縁談
四年前、私は死ななかった。
私がそう望んだから。
お父さまは優しくて大好きなのに、笑いながら遠回しに死ねとおっしゃる。
恐ろしかった。
私は自分の立場を理解している。
《四年前、神の御元に行けなかった出来損ない》
民は私のことを冷たい目で見る。
王家は私のことを蔑んでいる。
周りはこの国はいつ神に滅ぼされるのかと恐れている人たちばかり。
でも、ジュレイドは違う。
誰よりも何よりも強く美しい彼は恐れるものなんてない。
無くして悲しいものもない。
私はそんな彼が羨ましく、そして愛おしかった。
「ーーー結婚?」
「ああそうだ。相手はオーリッヒ公爵の次期当主カーザルクスだ」
姫は薄ぼんやりと覚えている男を思い出した。
オーリッヒ公爵家ーームラキソ王国の名門貴族。
しかし、公爵家の跡継ぎは顔はいいが、あまり頭の回る男ではない。
「どうして彼なのですか?」
「父に言わせるのか?」
「はい。愚かな私に、分かりやすく」
「国内の安定をもたらすためが表向きの理由であることは承知してるな?」
「はい」
国のためならば降嫁するよりも他国へと嫁ぐ方が余程利益がある。
最近は周辺国の情勢が不安定なのだ。
「お前は神の御元に行くことの出来なかった娘だ。いつ何時何が起こっても良いようにしなければならない。あの男ならば何とでもできよう」
「オーリッヒ公爵が認められたのですか?」
「多少の要求ならば飲んでやる。何よりもお前がわが国に不利益をもたらさないようにすることが先決だ」
父王はこれで満足だろうと言うかのように体重を背もたれに預けた。
そして返事はただひとつであるように姫に問うた。
「この縁談、認めるな?」
満足気な父王に姫は儚げな少女の如くその唇を開いた。
「嫌ですわ」
投稿する度に短いなあと思っています....。