2.不死者
意識を失った後、おそらく父王の手によってこの牢獄まで運ばれたのだろう。
全て思い出したミイルは、自分の置かれている状況を把握すると同時に、
改めて父親への嫌悪感を感じた。
(正気ではない。実の娘をこんな所に裸にして閉じ込めるとは……)
扉に手を掛ける。
鍵はかかっていない。
やはり『あれ』は今も、娘が自らの足で戻ってくるのを待ちわびているのだろう。
格子の内側からも確認できたが、靴が後ろ向きで置いてある。
履けというのだろうか?靴だけを?彼女には楽しんでいる父の姿が浮かんだ。
(……馬鹿にしている)
ミイルは靴を乱暴に投げ捨てると、そのまま出口へ歩いて行った。
扉を開けると、日の光が差し込んでくる。昼下がりのようだ。
周りを見ても特にこれといって目につくものは無かったが、それが逆に異様だった。
この時間帯に人がまったくいないのだ。
外のことを知らない彼女も、流石に違和感を感たが、今はとりあえず城に向かうことにした。
おそらくこの異様な状態を作り出したのは父王であることは間違いない。
王は城に戻って来いと言った。それを無視して国の外へ逃げるという選択肢もあったが、
あの得体の知れない男がそう言った以上、すでに何らかの手段によって縛られているのだろう。
それが何にせよ、何もわからない以上、城へ行くしかなかった。
ふと前を見ると、何人かの人が立っている。ただ、様子がおかしい。
本当にただ立っているだけなのだ。近くまで行くと、彼らは静かに振り向く。
そして、それと同時に襲いかかってきた。彼らは『死鬼』である。ミイルはとっさに身を躱し、
襲いかかってきた一人の首に爪を突き刺した。しかし彼らは気にも留めず向かってくる。
「人間じゃない……?」
死鬼の一人が首元に噛みついてきた。
あまり痛がる様子のないミイルは、自分の首元に噛みついた死鬼の頭を殴りつける。
すると、奇妙なことが起こった。
殴られた死鬼の頭が吹き飛んだのだ。頭部を失った死鬼はその場に倒れ、動かなくなった。
そしてもう一つ奇妙なのは、死鬼に噛みつかれた首元の傷が、もう治っているのだ
「やはり私は人ではないのですね。父上……」
言いながら、同じように他の者たちも殺していく。数秒後には全ての死鬼が動かなくなった。
死体に囲まれた裸の少女は、どこか嬉しそうだった。