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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第1章
2/32

01

 安城春菜はこの日を待ち望んでいた。


 今日は、十年前に近所の仲間と埋めた、タイムカプセルを掘り起こす日。


 まだまだ残暑が続いているため、春菜のショートカットの襟足から汗が滴り落ちる。

 それは首からぶら下げたタオルへと吸収されていった。

 春菜はTシャツに7分丈のパンツ、タオルにスコップ片手という出で立ちで、浮き足ながら目的地へ向かう。


 春菜の住む街は少子高齢化社会を表したような所。


 子供の大半は少し離れた私立の学校に通い、公立の学校は、遠いところから寄せ集められて、なんとか二クラス分の生徒が集まる程度。

 そのため、“同じ学校に通う近所の子供”という存在は大変貴重なものだった。


 子供の行動範囲は徒歩圏内。

 近所の仲間はとても少なく、相反するように結束力は固くなった。


 それを形にしたのが、十年前に埋めたタイムカプセル。


 入れた物は、それぞれの将来の夢を描いたカード。


 描いた当時は六歳の少女だった春菜だが、そのカードの内容をしっかり覚えている。


 今、その思い描いた夢に、アルバイトとして就けているのが何よりも証拠。


 小さい時から通っていた、“近所の花屋さんになりたい”。


 それが春菜の夢だった。



 小学生の時は高く威圧感のあった塀が、今では普通の高さに見える。


 ガリバーにでもなったかのような錯覚を面白がっている間に、春菜は目的地へと到着した。


 そこは十年経っても変わらずの空き地。

 殺風景な中に大樹があるのは昔と変わらない。


 ただ、思ったよりも狭く感じるのは、春菜の体が成長した証でもある。


 目的地の木陰の下には、一人の男性が木に背を預け、座り込んで居た。


 長い足を片方投げ出し、もう片方を曲げてその膝の上に肘を置いている。

 流れる夏の雲を見る真っ直ぐな視線と引き締まった顔つき。

 茶色の髪は重力に負ける事無く持ち上がり、躍動感を感じさせる。

 半袖シャツの裾から見えるウォレットチェーンが、夏の日差しを受けてキラっと光った。


 その人物が立ち止まる春菜に気が付き、片手を上げる。


「おう」

「……ヒイロ!?」


 半信半疑で声を掛けると照れたような笑顔が向けられた。


 石倉柊呂いしくらひいろ、高校二年生で春菜の一つ年上になる。


「あー……ハル、だよな?」

「そうだよっ! ヒイロすごい、大きくなった!!」

「そりゃ、そうだろ」


 あっという間に、昔話に花が咲く。


 春菜と柊呂は中学までは同じ学校だった。

 その当時は幼馴染みとは言え、思春期の男女。

 中学校という厳しい上下関係の社会において、まともに話す事は無くなっていた。


 きちんと会話をするのは小学生ぶりとなる。


 そこへ、タイムカプセルに思いを寄せるもう一人が現れた。


「ふうちゃ、あっ……内田先輩」


 昔の記憶に戻った春菜が昔のあだ名で呼ぼうとして、慌てて訂正する。


 やってきた内田風羽子は柊呂と同じ高校二年生。


 春菜と同じ高校に通うが、一つ年上に当たるため、先輩と呼ぶのがふさわしい。

 例え幼馴染みでも一学年違えば、会釈程度の仲になってしまう。


 淡い茶色のゆるいウェーブのかかるセミロングの髪は、風羽子の優しさがそのまま表現されているようで、着ているふわっとしたワンピースも、より一層風羽子の優しさを引き立てている。


 少しタレ目の目元が細められ、優しさが最大限に表現される笑顔を風羽子が作った。


「いいよ、ハルちゃん。今日は先輩じゃなくて、幼馴染だもんね」

「ふうちゃん、ありがとっ!」


 そう言って、春菜は風羽子の腕に絡みついた。


 昔から人にくっつくのが好きな春菜。

 それを見ていた柊呂が「オマエ、昔からそれ、やってたよな」と言って笑った。


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