登校です
何でも感想くれたらうれしいです
私は峰さんと一本道である通学路を歩いています。この一本道は坂なので一歩一歩が足に負担がかかります。まだ、季節は春なのでましな方なのですがこれから春夏秋冬通うことになると辛いです。
夏とか虫が多そう。ううー、嫌だな。
峰さんは車で通学が多そう。メイドさんもいますし、運転手の一人や二人軽く呼べそうな気がしますが。
「そういえば、峰さん。メイドさんがいるなら、運転手もいるんじゃないですか?その人に学校まで送ってもらうことできなかったんですか」
私が峰さんに話しかけると、はははーと気楽な声で笑い返した。
「いやー、普段はそうなんだけど今日は自分で通学路を歩いてみたくなってね」
「なんでまた、そんな出来心が?」
「毎日、学校まで送ってもらっているのにもかかわらず、通学路を知らないってなんかいやでさー」
ブルジョワだ。ブルジョワがいる。
「そうですか。峰さんはお嬢様なんですね」
その割に品はありませんけど。
「お嬢様って大袈裟な。普通だよ普通」
本人が言う普通って言葉ほどあてにならないものはありません。
日本人の特徴の一つに謙遜という言葉がありますが、今がまさにその時です。
「しかし案外通学路って距離があるものだね」
「そうですか?」
私は首を傾げます。確かに山の上に学校がありますから、坂道がしんどい事が多々ありますけど、どうなんでしょう?
辛いのは坂だけで案外距離はないようにも思えます。私の予測ですと、あと5分程度でつくと思いますし。
「私、徒歩で5分なんて体育の授業で初めて歩いたよ」
またもやブルジョワ発言。庶民がもう泣きそうです。
「なぜわざわざ静高に?他の学校も選択肢はあったはずなのに」
峰さんはあーと核心を突かれた表情をしました。
言うまでもなく、私が通う静高は公立の学校です。上位の進学校とはいかないもののそこそこレベルの学校であり、静高のレベルを下回る他の公立や私立の学校は沢山あります。
「まあ、家の事情かな?」
峰さんはどう言えばいいのか分からない心境のようで頬を掻いています。
家の事情ならあまり突っ込まないことにします。無駄な先入観は不幸を呼ぶだけです。峰さんが言うなら峰さんが言うまんまに納得するとしましょう。
「そうですか。家の事情ですか」
私はそう返しときます。すると、峰さんは何か思いつめた顔をして、
「・・・うん」
私はその時の彼女の顔が非常に印象に残りました。一度、どこかでそんな状況を見たことがある既視感が私を襲いました。
その会話を最後に沈黙の空間が訪れます。
別に気まずいとかの感情はありませんでした。何より、今初めて話をしましたしね。沈黙は金なりというのでそれに従っていこうと思います。
ひたすら、ビジョンに映るのは木ばっかりです。緑です。
涼しい風が吹き続け、小鳥のさえずりが響くのはのどかでいいのですが、いくらなんでもうるさすぎかと。多くの森林伐採を経て、この森は動物たちのたまり場です。地球温暖化の反動恐るべし。
けれど、私は3年間、ここから通学するのだから少しずつ慣れていかないといけないわけです。明らかに学校の設計ミス、何でこんな山の上に建てたんですかとブツブツと一人で心の中にて抗議をしなくてはいけない羽目になるなんて。改善しない限り延々と抗議することにここに誓います。
「ねえ、夜代々井さん?」
峰さんが沈黙を破ります。目の前の森林から峰さんの声の方向へと私は視線を移します。
「何ですか?」
「眠たくなってきちゃった。休んじゃ駄目?」
峰さんは今にも寝そうで足取りがフラフラしています。眠たそうな目をこすりながら、私に問いました。無論、私はその問いにはNOです。
「もうすぐですから頑張ってください。そろそろ着きますから着いたあとに寝るなりしてください」
「えー。じゃあ、話そうよ。眠気覚ましに」
心の奥で溜息したい気分です。しかし、ここで寝られてはどうにもならないので話すことにします。
「峰さんは昨日何時に寝たんですか?」
峰さんが眠い理由を聞くのと同時に峰さん自身が前の記憶を思い出すことで退屈を紛らわせる質問をします。
「そうだねー、昨日は9時くらいに寝たかな」
うわぁ。よいこの寝る時間です。
寝すぎて眠いのではないでしょうか。
「多分、寝すぎて眠いんじゃないかな」
うわぁ。自覚ありますよこの人。
「ねえねえ、昼って空いてる?」
いきなり話が飛びました。
「いいえ。特には」
いきなり話が飛んでも難なく私は答えます。
「じゃあ、一緒にお弁当食べよお弁当」
さっきの眠気はどこに消えたのかハイテンションです。このままでは峰さんに呑まれそうです。
それに私はお昼は一人で食べるのが好きなので断ろうとしたのですが、
「いやー、楽しみだな。一緒にお弁当か」
本人は既にその気でいます。私はまだ肯定も否定もしていないのですが。ここはハッキリと言うべきです。
「あの・・・」
「あっ、学校だ!ようやく着いたー。ありがとう夜代々井さん。また昼ねー」
私が言う前に言って、そして、行ってしまわれた。私に大きく手を振って。
私はまたあの夢を見ていました。
もう一人の私が出てくる夢を。
「こんにちは。また、会ったわね」
もう一人の私が挨拶をしてきます。私は何も答えず、
「私には夢だとわかって自分に話すほど変人ではありませんので」
「あら、これが夢だというの?」
「違うんですか?」
もう一人の私は挑発的な眼差しでこちらを見ます。
「まあ、今はそれでいいけどかなり近いうちに・・・ね?」
「・・・・・」
私はもう一人の私と対峙します。もう一人の私の表情は緩やかになり、微笑みます。
「では、またね」
彼女は私の夢から消滅しました。
そうです。これは夢です。
それが夢じゃないと気づいたのはだいぶ近い未来の話です。
なかなか本編に進みませんが長い目でみてください