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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第2章
18/32

17

 今度はモンブランを味わいながら話が出来た。


 それはブレスレットに形を変えたカードの話。

 風羽子が興味津々に春菜の手首に着いているブレスレットを突いた。


「可愛いなあって思ったんだけど、まさかカードが形になるなんて……」

「ヒイロの剣みたいなものだと思うよ」


 春菜もつられてえいえいとブレスレットを突いた。

 人じゃないので、当然反応はない。


「わたしのも変わるかな?」


 風羽子は自分のカードを胸元のポケットから出した。


「ハナ子、ふうちゃんのカードも変わる?」

【はい】


 きっぱりと肯定してくれた。


「変わるって」


 伝えた風羽子は目を見開いて春菜をまっすぐに見ていた。


「え?」

「き、聞こえた!!」

「ええ!?」


 思わず大声になってしまい、二人は口を手で抑えた。

 そして顔を寄せ、小声で話す。


「聞こえたって、ハナ子の声が!?」

「頭にエコーみたいに響くこれ、そうでしょ!?」

【はい】

「ほらまた!!」


 今までカードの持ち主にしか言葉は聞こえないと思っていたのに、風羽子にも聞こえていた事に春菜は驚きを隠せない。


「ハナ子、何でふうちゃんに聞こえるの!?」

【この場合、風羽子さんにも聞こえた方が良いと思い、伝えました】

「ははは……」


 風羽子は笑ってみせるが目が笑っていない。

 驚きすぎて理解が追いつかないのだ。


「それってカードの時にも出来たの?」

【いいえ。カードの形状ではそこまでの力はありません】

「へえ……」


 カードの形状変化に伴って、力もアップしているのだと気付く。


「ほ、他に何が出来るのかな?」


 春菜は少し興奮気味に聞いてみた。

 力がアップしているなら他にも出来る事が増えているのだろうと踏んだのだ。


【春菜さんを守ります】

「え?」


 ハナ子がそう伝えた途端、ブレスレットが光の粒子となり、頭と手足に飛んでいった。


「ちょっ、ハルちゃん!?」


 そんな物を初めて見る風羽子が驚いて声を掛けるが、春菜もどうしていいかわからない。


 一瞬パッと明るい光を放った後、粒子は物体に変化をした。


 風羽子は周りを見渡すが、幸い客は居らず、親たちもその光に気付いていなかった。


 春菜はまじまじと変化した物を見る。

 日除け用のつばの大きな帽子に、指先の空いた手袋、ショートブーツと、どれも園芸用で使いそうな物ばかり。

 おしゃれというより、ゲームのキャラクターが着けていそうな物だった。


「帽子にグローブにブーツ?」

【はい】


 ハナ子は返事をした。

 形状が変わって頭の中に聞こえてくる声に変化はない。


「ハナ子ちゃん、ちなみにこれは何が出来ちゃうの?」


 風羽子が小声で聞いてきた。


【例えば】


 春菜の手がつつっと何かに引っ張られる。


「え? 私、動かしてないよっ!?」


 まるでグローブが意志を持って勝手に動いているようだった。


 グローブはテーブルの上に乗っている小さな花瓶に手をかざした。

 春菜の手によって二人の視界から隠れてしまった花瓶。

 その姿が次に現れた瞬間、花は無くなり、花瓶だけが残されていた。


「花は……」


 目を見開いて驚く風羽子の指が春菜の掌を指している。

 春菜は確認するように自分の手のひらを見た。そして口を大きく開けて驚いた。


 グローブの掌の中に、花が種の状態で収まっている。


「は、花!?」


 花が種まで退化したのだ。


【元に戻します】


 驚く春菜をよそに、ハナ子は再びグローブを花瓶に近付けると掌を開き、一瞬でそこに花を元のように咲かせてしまった。


「戻った……」


 風羽子が呆然とそれを見ている。春菜も事態を今一つ把握出来ず、そのままでは目立つ事から、取り敢えず「ハナ子さんも元に戻りましょうか」と言って、ブレスレットの形状へと戻した。



 羨ましがる風羽子に、これ以上カードの事を伝えるのは危険と思った春菜は、急いで家に帰った。


「ふうちゃん、気付いちゃうかな……」

【風羽子さんがカードと話す事は、いけない事ですか?】

「いけなくないよ。私だってハナ子と話せて嬉しいし楽しいもん。でも……」


――戦わせたくない。


 柊呂に知られたら春菜と同じように戦いに参加しろと言うに決まっている。

 春菜は風羽子にそうなって欲しくはなった。


【人間は争ってばかりではないですか】

「そんなんじゃない!!よ……」


 ふと今日の授業中の事を思い出した。世界史の授業は戦争の内容だった。


――まさか、

「ハナ子、授業とかも聞こえちゃったりしてるの?」


 悪戯半分で聞いたが、答えはいつものはっきりした口調の【はい】と言うものだった。


――や、やったああ!!

「ハナ子が授業をちゃんと聞いてくれれば、私、楽チンじゃん!」

【春菜さんのお役に立てるなら】

「なるなる!!」


 春菜はご機嫌でブレスレットと戯れていた。



 これは後に、一人の犠牲と共に灰になる事件へと繋がっていく。


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