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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第2章
11/32

10

 アルバイトを終えた帰宅途中の道で、柊呂を見つけた。


「ハル」


 声を掛けてきたのは柊呂からだった。


 柊呂は座っていた歩道の柵から身を起こし、自転車を引く春菜に近付く。

 春菜はそこから自転車に乗って逃げる事も、無視する事も出来ない。


 近くまで来た柊呂に、春菜は条件反射で謝っていた。


「ごめんなさいっ!こんな騒動になるとは思ってなかったの!」

「だろうな」


 返事をした柊呂は怒っているわけではなく、苦笑いを浮かべていてくれた。

 しかし拳を作られ、手の甲でコツンと軽く頭を叩かれる。


「でも、やりすぎ」

「はい。反省してます……」


 春菜は小突かれた部分を手でさすりながら、柊呂と同じような苦笑いを浮かべ、帰路へと歩き出した。

 柊呂もそれに合わせて歩みを進める。


「ヒイロはこれから?」


 それは柊呂の日課になりつつある、“悪いヤツを懲らしめる”という夜の巡回だった。

 既に何人かを警察送りにしているらしい。


「そう」

「危なくないの?」

「うーん。まあ」


 そう言う柊呂の口ぶりが気になり、春菜が覗きこむようにして聞いた。


「歯切れわるいね。何かあった?」

「まあ、ちょっとー……」


 そう言って、柊呂は春菜をじっと見返した。


「な、何っ!?」


 突然見つめられた事で、春菜は動揺して視線を前に戻す。


「付き合わねえ?」


「はっ?」

――な、何!?


 驚いて自転車のブレーキを握りしめ、目を見開く。

 視線は再び柊呂に戻されてしまった。


 いくら幼馴染で知っているとは言え、会ったのは二年ぶりくらいだし、そもそも話したのは五年ぶりくらいで! と、春菜が更に動揺しているのをよそに、柊呂は話を続けた。


「ちょっと一人だと難しいかもって思ってんだよ。んで、同じように出来んのってハルだけだからさー」

「へっ?あっ、ああっ!!そういう事ね!!」


 春菜は動揺を隠すように赤面して大きく返事を返すと、それに気付いた柊呂もつられて顔が赤くなった。


「ちょっ、バカ!チゲえよ!何、勘違いしてんだよ!バトルだよ、バトル!!」

「そっ、そうだよね!もう、ビックリしたなあ!」


 驚いたのはお互い様だろう。

 二人に気まずい沈黙が流れ、それに耐えられない春菜が言葉を取り繕う。


「で、相手は?」

「あ、ああ」


 柊呂は照れを隠すように春菜とは目を合わさず、前方を見て歩き出し、今の相手を伝えた。


 相手は町内を越えた関東エリアの一部を支配している暴走族だと言う。

 学校の友だちがその手下の手下の手下の手下にカツアゲされて、正義心に火の付いた柊呂が相手をしているうちに、いよいよラスボスのエリア族長なる人が出てきてしまったらしい。


「ヒイロ、何やってんの?それ、ただのケンカでしょ?」


 話を聞いた春菜が呆れて言い返すと、柊呂は全力で否定した。


「違う!一方的に暴力を振るうのはケンカじゃねえ!いじめだ!!」

「あっ……」


 春菜の中にある、あまり好きではないキーワードが出てきてしまった。

 風羽子がいじめられていた事は、春菜にとってもトラウマでもある。


 だから“いじめ”というものが嫌いになった。


 それを柊呂は知ってか知らずか、口にしたのだった。

 そして風羽子の事を春菜と一緒に守ってきたのが柊呂。

 正義感の強い柊呂は他人を放っては置けない。それが友達なら尚更だ。


「うん、わかったよ」


 春菜は誰とも知らない柊呂の友達に、昔の風羽子を重ねてしまい、頭を縦に振った。


「ありがとう!マジで助かる!こんなん、誰にも頼めないからさー!」


 その通りだろう。


 普通の人が柊呂の剣やスピードを見たら何事かと思う。

 噂にもなる。

 しかし同じ力の出処であるカードを持つ者同士なら、何の問題もない。


 春菜自身も、実は少しずつカードの力をコントロール出来るようになってきている真っ最中。

 もう少し堂々とやってみたいという好奇心もあったための返答だった。


「時間と場所は?」

「おう。これからだ」

「はっ?」


 春菜は自転車に急ブレーキを掛け、歩みを止めると、食い入るように柊呂を見つめた。


「だから、これから」


 念押しするように言う柊呂に、春菜は開いた口が塞がらなかった。

 沈黙が流れた後、春菜は慌てて否定する。


「ちょっ、ええ!? 無理に決まってんじゃんっ! 私、これから帰らなくちゃいけないし、そんな夜中に出歩けないってばっ!」

「ああ? コンビニ行くとか、フーコん家に泊まりに行くとか、何か良い訳考えろよ」


 あまりに強引な良い訳を提案されて、春菜は混乱する。


「そんなっ、無理だって。無理! そもそも何でそんな急なわけ!? もっと早くに言ってくれれば、まともないい訳だって考えられたのにっ!」

「しょうがねえだろ! こっちだってハルを巻き込むか、ギリギリまで考えてたんだから!」

「ギリギリまで考えるにしても程があるでしょ!? せめてバイトの前くらいに教えてよ! 何で探偵みたいに『犯人はオマエだ!』なんてメールだけなのっ! もっと言う事、他にあったんでしょうがっ!」

「バイトの時間なんて知るかっ! つうか、終わった事にとやかく言うなよ、うっせーなあ!」

「はあ!? これから加勢してやろうって相手にその態度は……あ、メールだ」


 春菜は猛攻撃で怒っていたにも関わらず、携帯端末の着信で一気に表情を変え、口喧嘩を止めて携帯端末を見始めた。


「……え?」


 あまりの変わり身の速さに、柊呂はあっけに取られる。

 そしてそれは更に続く。


「あ、ふうちゃんが遠藤兄弟の弟くんと、コンタクトが取れたって!」

「あ……そう……」


 笑顔で携帯端末の画面を向けられて、柊呂は呆然と答えるしか無かった。


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