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花屋の娘  作者: a-m
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8、そしてエピローグ

医務室に戻ったロシュはエレナの具合をローじいに尋ねた。


「青あざ、あとは所々に裂傷など見られるが、数週間もすれば治るじゃろうて。」


汚れた服から綺麗な白いワンピースに着替えたエレナに安堵の表情でロシュは向き合った。


「エレナ、すまなかった。俺のせいで、お前を危ない目に合わせてしまった。」


ベッドに座るエレナの前で膝をつき謝罪するロシュにエレナは静かに首をふった。


「いいえ、ロシュ様。ある意味嬉しかったです。ロシュ様をおびき出す為に攫われたのが、私だったことが。」


微笑みながら言うエレナにロシュは何とも言えない気持ちになった。


「それより、ロシュ様。結婚はされているのですよね?・・・でも奥様はいらっしゃらないとはどういう事だか聞いても良ろしいでしょうか。」


笑みをなくし、不安そうにロシュに尋ねるエレナ。


「それが事情が変わった。今では俺は結婚もしているし妻もいる。」


真剣な顔でエレナを見つめながらいうロシュ。


エレナは不安そうだった顔に悲しみを浮かべるとロシュの視線から逃れるように俯いた。


そんなエレナにロシュは慌てるように、結婚をしていたという話の真実を話す。


ローじいと助手の青年も好奇心を抑えきれずに、カーテンの陰から聞き耳をたてていた。


相続する際に必要であった既婚者というステータス。


結婚などする気がなかったロシュのとった隠蔽。


それを面白がって助けた王。


ウォネール国、最高権力者が片棒を担いだのだ。


今回のように、屋敷の者の裏切りや何ヶ月もの密偵の働きがなければ一生バレなかったであろう。


全てを聞いたエレナは貴族の事情というものに呆然としながらも、妻がいないという事を素直に喜んでいた。


ロシュは全てを話終ったあと、唖然としながらも、表情が柔らかいエレナにあることを告げた。


「エレナ、お前にはこれから苗字がつく。エレナ・ガルシナだ。」


突然のロシュの言葉にエレナは驚き、目を見張った。


「あぁ、それと俺と結婚して9年目だ。そのように振る舞え。ホエルらは何か勘づくかもしれんが、事情を説明する必要はない。笑って流せ。」


淡々と些細な事のように言うロシュにエレナはもちろんのこと、後ろで聞き耳をたてていたローじいと青年も驚きを隠せなかった。


「それと・・後ろで聞いている二人も・・わかっているな?」


ロシュ特有の冷気をもったような視線でカーテンの後ろにいたローじいと助手の青年を射抜いた。


「わ、わかっておるわい!」


慌ててローじいは答え、青年と共にそそくさとその場をあとにした。




エレナは一人、ロシュの言葉の言った意味などを考え、信じられない思いだった。


思わずロシュを見つめる瞳から涙を流す。


「ロシュ様・・・私は・・貴方様の・・妻?」


微かな声で呟くようにロシュに問うエレナ。


ロシュは優しく微笑むとエレナの白い手をとり、指先に口づけを落とした。



「もっと早くお前と結婚すれば良かった。そうすればお前と共にいれる時間がもっとあったかもしれないのに。週末にお前と会えるというだけで、俺は毎日幸せだったんだ。それ以上を考えたことがなかった。だが、今思えば何故考えなかったのかわからない。これで名実共にお前は俺だけのもの。そして、お前は俺と共に屋敷で暮らし一生俺の側にいる。」


感極まったように泣くエレナはロシュのその言葉に思わず痛む体を忘れロシュに抱きついた。


「ロシュ様っっ!」


そんなエレナをロシュは大切そうに抱きしめるのであった。







そして、一旦ロシュは自分の執務室へと行き、綺麗な服に着替えたあと、屋敷へとエレナを連れて戻ろうとしたのだが、ある邪魔が入った。



林から戻ってきたホエル達である。


小屋の中には長年に渡るホエル国の密偵らが残した証拠や今回の騒動に関しての証拠らが、多く残っていて、報復するには十分であるとロシュに報告した。


だが、彼らの目線はロシュの隣で所在無さげに佇む一人の美しい娘に釘付けだったため、ロシュの機嫌は段々と悪くなっていた。


ホエル達は好奇心がゆえ、ロシュの機嫌が悪くなっていることには気づかず、まじまじとエレナを見たあと、質問攻めにしたのだ。


「団長のあの"おとぎ話"の奥さんですか?・・あれ、でも団長なんか攫われたのは奥さんじゃないみたいな事行く前はいってたけれど、どうなんですか?」


エレナに質問しているのか、ロシュに質問しているのか。


エレナはロシュに言われた通り、笑って流した。


そこでホエル達の質問を一手に担うことになったロシュであったが、一言、言うだけでエレナを連れ、足早にホエル達から離れた。


「俺の妻だ。何も考えずそれだけを覚えておけ。」


残されたホエル達は、どういうことなのか分からなかったが、とりあえずエレナはロシュの妻なのだ、とだけ認識し、ロシュの命令通り己の保身の為にもそれ以上は考えないことにするのであった。






ホエル達から逃れ、町へと出たロシュを待ち構えていたのはギュールの民達の好奇心旺盛な視線の数々。


エレナの家、つまり花屋はギュールの町でも王城から少し離れたところにあるため、エレナを知っているものは城の側に住居を構えるものの中にはあまりいない。


だが、町を突き進み、花屋に近づくにつれ馬上の二人に飛ばされる視線は数を増した。


特にロシュが大事そうに抱えるエレナに向けられる視線が多い。


ロシュは、その中に嫉妬のような視線が混ざっている事に気づき、思わず舌打ちをもらした。


「エレナ、お前は俺が初めての恋人だといったな?」


皆の視線から隠れるように下を向いていたエレナに突如かけられたロシュの不機嫌そうな声。


エレナは戸惑いながらも、微かに後ろを振り向いた。


「はい・・そうですが、どうかいたしました?」


「では、お前は何人に交際を申し込まれた?」


矢継ぎ早に尋ねるロシュにエレナは首をかしげる。


「それは・・いつから数えてですか?今年だけで、ですか?」


ロシュはそんなエレナの言葉に益々不機嫌になる。


「・・・もうよい。自分がいかに色事に鈍く愚かであったかわかった。」


「え?ロシュ様?」


訝しげにロシュの名をよぶエレナにロシュは一つ気になったことがあった。


「ロシュだ。」


「・・・はい・・存じておりますが・・」


今更名を告げるロシュにエレナは益々訝しんだ。


「違う。様をやめろという意味だ。ロシュと呼べ。」


全くエレナを見ることなく告げるロシュ。


エレナは何も答えず、ロシュから視線をそらし前を向いた。


そんなエレナの態度に今度はロシュが訝しげにエレナをうかがった。


「どうした?」


何も答えないエレナ。


少し焦ったロシュは慌てて町中で馬をとめた。


「どうしたんだ?どこか痛むのか?」


強引だが優しくエレナを自分の方へと振り向かせたロシュであったが、エレナの顔を見た瞬間固まった。


「・・なぜ、そんなに顔を赤くしているんだ?」


恥ずかしそうに頬をそめながらも、少々潤んだ瞳でロシュを見やるエレナ。


「なんでもありません・・ロシュ・・」


聞き取れないぐらい小さな声で"ロシュ"と呼んだエレナにロシュはここが町中であることを忘れ、荒々しくエレナの唇を奪った。


その瞬間、エレナ達を興味津々に見ていた民達から黄色声や野太い声で歓声があがった。



その中には涙を流しながらエレナを見るジョバンナの姿もあった。


「良かった、良かったよ。エレナ、幸せになるんだよ。」


涙を流しながらも優しく微笑むジョバンナに息子のカールはそっと母親の側に立ち、一緒にエレナとロシュのやり取りを笑いながら見やるのであった。




町中から聞こえてくるかのような歓声に、エレナは慌ててロシュから離れようとするが、ロシュはエレナの背中に手をまわし益々深く口づけをする。


エレナの顔は益々真っ赤に色づき、この瞬間また新たな"おとぎ話"が国に広まった。




"第1騎士団長の愛妻は花屋の美しい娘であり、二人は誰にも悟られることなく愛を深め、その愛を王都に大胆な方法でばらまいた。"








美しい騎士と美しい花屋の娘の"おとぎ話"は年をおう毎に数を増やし、次の世代にも受け継がれるほどの、永遠の愛の物語となった。

これにて完結です。


読んでくださった皆様、ありがとうございました。

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