勝手な言い分
【勝手な言い分】
《ハドル星のある歴史書より抜粋》
X003年:ハドル星の宇宙外交相アブルらの地球訪問。当時の南米大陸の一部を植民地化。
X005年:トーク星、ハドル星へ地球分割への機会均等を主張。
X009年:トーク星・ハルル国で過激派ハドル星移民によるハルル国宰相の暗殺。トーク星との関係悪化。
X014年:ハドル星、地球との不平等条約の締結。
X015年:トーク星、地球との不平等条約の締結。ユーラシア大陸極東地域の植民地化。
X022年:地球人によるクーデター勃発。ハドル星宇宙外交相アブル、トーク星宇宙外交相ニークによる鎮圧。
X024年:第一回ハドル=トーク地球分割会議
X025年:第二回ハドル=トーク地球分割会議
X027年:オアフ島事件。地球・太平洋上でのハドル・トーク間での衝突。
X028年:ハドル=トーク戦争(地球大戦)勃発。
X028年:パナマの戦い・トーク星の勝利。
X029年:ベルリンの戦い・ハドル星の勝利。
X029年:カリブ海海戦・ハドル星の勝利。
X030年:第三次ハドル=トーク地球分割会議。地球大戦長期化へ。
(中略)
X037年:第一次ユーラシアの戦い・ハドル星一時撤退。
X037年:第二次ユーラシアの戦い・トーク星の勝利。
(中略)
X042年:ルイジアナの戦い・ハドル星の勝利。
X042年:ブラジルの戦い・トーク星の勝利
X044年:プラナール条約締結。地球大戦の終結。
X045年:ハドル=トーク平和条約締結
X047年:ハドル=トーク平和条約訂正案の可決。
X048年:第一回ハドル・トーク二星間オリンピック開催
X052年:第二回ハドル・トーク二星間オリンピック開催
《本日のトーク星のとある朝刊より抜粋》
X244年8月20日.
本日我々は、かの奇跡的な地球大戦の終結から200周年を迎えた。
本日地球で行われるハドル・トーク合同の終戦記念パレードに参加する人数は5億人を越えると予想され、その様子はハドル・トーク両星で実況中継される手はずである。
(中略)
…しかして、当時ハドル・トーク間の関係はもはや修復不可能なところまで来ていた。燃え続ける戦火によって地球の大地の殆どが焦土となり、多くの人命が奪われたのである。広大な地球全域に渡る大戦の戦局の把握は、もはやどちらの星にも不可能であった。
(中略)
…今回のパレードは、かの有名な地球人の少女・ジャンヌの記念碑の前も通過する予定だ。ハドル・トーク星の星交改善の契機となった彼女の話は、この星の誰もが知るところであろう。
戦争終結の直前8歳であったジャンヌは、ヨーロッパ大陸の瓦礫の町で一人でいる所を発見された。小さな手で瓦礫を一人掘り返し、何かを探している彼女の健気な姿は、戦争に疲れきったハドル・トーク両星民の心に忘れかけていた平和の心を投げかけた。
右手をハドル軍人の手に、左手をトーク軍人の手に繋がれ保護されていく写真が我々二つの星に公開され、その姿は我々の目に、まるで両星間を繋ぐ架け橋のように映ったのだ。その写真は両星の世論を大きく動かし、修復不可能だったはずの両星の関係は以後回復へと向かって行った。
地球人ただ一人の生き残りとなった彼女は以後ハドル・トーク星間の平和の象徴として語り継がれ、その死後も我々の心に生き続けている。
(後略)
ーーーーーー
「ハドル星・トーク星、バンザイ!」
全長数百キロメートルにも渡るパレードのあちこちで、そんな言葉が飛び交っていた。
パレードの参加人数は予想を大きく上回り、約8億もの人数が参加していた。これほどの大人数に関わらず、つまらぬイザコザなど全く起こらない。それぞれの星の国境、星境を越えて、人々は笑い合い、肩を叩き、夜通し酒を飲んで過ごした。
雲にかかりそうな巨大な記念碑を指差して、あるトーク星人が彼の子供に言った。
「あのような悲劇はもう決して起こらない。ごらん、あのジャンヌの記念碑を。我々の平和を、いつまでも見守ってくれるだろう」
「まったく、凄い騒ぎ声ね」
今なお記念碑の中に生き続けるジャンヌの魂は、パレードの騒ぎを聞いてこう呟いた。
突然花火が打ち上げられ、記念碑は色とりどりの光に照らされた。
「ああ、ああ、嫌だわ。あのパチパチした光、あの戦争を思い出してしまいそう。何が平和の象徴よ。ずいぶん勝手な言い分だわ。結局、私には一言の謝罪も無かった。私は保護されたんじゃない。異星の侵略者に、連れていかれたのよ。戦場の花って、こんな気持ちなのかしら」
星歌を歌うものがある。意味の無い叫び声があがり、あちこちで笑い声が聞こえる。
記念碑の方から吹くため息のような風が、熱を帯びた群衆を撫で、何処かに消えて行った。