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こちらでもホエルがモーガンになってました;;;
誤字脱字もあわせて修正しました><
そっと小屋の扉を叩くロシュ。
中からは微かな物音が聞こえた。
「要望通り、一人で来た。戸を開けてもらおうか。」
叩かれた扉の向こうから聞こえて来たロシュの声に手足を縛られ、体中殴られながらも、意識を保っていたエレナは恐怖に顔を染めた。
「ロシュ様!!!来てはなりませんっ!お帰りくださっ・・きゃあっっ!!!」
エレナの己を心配する叫び声が聞こえたと思った瞬間、それが悲鳴となり、それと同時に大きな物音が小屋の中から聞こえたロシュは我を忘れて扉を蹴りあけた。
そしてロシュは小屋の中の光景に理性を失った。
血を流し倒れているエレナ。
そのエレナの頭を足で抑えている男。
そしてその周りを囲むように立っている4人の男達。
ロシュは無言で斬り掛かった。
切られた男の血吹雪が己にかかっても、恐怖に叫ぶ男の最後の声が耳をつらぬいても、剣をふりつづけた。
小屋の中から聞こえてきた騒音に小屋から少し離れたところで、様子を窺っていたホエル達と、ホエル達の少し後ろにすでに控えていた騎士達は足早に小屋へと突入した。
そして、目にするのだ。
5人の男の血だらけの死体と、白とエメラルドグリーンの第1騎士団専用の服を全身赤く染めたロシュが小屋の真ん中で膝をおり、震えながら一人の女を抱えている姿を。
そして初めて耳にする。
ロシュの震えた声を。
「・・すまないっっ・・すまない・・・っっ・・・エレナっ」
ロシュに力強く抱かれながら、ロシュの後ろに佇むホエル達を目にしたエレナは所々血のついた顔に苦笑を浮かべたのだ。
「ロシュ様。皆様が見ていらっしゃいますよ?」
こんな状況でも取り乱す事なく、ロシュにそっと囁くエレナ。
ロシュはエレナを抱く力を益々強めた。
「そんな事はどうでも良いっっ!それよりも・・・っ」
そんなロシュの言葉を遮るようにエレナは、縄から解かれた自分の手を震えるロシュの背中にまわし、優しく抱きしめた。
「ロシュ様・・、彼らの狙いは貴方様でした。これから、もし同じような事があった場合、二度と私を助けになど来ないでください。」
ロシュはそんなエレナの言葉を信じられず、エレナを抱きしめる力をゆるめ、エレナを見やった。
エレナは微笑んでいた。
傷だらけなのに
美しく長かった髪は一部が肩ぐらいの長さで無造作に切られてしまっているのに
顔には血もついているのに
ロシュが返り血を浴びたままエレナを抱きしめたため、エレナの服も血だらけだったのに
それでも、エレナはいつも通り微笑んだのだ。
これにはロシュの後ろで事の成り行きを見守っていたホエル達も驚いた。
「な・・にをいっている」
エレナから発せられる答えを聞くのがロシュは恐ろしかった。
「ロシュ様、私は貴方様の弱みにはなりたくありません。貴方様には愛する奥様がいらっしゃるでしょう?私は・・平民です。ただの花屋の娘です。貴方様が己の身を危険にさらしてまで助けるべき人間ではありません。もし、離れたあとにも今回のような事があっても、私の事は見捨てて下さい。」
綺麗に微笑むエレナ。
「約束を破る事をお許しください・・・。ロシュ様、もう終わりに致しましょう。」
ロシュはエレナの言葉を理解したくなかった。
だが、エレナのいう約束が毎週のように告げていた自分の言葉に対してエレナが返してくれていた約束だと瞬時に理解してしまった。
そして・・・、今迄エレナに隠していたことについてもエレナがすでに知っていたのだと気づいてしまった。
「俺が・・騎士であることも、結婚しているという話のことも・・全て知っていたのか?」
エレナは優しい苦笑をもらした。
「4年前、初めて出会った時にすでに気づいておりました。ロシュ様はお名前しか仰ってくださりませんでしたが、ロシュ様のお姿は以前に拝見したことがございましたし・・。ご結婚されている事も、存じておりました。ロシュ様ってご自分でお気づきではないかもしれませんが、町娘の間でも人気の騎士様なのですよ?独身であるのかどうかって皆一番気にするんです。」
からかうように話すエレナにロシュは己の愚かさをのろった。
そんな苦しげなロシュの表情にすぐエレナは気づき、言葉を告げた。
「私はロシュ様を愛しています。ですから、私はロシュ様と過ごした日々を不幸に思ったことはございません。ロシュ様と出会ってからの日々は私にとってかけがえのない幸せな日々でした。ですから、ロシュ様がそのようなお顔をされる必要はありません・・・。」
そして痛みに耐えるかのように力をこめ、ゆっくりと立ち上がろうとするエレナ。
ロシュはそんなエレナを引き止めるかのように抱き上げた。
「ロシュさま?!お、おろしてください!自分で歩けます!」
焦ったようなエレナの言葉にロシュは何も返さなかった。
無言でエレナを抱きかかえたままホエル達と向き合ったロシュの顔には、表情がなかった。
さっと道をあけたホエル達に
「心配をかけた。あとは頼む。」とだけ告げ、ロシュに自分をおろすよう未だ叫んでいるエレナを自分の馬の上にそっと乗せ、すぐ後ろに自分も飛び乗ると、すぐにその場をあとにした。
残されたホエル達や後から追いついた騎士達は戸惑いながらも、血ぬられた小屋の中に横たわる男たちに目をむけ、ガネル国につながる証拠を探すのであった。
思ったよりも長くなってしまった・・