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死鬼王  作者: 浅森忍
3/3

3.虫けら

死鬼を片付けたミイルは、幾つかの建物を物色し、女物の黒い服を見つけると、それを着た。

割と上等な服だが、王女の着る物としては少々地味という印象だ。

これからまた死鬼を殺すのだろうから、動きやすい服を選ぶのは当然だが、

いままで大事に保護されてきた姫様なのだから、少しは身なりを気にしそうなものである。

そうしなかったのは、単純に彼女の感覚の問題でもある。

この国の王女であったころは、大袈裟に飾られたドレスを着させられたこともあったのだが、

豪華な装飾などただ邪魔っ気なだけで、

動きづらい無駄の多い服、というのが率直な感想だった。

まあ所詮、自分は見世物だということを自覚していたので、特に文句は垂れなかったが。

そんな彼女だから、正直に言ってしまえば、

本人的にはこのまま全裸でも良かったのかもしれない。

だが、流石に道徳的に不味い気がしたのと、あとは単純に寒いので服を着たようだ。


彼女には年相応の少女が惹かれるようなものに、これといって興味がなかった。

なぜ?と言われても彼女自身も答えられないだろう。単純に興味がないから?

他の物になら興味があるかも?あるいは、

彼女は生まれながらにして人間ではないから、

人間らしくないだけかもしれない。

そもそも、彼女には興味を持つようなことがなかったのだ。

自分は父親の玩具である、ということを嫌々ながら理解していたが、

ある日、ふと違和感を感じた。


部屋に虫が入ってきた。自分の腕にとまったそれを、王女は何気なく叩き殺したが、

潰れた虫の死体を見て、妙な気分になった。

この虫と自分の違いが分からなくなったのだった。

別に虫に同情したわけではないが、ただ生かされているだけの自分は、

ただ生きているだけの虫にも劣るのではないかと思うと、

なんとなく、自分が生きていることに意味が欲しくなった。

だから、ふとした違和感を信じて外に飛び出した。


たったそれだけのことである。


そして結果として、人を切り裂き、血をすすることに安心を感じた時は、

喜びを感じたのだが、あの夜、父親に噛みつかれて以来、

あんなにも夢中になった血の味もどうでもよくなっていた。

彼は命を与えるといった。やはり何かをされたのだろう。

何をしたのかは知らないが、どうにも気色が悪かった。

あのヒトのすることは、いつもよくわからない。と思った。


ところで、服のほかにも、面白いものを見つけた。

銀でできた剣だ。鉄よりも高価で、非常に価値のあるものだが、

銀には、それ以上に興味深い噂があった。

不死者は銀を苦手とする……吸血鬼関連の『お話』の中には

必ずと言っていいほどでてくる話だ。

実際の不死者にどのくらいの効果があるかは不明だが……

ミイルは自分の手を切って試そうかと思ったが、

流石に少し不安だったので止めた。

剣を鞘にしまい、念のため持って行くことにした。

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