1、それがプロローグ
次回作は異世界の恋愛短編とかいってたのに
短編じゃなくなりました。
でも長編にはなりませんので、お時間のある方はどうぞ読んでみてください( ・ω・)
ゴルネア大陸において1番の敷地面積を誇るウォネール王国
その面積に比例するかのような経済大国でもあった。
そんな大陸1の大国であるウォネール王国の恩恵に預かろうとする他国からの思惑や、時には恩恵を奪おうとする他国からの攻撃など、大国ならではの悩みは多々あった。
そんな大国の警護を一旦に担っているのがウォネール騎士団であり、その中でも王直属の騎士団、第1騎士団は騎士団の中でも優秀な者達が選出された、いわばエリート軍団である。
そんなエリート軍団の長を努めるのは、27歳という若さで団長の座まで上り詰めたある偉丈夫な男だった。
貴族の生まれであるその男は、18歳の時に同い年の他国の貴族の娘と"政略結婚"をした。
子供には恵まれていないが、政略結婚であったにも関わらず、その愛妻ぶりは民の中でも有名な話であり、その整った容姿と第1騎士団の団長という身分がゆえ、その話は今では他国でも話される"おとぎ話"のようなものになっていた。
朝から晩まで人が賑わう王都、ギュールは赤い優しい光に包まれていた。
時は夕暮れ、朝から開いていた店は閉店を掲げる。
夜に開かれる店は、開店準備に取りかかる。
そんな頃、ある花屋では一人の美しい娘が閉店準備に追われていた。
先月23歳を迎えたその娘は、8年前に親を失い、今では親から唯一残された花屋を一人で切り盛りしている。
見た目の美しさに加え、朗らかな優しい性格ゆえ、求婚者があとをたたないのだが、何故だか娘は未だに独身であった。
女の結婚適齢期が18歳のこの国において、23歳になっても未だに独身の女は少ない。
その娘は周りから何故結婚しないのか、と尋ねられても曖昧に微笑むだけだった。
ある日、隣の店の女将が真剣な顔で娘に尋ねた事があった。
自分の息子と結婚してはくれないか、と。
だが、娘は恐縮したように頭を下げ、丁寧な言葉ではあったがはっきりとその申し入れを断った。
「ごめんなさい、おばさん。両親を亡くした私にとって、おばさんは実の母のような存在です。カールの事も、嫌いではありませんし、好きです。でも、それは兄のように慕う気持ちであって恋愛ではないのです。」
その言葉を聞いた隣の店の女将は苦笑をもらし、頭を下げている娘に一つの質問をした。
「謝らないでおくれ。お前のような子が息子の嫁になってくれたら、と駄目もとで聞いたんだから。ねぇ、エレナや。お前さん、今迄に恋をしたことがあるかい?」
その女将の言葉にエレナと呼ばれた、美しい娘は泣きそうな顔をしながらも美しく微笑んだ。
「はい・・。今もしています。決して叶うことがないのに、とても幸せな恋を。」
その言葉を聞いた女将は驚きを隠せなかった。
「なんだって?!いつの間に?!・・というか、お前のような美しく心根も良い娘に靡かない男なんて存在するのかい?」
エレナは困ったように笑った。
「おばさん、もし・・・私が美しく心根が良い女性であったとしても、あの方には関係ないんです。あの方には既に愛する方がいるから・・。それに、私あの方と結ばれたいなんて思ったこともないんですよ?むしろ・・早くあの方が私の事を捨てて下さる事を祈ってます。」
女将は今度は言葉を失った。聞きたい事は山ほどあった。
でもそのどれも口から出て来てはくれなかった。
だが、エレナの家から出て行く時、女将は漸く一つの言葉を投げかけた。
「お前は・・捨てて下さる事を祈っていると言ったね・・。お前はその方と・・一応は恋愛関係にあるのかい?」
どこが、それを願っているかのような女将の心配気な眼差しにエレナはとても悲しくなった。
この優しい女性を自分が返す言葉によって傷つけてしまうことを知っていたから・・・。
でも、エレナは自分の事を実の娘のように可愛がってくれた隣の店の女将、ジョバンナに嘘はつけなかった。
嘘をつけば、余計に傷つけてしまう事も知っていたから・・・。
「恋愛関係・・とは言えません。私はあの方の"不倫相手"ですから」
ジョバンナはこの時のエレナの表情を一生忘れる事はできないだろう。
儚くも美しい、そして罪悪感に苛まれたような、形容し難い顔。
ジョバンナは願った。
この美しく優しい娘が早く相手の事を忘れるように、と。
だが、それから4年が経った今でも、エレナは結婚する事がなかった。
ジョバンナは、相手の男は奥方と離婚する気はないのか、いつ迄不毛な関係を続ける気だ、何故別れないのだ等、何度もエレナを問いつめたことがあった。
だが、エレナはいつも決まって同じ言葉をジョバンナに返すのだ。
「ごめんなさい、おばさん。私はあの方しか愛せないの。あの方が私の事を捨てて下さるまで、私からはあの方からは離れないわ。その行為がどれほど、奥方様を傷つけていても・・。私からは絶対にあの方から離れない。あの方もそれを望んでいらっしゃるから。」