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人物名ミスりました;;;
モーガンは4年前まで第1騎士団長を努めたロシュの親友。現在は田舎に引っ越して家族とのほほんと暮らしています。
現、第1騎士団の副団長の名はホエルです。
混乱された方、ごめんなさい><
訂正しておきました。
ロシュのもとに、ウォネール国の密偵からの報告が入って1週間後。
ロシュは第二騎士団と第三騎士団の団長、副団長らと共に、ガネル国の策略に対しての作戦を練っていた。
ガネル国に潜む密偵が新たに送ってきた報告には、今回はあまり情報が王宮内でも出回っておらず、これ以上詳しい情報を掴む事が難しいとのことであった。
今迄わかっている情報では詳しい期日の特定や、ロシュを狙う場所の特定は難しくロシュ達はここ2週間以内に実行されるだろうという事しか推測できていなかった。
その為、ロシュは2週間の間は一人で行動する事が禁じられ、どこに行くにも必ず背後からわからないように警護の人間がつく事になった。
ロシュは週末にエレナに会えなくなる事に苛つきながらも、会って彼女を危険にさらすよりは会わない方が安心だ、と己を律していた。
そして訪れた週末。
毎週、約束をしているわけではないが、ずっと定例であったロシュの訪問がないことにエレナは最初は心配していた。
夜、騒がしい町も皆が寝る時間になり、ある程度静まってきてもなお、ロシュの訪れはなかった。
今迄も、毎週必ずロシュが訪れていたわけではない。
だが、ロシュが来る事が出来ない時には、その趣旨をロシュは必ずエレナに伝えていた。
今回のように何の連絡もなしにロシュの訪れがない事は4年間で初めての事だったのだ。
ついに皆が寝静まり、町に置かれた光の石も灯りを弱めた。
エレナは一人、リビングの窓から月を眺めていた。
すでにロシュが今夜自分の元へ来るとは考えていなかった。
だが、眠る事ができなかったのだ。
体は睡眠を欲していても、心がそれを受け付けない。
「・・・変ね。ロシュ様が私の元を訪れない事を祈っていたはずなのに・・・。」
自らを嘲笑するような笑みを浮かべながらエレナは静まりかえった家の中で呟いた。
一人で生活するには広いエレナの家。
家族3人で暮らしていた時は広いなどと考えた事もなかった家の中、エレナは一人月を見続けた。
「来週も会えなかったら、来る時が来たと思うべきよね。」
闇に包まれた静かな部屋に、エレナの声は響き渡った。
そして、その瞬間。
キッチンの方から窓が割れる音が闇を破るように家の中に響き渡る。
エレナは慌ててソファーから立ち上がると、光る石に触れてあかりを灯した。
皮肉にもそれが目印となり、武装した数人の男達は、照らされた灯りによってエレナの姿を発見する。
そしてエレナが悲鳴をあげそうになった瞬間、男達は躊躇なくエレナのお腹を殴りつけエレナが苦しげに呻き倒れそうになった瞬間、首に手刀をおろした。
どさっ、と意識を失い床に倒れるエレナ。
男達は無言のままエレナを担ぐと、来た時と同じように誰にも気づかれる事なくエレナの家をあとにした。
そして向かうは、人が滅多に入ってくる事がない暗い林の中。
昔からガネル国の密偵らが潜む時に使用していた小屋へとエレナを連れ帰ったのであった。
数時間後、太陽が世界を照らし、朝の訪れを告げる頃。
ウォネール国、王城に一通の手紙が届いた。
宛先はロシュ・ガルシナ団長
送り主は不明。
文官によってロシュの執務室へと届けられた手紙は、午後になってようやく読まれた。
土曜日である今日、何もなければロシュのような身分の人間は仕事をする日ではない。
だが、今回のような緊急事態の場合、休む暇はなく休日返上で仕事にかかる。
朝、日課である己の訓練を終えたあと、ロシュは午後に控えているガネル国の企みに関しての計画を練る会議まで、第1騎士団に所属する騎士達に訓練をつけていた。
そして、午後になり会議が始まる数分前にようやく己の執務室を訪れたロシュは送り主不明の手紙に気づいたのだ。
時期が時期である。
送り主が分からない以上、毒物の混入など警戒しなければならない。
手袋をはめ、ハンカチで口を覆い、慎重に手紙の封を開ける。
その時、扉をノックする音が聞こえロシュはハンカチで口を抑えたままくぐもった声を出した。
「息を止めて入ってこい。」
緊迫した声音とその言葉で執務室を訪れた第2・第3騎士団団長、副団長と第一騎士団の副団長であるホエルは、各自己の腕やハンカチなどで口をふさぎ、そっと扉を開けた。
ロシュはすでに手紙を開いており、中から出て来た血のついた布と、1束の金髪の長い髪の毛、そして手紙を机の上に並べていた。
毒物のようなものがない事を確認し、ロシュはハンカチを口から外した。
それによって、ホエルらも警戒を解く。
「団長、一体何があったのですか。」
ホエルの問いにロシュは答えずに、中から出て来た髪の毛をそっと掴み持ち上げた。
「ガルシナ殿?」
何も言葉を発しないロシュに第二騎士団の団長であるバニールも訝しげに問いかけた。
「送り主が書かれていない手紙が届いていた。発見したのはついさっきだ。そして中からはこれらのものが出て来た。」
ようやくロシュは言葉を発したが、視線は血のついた布へとむけられていた。
そんなロシュの態度と、手紙の中身を確認したホエルらは今起こっている事態を把握した。
「・・・何者かが捕われたのですね。」
静かに響くホエルの声。
ロシュは手が震える程の力で美しい金の髪を掴んだまま、そっと血のついた布にも手を伸ばした。
バニールは誰もが内心考えていることを代表してロシュに尋ねた。
「奥様の髪の毛の色は・・金でございますか?」
ホエル達もバニールと同じように怒りの表情を浮かべ手紙を睨んでいる。
「・・違う。だが、俺が心から愛する者は金髪だ。」
そんなロシュの言葉に"おとぎ話"を知るホエル達は困惑したようにロシュを見やった。
だが、何も言わないロシュに話題を変えるように、ホエルは聞いた。
「手紙は読まれたんですか?」
その問いにロシュは何も答えなかったが、髪の毛と血のついた布、両方をそっと机に戻すと、震える己の手を叱咤するように、「くそっ」と呟きながら、手紙を掴んだ。
"ロシュ・ガルシナ第1騎士団長殿
美しい花屋の娘はお預かり致しました。
まだ生きてはいますが、この娘がいつまで生きているかは貴方様の行動次第でございます。
我々の要望は一つです。お一人でギュールの林にある泉の小屋までお越し下さい。
追伸:痛めつけても泣きわめく事すらしない気丈なこの娘の命が消えるのはおしい。
ですが、泣かれないと益々力加減を忘れてしまいますゆえ、今日の夕刻にはこの娘の生は終るでしょう。貴方様が迅速に行動なされる事をお祈りしております。"
髪の毛を見た瞬間、そして血の付いた布を見た瞬間。
駆け巡った最悪の予感があたっていた事にロシュは怒りを抑える事が出来なかった。
叩き付けるかのように手紙を捨てたロシュの雰囲気は戦場において仲間からも恐れられる気配よりも冷たく、そして話しかける事さえ躊躇するような厳しい、そして恐ろしいものだった。
床に叩き付けられた手紙を、無言で拾い上げた第3騎士団の副団長は静かに手紙を音読した。
その内容に皆の顔に緊張が走る。
すぐにロシュを見やり指令を待つホエル達。
だが、ロシュは口を開く事なく、執務室をあとにしようとした。
ホエル達は慌てて静止の声をかける。
「団長!一人で行くなんて無茶です!」
そんなホエル達の静止にロシュは一旦足をとめ、振り返る。
「ならば、俺の行動の5分後に同じように行動しろ。」
つまりはロシュがこの後、執務室を出て指定された小屋に向かう5分後に、ホエル達も執務室を出て小屋に迎え、とロシュは命じたのだ。
だが、これには皆が異を唱えた。
「そんなっっ、それでは遅すぎます!ここは冷静にならなければっっ」
バニールの言葉にロシュは激しく怒りの意を示した。
戦場ですら聞かないロシュの怒号を向けられたバニールはもちろんのこと、ホエル達も畏怖を抱いた。
「すでに時間が経ちすぎている!!!エレナは拷問をされているんだ!俺の命ぐらいいくらでも賭けてやる!」
シーンと静まり帰った部屋を今度こそロシュは足早に退室した。
無意識に呼吸をとめてしまっていたホエル達はロシュが出て行ってすぐ、息を吸い体の力をぬいた。
「あんな感情を露にした団長を見たのは初めてです。」
そんなホエルの言葉に、誰も返答はしなかったが皆同じ気持ちだった。
それからバニールはすぐに意識を切り替えるように自分の第二騎士団の副団長に声をかける。
「ノエル、お前は今から陛下に今起こっている事を報告にいけ。」
その声をきっかけに、第三騎士団の団長は己の副団長に、騎士を今すぐ集め林へと向かう事を指示した。
皆、ロシュの命令を聞く気はさらさらなかった。
皆の思いは同じであった。
初めてあのように感情を露にし、戦場でさえ冷静さを一度も失わなかったロシュが、あそこまで取り乱し救い出そうとする娘を必ず助けてみせる。
その思いを胸にホエルと第二・三騎士団団長はすぐにロシュを追いかけたのであった。
そしてロシュはというと自分の持ち馬であり、駿馬であると評判の馬にのり、小屋へとかけていた。
そのすぐ後をホエルを含め3人が追って来ている事には気づいていたが、気にせずに駆け抜けた。
小屋までの距離が嫌に長く感じるロシュ。
馬の手綱を握る手は緊張と怒り、そして不安で汗ばんでいた。
「くっ、流石団長の馬ですねっっ。差が全く縮まらない!むしろ離されていくっ!」
ホエル達はやっとの思いでロシュを追いかけていた。
しかも、林にはあまり訪れた事がなく方向感覚がわからないホエル達。
ロシュの姿を見失わないようにするのがやっとであった。
だが、ロシュがスピードを落としたのが分かると、小屋に着いたのだと気づき、慌てて馬をとめ、音をたてることなく、林の中を隠れるように進む。
ガネル国の者達に気づかれれば、ロシュが大切にする娘の命が危ないと理解しているからだ。
ロシュも、自分の後をついてきたホエル達の気配が静まった事に気づいていた。
一人で飛び出してきたが、ホエル達に絶対の信頼を置いているロシュである。
ちゃんとそつなく事を運ぶだろうと、信頼していた。