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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第2章
14/32

13

 翌日の朝のニュースで、アルバイト先の店長が“奇跡の金木犀”について取材されているのを偶然に見てしまい、それと同時に、関東一連の暴走族グループのリーダー格数人が検挙された、と言う知らせも見た。


 柊呂が勝利で収めたタイマンの後、立ち去る際にパトカーを何台も見たので、おそらくそれだろうと春菜はわかっていた。

 今度は春菜が柊呂に『犯人はおまえだ!』と、前にもらったメールを転用すると、柊呂から『犯人じゃなくて、勇者だ!』と現実離れした内容が送られてきた。


 普通に見れば高校生がこんな内容のメールを送るのは痛々しい事だが、その力で悪い人が捕まっているのだから、それもいいのだろうと春菜は朝から上機嫌だった。


「ハルちゃん、何かご機嫌ね」


 店長が小さな花束を作っている最中に、店の掃除をしていた春菜に声を掛けた。

 そこで春菜は自分が鼻歌を歌いながら掃除をしていた事に気付く。


「え、あっ、すみません!」


 恥ずかしくなり、慌てて鼻歌を止めて身を起こすと、店長はクスクスと笑っている。


「良いの。そういうご機嫌も人に伝染るのよ。続けて。私、ハルちゃんの鼻歌、聞きたいわ」


 店内にはどこの国の言葉かよくわからないけれど、カフェで流れるような小洒落た曲が流れている。

 何枚かあるCDの内の一つだ。

 店内で何度も再生しているうちに、メロディーだけは覚えてしまったのだった。


「ううっ……」


 しかし、いざ歌えと言われて歌うのは恥ずかしい。


 それを察したのか、店長が曲に合わせて鼻歌を歌い始めた。

 まるで自分に合わせてくれているような気遣い。

 唇に笑みを讃え、手先から次々と花が咲いていく。


――笑顔の花が咲いてる。


 春菜も鼻歌を歌いながら、掃除を再開させた。


 数十分の後、店長の鼻歌が止んだ。そ

 の代わり、声高らかに完成を伝える言葉が響く。


「うーん、上出来!」


 出来上がった花束を見つめて納得している店長の顔は、いつもの優しい笑顔ではなく、どことなく芸術家のような立派な雰囲気を醸し出していた。


「店長さすが!素敵です」

「本当!?嬉しい!」


 突然ころっと表情を替えて、乙女のように喜んだ後、それを春菜に渡す。


「え? 私に?」


 突然のプレゼントと思って驚いた春菜はその花束を受け取って、きょとんとした顔をしていた。

 それを店長が見て笑う。


「違う、違う。今日はそれの配達に行ってくれるかしら? 場所もハルちゃん家の近くだし、終わったら直帰して良いわよ」

「チョッキ?」


 春菜は聞いた事のない単語を発音し、自分の袖なしニットを引っ張った。

 昔、祖母がこのような物を“チョッキ”と言っていたのを覚えていたのだ。


「ハルちゃんって本当におかしな子ね。そのチョッキじゃなくって、直接帰るって意味の直帰。出先で仕事を終えたら会社に戻らず、帰宅していいって事よ」

「へえ……直帰」


 仕事で使う大人の言葉を覚えた春菜のご機嫌は、更に上がるものとなった。


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