ティータイムの最中で
ムラキソ王国の末姫は予定から外れて死ななかった。
しかし、決して平穏に暮らしていたわけではない。
何者かに殺されそうになったことがある。
高熱が出たときもあった。
贄の台に立たされた時もあった。
それでも末姫は生き残った。
何故、と問われると姫は言う。
「レイがいるからよ」
「私の騎士は誰よりも強いのよ」
四年で人間の生活に馴染んだらしいレイは慣れた手つきで紅茶を飲む。
ティーテーブルの反対側に腰掛けているレイに姫は問いかけた。
「どうして私は死んじゃわなかったの?」
「神の気まぐれだろう」
飽きることなく何度も同じ会話をする。
毎日どころか、一日に何度も。
質問する姫も特別な返事を求めているようではなく、レイも興味がなさそうにそっぽを向いている。
レイがお茶を啜る。
姫にかしずく騎士がどうして同じテーブルの座っているのか、姫を守る気はあるのかと一般は眉をひそめるだろう。
しかし、他の者たちはこの四年間で見慣れてしまったため誰も咎めない。
最初はレイを貶める好機として王に喜ばれたが、これも姫のワガママが通ってお茶の時間はこうしている。
「レイは、私の自慢の騎士よ」
姫は満足気に言う。
「あなたがいてくれたから、私はここにいるの」
姫は愉快そうに目を細めると、自らのショートケーキのクリームをすくい、レイの紅茶に浮かした。
「何をしているんだ?」
「ふふっ、イタズラ」
姫は悪女の部類に入る笑顔を見せた。
レイは再びお茶を飲もうとしたが、クリームが邪魔であることに気づき、いやそうな顔をした。
「ふふっ」
姫はこれ以上ないほどの極上の笑みをレイに向けている。
この状態が非常に満足らしい。
レイはティースプーンを持つと、クリームを沈めた。
そしてカップを持ち上げ飲んだ。
「甘い」
「それは、好ましい味?」
「さあな」
悪魔は一貫して味覚はあるが好みはそれぞれらしい。
レイに関しては味の好みを明かしていない。
レイは紅茶を飲み干すと、カップを置き姫の後ろへ回った。
「ーーーミリシア」
二人以外誰もいないはずの部屋でレイーージュレイドは密談するかのように耳に唇を近づけた。
「また、災難が始まるぞ」
その悪魔の囁きは一体何なのか。
ミリシア姫は振り返りジュレイドを見た。
「神さま?」
「違うな」
ジュレイドは珍しくその口角を上げた。
「あら、美しい顔ね」
二人の時間がドアを叩く音で終わりを告げた。