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2話を編集しました。
ちょっと設定ミスりました。
12月3日(2011)の夜20時以前に2話を読まれた方
この2話を読む前に1話をもう一度読んで下さいませ・・><
ロシュとモーガンの設定に関して訂正があります。
エレナとロシュの出会いは5年前に遡る。
ロシュが18歳で妻を迎えてから6年後
あれはロシュが22歳の時、第1騎士団の副団長に就任した祝いの席であった。
その日、王主催で新しい副団長を祝っての晩餐会が催されていた。
晩餐会や夜会のように貴族や王族がこぞって参加する社交の場とは、華やかなだけではなく、裏では人間の欲などがひしめく、一種の政治の場でもあった。
そういった場を好まないロシュは、自らの為に催された祝いの場ではあったが、気乗りせず一通り挨拶を済ませたあとに、王にだけ断りを入れ、その場を静かにあとにした。
王はロシュの性格を理解していたので、苦笑をもらすだけでロシュの非礼を許した。
そして、ロシュは酒や人のにぎわいで火照った体を冷ますために、夜の町へと繰り出したのだ。
時はすでに月が夜の闇を照らす頃であったが、ギュールは夜らしい賑わいを見せていた。
着飾った女達が客をとる店
男達がにぎわう酒場
食事を楽しむ者達が集う店
この大陸特有の光を灯す石によって夜でも町は明るく照らされていた。
そんな光に満ちた町からロシュは離れるように月の光だけが照らす林の方へと足を進める。
そして、少し坂道を歩いた後、開かれた場所に着いた。
そこは眼下に町を見渡せる場であった。
地元の者でも夜に林を抜けようとする者は少なく、この夜景を見る者はあまりいない。
その為、この日もロシュは誰もいない静かなお気に入りのこの場で、少し体を休めようと思っていた。
だが、5分程たった頃。
林の中から静かな足音が聞こえてきた。
それは段々とロシュの方へと近づく。
ロシュはすぐに身を起こすと、腰に下げていた剣に手を伸ばし、静かに構えた。
だが、うっすらと見えて来た姿にロシュは訝しげに眉をしかめる。
ーーーー女か?こんな夜に何故このような人の居ない場へ?
警戒心は緩めずに自分のもとへとやってくる者を観察する。
そして、ロシュの考え通り、ロシュのいる場へとやってきたのは女であった。
月が灯る中、ロシュの姿を見つけた女、エレナは驚いたようにロシュを見た。
ロシュはといえば、エレナの美しさに言葉を失っていた。
あまり来るものがいない場。
ロシュにとっては日常から少し距離を置くための場。
エレナにとっては両親との思い出の場。
今迄何度かこの場を訪れていた二人が、この時初めて出会った。
そして、ゆっくりと運命の歯車は回り始めた。
それから、約束をするわけでもないのに、金曜の夜になるとこの場へきて二人はお互いについて質問をし合った。
だが、ロシュは自らの名を全ては明かさなかった。
ロシュとだけ名乗った。そして身分も明かさなかった。
エレナも尋ねなかった。もう知っていたから・・。
ロシュの顔は王の誕生祭などで見たことがあったからだ。
王のすぐ側で警護していた美しい騎士。
3回程会った後に、二人はすでに己の気持ちに気づいていた。
どうしようもなく、相手に惹かれていると。
ロシュはすぐにエレナに自分の想いを告げた。
エレナもすぐにそれを受け入れた。
だが、この瞬間うまれたすれ違いにロシュだけは気づかなかった。
ロシュは初めて経験する愛を前に、ある大事な事を忘れていたのだ。
エレナは知りながらも、ロシュの気持ちを受け入れた。
ロシュは貴族であり、今ではもう第1騎士団の副団長。
そして・・すでに結婚をしている事に。
エレナとロシュが付き合い始めて二ヶ月ほど経った頃、町にある話が流れた。
"あの騎士団の副団長に22歳という若さで就任されたロシュ様はとても愛妻家である、"という一つの話が。
その話をお客さんから聞いた時、エレナは自分の感情がコントロールできなかった。
胸が痛くて痛くて。
でも何故か涙は出なくて。
心の中でじくじくと涙がたまるのを感じるのにエレナは笑っていた。
「そうなんですか。それは良いことですね。」
口から出るのはありきたりな言葉。
顔に浮かぶのは、いつも通りの笑顔。
お客さんもエレナの言葉を肯定するように頷いた。
「そうねぇ。いつも頑張って下さっている騎士様だもの。心休まる場所があるのは良い事だわね。」
そんなお客さんの言葉にエレナもただただ笑って肯定の意を示した。
分かっていた事だった。結婚しているのは知っていた。
そんな事を思いながらも、エレナは胸が痛くて辛くて・・そして、そんな自分が情けなかった。
初めての恋。
初めて愛した人。
エレナにとってはロシュとの全てが初めてだった。
どれもどれも大切な初めての経験。
人を愛する事は幸せで、でもその幸せが壊れる瞬間を考えると怖くて震えてしまうこと。
どんなに辛い事があっても、愛する人の笑顔を見ると心が癒されていくこと。
両親を亡くしてから一人きりで生きてきて、いつも緩まる事がなかった緊張の糸が、愛する人が側にいるだけで、一瞬でとけること。
ロシュを思う時、ロシュと会う時、ロシュに微笑まれる時・・・
エレナの生きる時間の中に、ロシュを思わない時はなかった。
エレナの生きる一瞬一瞬は、全てロシュで出来ていた。
そんな日々が4年過ぎた今
またしても運命の歯車が回り始めようとしていた。
「団長、隣国のガネル国の密偵から報告が入っております。」
ロシュの執務室に険しい顔で入ってきた、現副団長であるホエルはロシュよりも5つ年上であるが、団長であるロシュに敬意を払い敬語を使う。
「お前の顔を見ればわかるが、またろくでもないことをしでかすつもりか。」
呆れたようにため息をつきながら、やっかいな存在であるガネル国の事を考えるロシュ。
「・・はい。それが・・今回の標的はロシュ様、貴方様のようです。」
ロシュを窺うようにホエルは告げた。
ロシュは表情を変えることなく、その報告を受け止めたが、暫くしてロシュは口角をあげた。
「それはちょうどいい。完膚なきまでに叩きのめす理由が欲しかったところだ。俺を狙うのであれば、それ相応の対応をさせていただこう。」
ふてぶてしい笑みを見せるロシュ。
いつもは表情を変えることのない団長のある意味愉快気な様子を見て、ホエルは、これから忙しくなることを悟ったのであった。
今迄も何度かガネル国はウォネール国の王の側近や宰相等を狙ってきた。
直接ターゲットに接触する事がわかっていただけに、警護するにも標的となった人物だけを守ればよかった。
ある意味ガネル国の企ては止めるのが楽であったのだ。
ガネル国に直接繋がる証拠があまりなかったため、今迄黒幕であるガネル国に報復することはできなかったウォネール国だが、今回は己の身は己で守る事ができるロシュである。
警護は手薄にし、証拠集めに人数を割り当てられるのだ。
だが、何故ロシュを狙うのか。
その理由は考えるまでもなかった。
今迄のガネル国の企みは全てロシュが暴き阻止した為だ。
その人間がいなければ、ガネル国が真に死を望む人間を射止めるのも楽になると考えたのだろう。
ガネル国の本当の標的・・ウォネール王。
そして、ウォネール王亡き後、ガネル国が経済大国であるウォネール国を乗っ取るつもりなのだ。
だが、今回は今迄のように、楽に阻止することはできなかった。
今迄はターゲットに直接接触してきたガネル国が手法を変えたのだ。
ある有名なコトワザに乗っ取った今回の計画。
”将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”
巷で有名な"おとぎ話"のヒロインはロシュの奥方である。
だが、ガネル国の王も愚かではない。
一応は一国をまとめる人間である。
ロシュの奥方の行動を探ろうと何ヶ月もの間、ウォネール国に優秀な密偵をおくり、ロシュの屋敷の周りを調べさせていた。
だが、一度もだ。
一度も婦人らしき人間を見る事はなかった。
そして、金曜の夜から週明けまでロシュが屋敷に戻らない事にも気づいた。
それらを怪しんだ密偵はある仮説をたてた。
そしてその仮説を裏付ける"ある噂"を屋敷の者から聞く事ができた。
ロシュは本当は結婚式をあげていない、という噂を。
本来、貴族間での結婚において式をあげない事はありえない。
話ではロシュは身内だけで式をあげたという事になっていた。
だが、屋敷の使用人から聞いた"噂"はその話に異を唱えていた。
密偵は己の考える仮説を真実にするためさらに情報を集めた。
式に出席したとされている、身内の者とは誰なのか。
なぜならロシュ・ガルシナが結婚をした18歳の時にはすでにロシュ・ガルシナの両親は亡くなっていたのだ。
他の身内にあたる人間は、亡くなったロシュの母の妹のみ。
あとは遠い親戚などにあたり、身内とはいえない。
そこで密偵は、今迄集めた情報と己のたてた仮説を全て書き示しガネル王へと手紙を出した。
1つの申し入れと共に。
そして10日後、申し入れの答えが手に届いた密偵は、静かに笑った。
「やはりか・・。身内は誰も出席していなかった。」
そして己の仮説が正しい事を悟るのだ。
理由はわからないが、ロシュ・ガルシナは己が結婚したかのように見せただけなのだ、と。
そしてもう一つ、重要な事に気づく。
そんなロシュについて流れる"おとぎ話"を。
流れ始めたのは約4年前。
それは、金曜の夜から週明けまで屋敷に戻らない事と関係しているのかもしれないと。
それから、密偵がエレナの存在を知るのは簡単だった。
そして、彼はガネル国に戻った。
"真相"という名の報告を持って・・・。