『完璧すぎて可愛げがない』と婚約破棄された公爵令嬢、世界最高峰の魔術師に『君のその冷徹な計算高さが、狂おしいほど愛おしい』と国家レベルで溺愛される
「エルザ! お前との婚約を破棄する!」
きらびやかな夜会の中央。第二王子・カイルの怒声が響いた。彼の隣には、庇われるようにして震える男爵令嬢アメリア。
周囲の貴族たちは、憐れみと、どこか小気味よさそうな視線をエルザに向ける。エルザは「完璧すぎる令嬢」として、周囲に煙たがられていたからだ。
だが、エルザの脳内は、周囲の予想とは全く異なる「数式」で埋め尽くされていた。
(カイル王子の直近の失政の尻拭いにかかった時間:年間400時間。王家の赤字補填に使った我が公爵家の資金:年間3億ゴルド。……この婚約が破棄された場合、王家から支払われる違約金:15億ゴルド。かつ、自由の獲得。──うん。今ここで恥をかく社会的デメリットを考慮しても、利益率200%以上の大勝利ね)
エルザは一切表情を崩さず、静かに一礼した。
「承知いたしました、カイル殿下。その条件、謹んでお受けいたします」
「なっ……! どこまでも可愛げのない女だ! 泣いて縋り付きもしないとは!」
カイルが憤慨したその時、会場の空気が凍りついた。
背後に現れたのは、漆黒の外套をまとった美貌の青年。若くして国の最高戦力を担う「魔導卿」セドリックだった。彼は真っ直ぐにエルザの前に歩み寄り、その手を取って指先に口づけをした。
「ようやく自由になったね、エルザ。ずっとこの時を待っていた」
「セドリック様……? これは一体」
「君がカイルの無能さに耐えかねて、わざと彼がアメリアと浮気するよう、誘導の予算と時間を計算して配置していたこと。僕はすべて知っているよ。君の頭脳は、世界で最も美しい」
セドリックはカイルを冷徹に見据え、告げた。
「カイル殿下。あなたが今月承認した王宮の魔導具の発注書、すべてエルザが裏で数字を調整していたものです。彼女を失った今、あなたの手元には、15億ゴルドの違約金請求書と、機能停止した魔導具の山だけが残る。……僕と彼女は、これから二人で、新しい魔導理論の構築(という名のハネムーン)に出かけますので。さようなら、無能な殿下」
「な、なんだと……!? エルザ、待て! 戻れ!」
叫ぶ元婚約者を置き去りに、エルザはセドリックの腕に抱かれ、転移魔術の光の中に消えた。
「セドリック様。私の計算では、あなたが私を口説きにくる確率は62%だったのですが」
「おや、僕の愛は100%だよ。これからは一生をかけて、その計算を狂わせてあげる」
氷の令嬢の頬が、初めて桜色に染まった。
【作者よりメッセージ】
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