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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第2章
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15

 春菜は柊呂に『今夜は無理』と短いメールを送って、ベッドの中でふて寝をしていた。


 祖父母の気持ちを汲んで店長が思いを込めて作った花束を、穂純が嫌そうに受け取りながらも、中に居るであろう親に嬉しいと言う気持ちを伝える。


 たった数分の出来事を春菜は何度も頭の中で再生させては、ため息をついた。


【春菜さん、元気を出してください】


 潜った布団の中を、蛍のような光がゆっくりと点滅し、春菜を照らしている。

 まるでそれは、春菜を励ますような柔らかな光。


「ハナ子ー……」


 春菜はカードからブレスレットに形を変えた物に“ハナ子”と言う名前をつけていた。


 カードの形状に戻らないので、“カードさん”と呼ぶには違和感がある。

 そしてハナ子の方も春菜の事をさん付けで呼ぶようになった。


 このハナ子と名付けられた、意志を持つブレスレット。

 カードの時とは違うのは形状だけではない。

 願わなくても、常時春菜と意思の疎通が取れる状態となっていた。


 草花をモチーフにしたブレスレットはさり気なく、春菜の学校はアクセサリー着用を禁止してはいないので、常に着けていられるデザインだった。


【はい】


 ハナ子はカードの時と同じような淡々とした返事をする。


「人ってわからないよ……」

【私もわかりません】


 意志があるとはいえ元はただのカード。

 人の気持なんてわかるわけがない。


「あははっ……」


 春菜は何だか悲しくなって、乾いた笑いが自然と出てしまう。

 それは布団の中へと吸収されていった。


【同じ人間に聞いてみるのはどうでしょうか?】

「同じ人間?」


 どういう事かとハナ子に聞き返すと、カードではなく人間に聞けと言う意味だった。

 既に対等に会話が出来るので、春菜はハナ子がカードだったという事をついつい忘れてしまう。


「同じ人間……」


 同じ力を使える人間として柊呂は春菜に相談し、協力を仰いだ。


――私の場合は?


【近くに居るじゃないですか】


 しゃべる声だけでなく、従来通りの心の声も聞こえるハナ子が教えてくれた。


「ふうちゃん……」


 春菜の頭の中に出てきたのは風羽子だった。

 洋菓子店と花屋では決して同じ業種とは言えないが、接客業と見るなら同じだ。


 春菜はガバっと掛け布団を持ち上げて、机に置いた携帯端末を手にする。


 そこには既に、メールの着信を知らせる光が点滅している。


「ヒイロ……」


 それは柊呂が春菜を心配する内容のメールだった。


「ごめんね。今はちょっと、ガンバれないやっ」


 痛む心を抑える。


【春菜さん、今は少し、休みましょう】


 昔、何かのゲームで“一回休み”というものを引いてしまった春菜。


 待っている間、みんながゲームしている姿を、羨ましい思いで見ていた。


 今は違う。


 ゲームではなく、人生においての休憩が必要な時。


「一回休み」


 何だかその言葉がとても安心するものに思えた。

 小さくつぶやくと、ハナ子は【はい】と、今度は優しく返事をしてくれた。


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