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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第1章
8/32

07

 その日の夜、春菜はアルバイトが終わって携帯端末を確認したところで、大声を出して喜びを表現してしまう程の吉報が届いていた。


 風羽子から届いたメールは『わたしのカードも光った』という内容だった。

 柊呂や春菜のように声を聞く事は出来なかったらしいが、それでも春菜にとっては仲間を手に入れたような感じがして、嬉しくて仕方なかった。


 春菜は急いで柊呂に連絡を入れたが、反応は無かった。


 返事が来たのは夜中を回ってから。

 柊呂は、怒りを覚えた相手を警察送りにしてやったにも関わらず、他にも悪い人がいるとしてそれを捕まえるべく、夜な夜な巡回を繰り返していたらしい。

 そのため、春菜からのメールには気付けないでいた。


 吉報はもう一つあった。


 一緒にタイムカプセルを埋めた、遠藤兄弟の住所がわかったのだと言う。

 風羽子の家の洋菓子店には名簿があり、それを熱心に見ていたら、母親が一緒に遊んでいた「しゅうちゃん」を、遠藤さん家の長男、秀平であると覚えていたらしい。


 春菜はそれを知って、接客業で相手の家族構成まで覚えている風羽子の母親の凄さに感動した。


 連絡があった翌日、春菜はこの学校に来て初めて、幼馴染の風羽子と同じ時間を過ごした。


 待ち合わせはお昼休みの屋上。

 九月も中旬とはいえ、まだまだ炎天下。

 屋上で弁当を食べるという勇気のある人物は、それほど多くなかった。


 日焼け止めをばっちり塗った風羽子に対して、春菜は弁当と傘を持って参上した。


「ハルちゃん……?」


 思わず苦笑いを浮かべる風羽子だったが、春菜は気にせずに雨用の傘を日傘代わりにして肩に担ぎながら、弁当を食べ始める。


「で、ふうちゃん! 光ったんだよね!? 見せて、見せて!」


 春菜は周りからどう見られているかなど一切気にせず、風羽子に聞いた。

 風羽子は少し世間とズレてしまっている春菜に驚きつつも、自分のカードを胸のポケットから出して、膝の上に置いた。


「あのね、昨日ハルちゃんたちが帰った後に、お店の手伝いをしていたの」

「ふむふむ」


 春菜は弁当を食べながら、風羽子の話を聞いていた。


「でね、接客している時に“笑顔になってくれて嬉しいなあ”って思ったら、ポケットに入れていたカードが、ハルちゃんが言ったようにカイロみたいに温かくなって、光っていたの」


 風羽子は持っていた弁当を腿に置き、片手を胸に当ててその時を思い出しているかのように言った。


「おお! 本当に光ってるっ!」


 春菜は大声をわざと抑えるようにして、かすれた声で歓喜の声を上げた。

 目を開けた風羽子にも、自分の膝でカードが蛍のように光っているのが見えた。


 でもそれだけだった。

 その点滅は数回繰り返しただけで消えてしまう。


「あれ?」

「そうなのお」


 状況を理解した風羽子が、春菜の疑問に合いの手を入れた。


「何か違うんだよね、きっと。だから点滅が続かないんだよね?」


 意見を求めるように言われるので、春菜は弁当を自分の横に置いて、胸のポケットからカードを取り出した。


 そして思う。


――カードさん、カードさん。

――もう一度私に力を貸してください。

――十年も一緒に居たんだもんね。ふうちゃんのカードも仲間だよね?

――一緒に……


 そこでふと、春菜は顔を上げて風羽子を見た。


「ん?」


 風羽子は弁当を食べながら、不思議そうに春菜を見つめる。


「私……」


 柊呂が風羽子に話そうと言った時のもやもやを思い出した。


――ふうちゃんを戦いに巻き込みたくない。


 カードの力によって、傷害事件の犯人を捕まえてしまった春菜。

 力がよくわかってない春菜が犯人を逮捕出来る状態にしたのは、単に運が良かっただけで、なぜ上手く事が運べたのかわかっていない。


 そんな状態で風羽子を巻き込む事が嫌だった。


「『私』?」


 風羽子が春菜の言葉を反復したのは、次の言葉を促しているためだ。


「私、ふうちゃんを……」

「わたしを?」


 春菜は昔を思い出した。

 血の気の多い男の子たちにいじめられている風羽子を。

 それを柊呂や春菜たちが助けていた。


――ダメ。やっぱり、ダメだよっ!


 春菜は首を横に振って、頭を切り替える。


「ふうちゃんは遠藤兄弟にカードを渡して、光って力になるって事を教えてあげてよ。ね?」


 春菜は食べかけの弁当をそそくさと片づけ始めてしまう。

 取り繕ってしまった事にいたたまれず、その場から逃げたいと思ったのだ。


「え?ハルちゃん、ちょっとお!?」


 慌てる風羽子をよそに、春菜は立ち上がった。


「じゃ、よろしくねっ」


 踵を返して春菜は颯爽と屋上から去っていく。

 取り残された風羽子は一人ぽつんと、春菜の去ったドアを見つめていた。


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