬車から降りて、案内されるがままついて行き、会場に到着。
「ようこそいらしてくれましたね。どうぞこちらにお座りになって?」
「王女様。昨日ぶりでございます。それでは失礼しますわ。」
進められ席に座ると、わたくし1人だけ誘われたようですわ・・・。
「ごめんなさいね?他の者は呼ばないことにしましたの。」
「なぜでしょうか?」
「碌な話しかしませんしね?そんなことを話したいわけではないですし。あなたとなら有意義な時間を過ごせるかと思いましたの。」
「滅相もない。わたくしは若輩者で、まだまだですわ。」
「そうなら、私なんてもっとまだまだです。王城でぬくぬくと育ち、世間を知らずで育っています。」
「いえ、自覚を持ち、精進されているではありませんか。最近のご活躍を耳にしますが・・・。」
最近グローリア様はある日を境に変わられていましたわ。
あれはいつだったかしら?
そうあの事件があった時からですわ。
あの事件以来、グローリア様は孤児院や治療や国外のことについても頑張っておられますわ。
そしてたまに見せる、恋したあの顔が気になって仕方ありません。
もしかしてですが・・・。
「最近、恋した顔が見え隠れするのですが、誰か好きな方が出来たのでしょうか?」
「え?そ・・・そそそそんそんなことにゃいです!」
「動揺が隠しきれていませんわ。」
「やはり分かってしまわれましたか・・・。お母様にも言われてしまい、相手は隠しとせましたが・・・。」
「わたくしはなんとなくの予想が付いていますわ。もしかすると王妃様も分かって知らぬ振りをされているかもしれませんわ。」
「え・・・もしかしてバレていますか?」
「そうですね。時期から見てバレていますね。」
「そんな・・・。」
グローリア様は分かりやすいですわ。
恋の駆け引きは苦手そうですし、恋する乙女は止められませんしね。
「ただ、相手が相手なだけに苦労しそうですわ。」
「え?やはりそう思いますか?」
「ええ。ギルドの新人とはいえ貴族ではありませんしね。」
「そうですわね・・・って正体を知っているのですか?!」
「え?ギルドで活躍できるのは冒険者だけ。ならば爵位を持っていては領地のことが治められませんわ。」
「あ・・・。考えればわかることでしたわね・・・。私のバカ・・・。」
「そして、誰のことかこれで完璧に分かりましたし。」
「あ・・・。はめられましたわ・・・。」
グローリア様は少し落ち込まれたようですが、落ち込まれた姿もかわいいですわね。
世の男性はこういう女性が好きなんでしょうね。
「とにかく、このことは他言無用ですわよ?」
「分かっています。王女様。」
立ち上がり、淑女の礼をして答えましたが、その仕草をして王女様が固まってしまいました。
「エクラはすごく綺麗な礼をしますのね。」
「そうでしょうか?王女様に比べたらまだまだですわ。」
「違います。スタイルがいいのかすごく様になっています。」
「それはお褒めにあずかり恐縮ですわ。」
椅子に座り、話に花を咲かせて一日を終えました。
この国は今平和ですが、そのうち大きなことに巻き込まれそうな気がしますわ・・・。
この予感が当たらぬように、用心しなくては・・・ですわ。




