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興奮冷めぬままに宝箱を開けると、中にはいいものがあったみたいだった。
「これはかわいいですわ!」
「うん。かわいいね!」
中に入っていたのはかわいらしいブローチだった。
「これは記念に貰っても構いませんこと?」
「これは持っておくべきだよエクラちゃん!」
「持っててもいいけど、鑑定はいいの?」
「それはお願いいたしますわ。」
素直にエクラは差し出してきた。
差し出されたブローチをよく見ると、綺麗に装飾されていて、こんな初級で出てくるとは思えないものであった。
「鑑定してみたけど、これはここで出るとは思えないものだね。効果は、防御膜を5秒張ることができる効果だよ。」
「それはすごいですわ!」
「一時的でも張れたら、逃げる時間を稼ぐことができるな。」
「そうですわね。とっさに張れたら暗殺者の奇襲も何とかなりそうですわ。」
「え・・・エクラちゃんところって暗殺者来るの?」
「結構日常茶飯事ですわ。そして、それぐらい倒すのが貴族の嗜みですわ。」
聞きたくないことであった。
貴族の嗜みがそんなものではないと思いたいものだが、実際の貴族が言っているので信じざるを得ないのであった。
「貴族って怖いんだな。」
「そうですわね。他がどうかは分かりませんが、我が家はそうですわね。ですので、使用人は皆武術が出来なければ務めることが出来ませんわ。」
「うん。エクラちゃんの所で働くのは最終手段にするね。」
「いつでも来て構いませんのよ?」
「・・・考えとくね。」
怖い貴族の事情を聞いて、テンションの高かったレオーネが冷静になれたようであった。
「さて、残りの階層も制覇してしまうか。」
「そうですわね。次の階層からこれも使いますわ。」
「得意のレイピアは使わないのか?」
「レイピアは鍛錬しますが、これも使えるようになっておきますわ。武闘会では刃引きしますから安心してくださいませ。」
「怖いから刃引きした上から布を巻いてね?」
「もう!分かっていますわ!回転で切れてしまう可能性があるということは分かっていますわ!」
「それならいいんだ。」
しっかりと注意事項は覚えていたみたいである。
この武器を教えた時に注意事項も教えておいたのである。
「話は終わったか?次に進むぞ?」
「大丈夫ですわ。」
「私もよ。」
「私もです。」
「俺も大丈夫だ。」
「行くぞ。」
ボスのフロアから出て、次の階層に進んだ。
「ここはゴブリンが出てくる階層だ。ここもペアで行う。」
「だいぶ慣れてきたから大丈夫よ。」
「ここで少し口を挟ませてもらうね。」
「ん?これじゃあだめなのか?」
慣れてきた頃が危ないと思い、注意を促すことにした。
「たぶん分かっているとは思うけど、改めて声を出して伝えるね?今慣れてきた時が一番怪我をするから気を引き締めてほしい。ペアの時も分かっていると思って、声を掛けないは無しでね?」
「長年組んでいるのと、つい最近組み始めたでは違いますものね。」
「あぁ。気を付けたいと思う。」
皆からいい返事をもらったので、笑顔で頷き返す。
そこからは先ほどの話を心にとめて、快進撃を続けた。
ペアでの動きもどんどん磨きがかかり、阿吽の呼吸まであともう少しかと思われるほどだった。
「もう少ししたら最終ボスなのだが、ボスは?」
「ゴーレムです。」
「ということだ。特徴は分かるか?」
「それならわたくしが。ゴーレムは土で出来ているのから、岩・鉄・銅・銀・金とランクが上がっていくごとに固くなりますわ。そして、この初級で出てくるのは土のゴーレムですわ。」
「倒し方は?」
「それは私が。ゴーレムはコアを壊すことで動きを止めることが出来ます。」
「付け足しで。」
皆の会話に急に入ったリュシオルにびっくりし、皆がバッっと振り返った。
「びっくりした。声が急に聞こえたらびっくりするじゃない。」
「俺もいるんだけど・・・。」
「いるのは知ってるけど、何かないと口出しがないから、なにかあったのかと思ってびっくりしたの。」
「それは申し訳ない。倒し方のもう一つの方法があるから伝えようかと思って。」
「どうやって倒しますの?」
「要はコアがなければ動かないだから、抜き取ってしまうのさ。」
「「「「「あ!」」」」」
「中々盲点だっただろ?」
着眼点は皆合っていたのだが、そういうものだと思っていたのだ。
「なるほどね。でもどうやってするのですの?」
「俺のやり方を教えても面白くないから、自分たちで考えて試してみて?」
宿題を出すように、皆に問いかけた。
「それぞれに合った倒し方が一番いいけど、武器によって、向き不向きもあるから、それを考えて挑んでほしいかな?」
参謀のプワソンはそのことを聞き、ハッとしたようで、警戒しつつ、ボスの攻略を考え始めた。
「しばらく考えるから、私を抜いてペアを変えて戦って欲しい。」
「わかったぜ!倒せる方法をしっかり考えといてくれよな!」
リンブルはエクラと組みながら敵を倒していた。
その間、プワソンはブツブツと呟きながら戦闘を眺めていた。




