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都合のいい女

掲載日:2026/03/10

小説というより独白系?フィクションですが。

少し多くの人に読んでもらっている『別れ話』と同じテイストです。

「今日はありがとう、裕太くん。また遊ぼうね」

「おう、じゃあなー」


 そう言って手を振り合って、瑛美は車の助手席から降りた。ドアを閉める音がやけに大きく響く。

 小さくなっていく車を目の端にとらえながら、瑛美はきっとこれが最後なのだろうなと朧げながらに思った。

 なんでそう思ったのかはわからない。楽しく過ごした一日だった。次にどこに行くのかの話もした。


 けれど、『終わり』だと思ったのだ。それはどこか確信めいたもの。

 女の勘か、はたまた30年以上生きてきた経験則か。


 32歳の瑛美と29歳の裕太。2人の関係は曖昧だった。

 友達と呼ぶには男女の関係すぎて、恋人と呼ぶには約束がなさすぎた。

 きっと世の中は2人のことを『セフレ』と呼ぶのだろうなと瑛美は思う。

 けれどそう呼びたくはなかった。やってることはそれと何も変わらないのだが。


 裕太との曖昧な関係。それが楽で、それが瑛美にとっては寂しかった。

 2人が出会ったのはマッチングアプリだ。男性も無料で利用できる少しだけ不健全な人が多い、そんなアプリ。

 瑛美はそういう相手を求めていたのではない。けれど結婚願望がない彼女にとって男性が有料なアプリを使うのは抵抗があった。相手の時間を邪魔してしまうようで。人の迷惑になるのだけはいやだった。

 だからこそ、瑛美は一緒にいる人を探すために、そういうアプリで何回か男性と会った。


 世間のイメージどおりの出会いもあったし、真面目な人もいた。

 けれど好きになってくれそうな人を瑛美は好きになれず、雑に扱う人ばかりを好きになった。

 裕太もその中の1人だった。


 初めは大切にしてくれた。今までの恋愛に怒ってくれた。きちんとした言葉はなくても恋人のように過ごしてくれた。

 仕事が忙しくない夜は毎回電話をくれ、仕事がない休日には会いにきてくれた。

 けれど数ヶ月が経つとだんだん雑な扱いになってきた。身体の関係はあってもハグはなくなった。

 

 それが瑛美には泣きそうなくらい悲しかった。


 恋は瑛美にいい思い出をあまり残さない。

 いつも重くなってしまい、終わりの言葉なく終わることが多かった。だから既読無視や未読無視に必要以上に怯えていた。


「これ瑛美が好きそうだと思ったから買ってきたよ」

 今日家に来た裕太が持っていたビニール袋には瑛美が好みそうなお菓子が入っていた。甘いのが苦手な彼が食べないようなお菓子。好みを把握し、いないところでも思い出してくれた。それだけで充分なはずだった。


 けれど、優しくされるたびもっと優しくされたいと思ってしまう。

 気にかけてくれるたび、関係性に名前をつけたいと思ってしまう。

 関係性に名前をつけたくない男を選んでいるのは自分なのに。


 付き合ってもいない女を抱く裕太はクズで、抱かれる瑛美もクズなのだろう。

 そんなことはわかっている。自分が都合のいい女だってことも。


 それでも毎回毎回、こんな恋愛ばかりしかできない。


 『雑に扱う男を切れる女になれ!』

 そんな記事ばかりがSNSのおすすめの一覧に並ぶ。それができたら溺愛されると。自分を大切にしない恋愛に未来はないと。


 そうなのかもしれない。いや、そんなことはわかっている。けれどできないのだ。

 自分には価値がないのだと思ってしまうのだから。奉仕して初めて大切に扱われる、そんな存在なのだと、そう思ってしまっているのだから。

 だってしょうがないじゃないか。大切にされた成功体験がそれしかないんだから。

 32年も生きてきて。


 けれど、裕太は、今までの恋愛よりも自分らしさを出せた関係性だった。

 今までの人よりも寄り添ってくれた裕太だからこそ、初めて自分から終わらせたいと思った。

 終わりを告げる関係性でもないくせに。


 「いつも一歩遅いんだよな」

 いつだって言いたいことは言えない。次に会ったとき、最近雑に扱われていて嫌だという話をしようと思っていた。それすらできないのだなと瑛美は苦笑を浮かべる。

 

 裕太といて初めて思った。終わりの主導権が欲しいと。

 それは初めての感覚だった。今まで、終わらないことに必死でへりくだるばかりだったから。


 「私が終わらせたかったな」

 独り言が口から出る。けれどそんなこと言ってるようじゃまだ変われそうもないなと思う。

 終わりを考えなくて済む関係を望めるようになりたい。


 「よし!」

 少しだけ大きな声。自分に気合いを入れた。スマホを手に取り、緑の連絡アプリを開く。

 一番上にあった裕太の名前を非表示にした。ブロックする勇気はまだない。


 都合のいい女はきっとやめられないと思う。けれど今よりももう少しだけ、ほんの少しでいいから自分主体で動けたら。もう少しわがままを言えるようになれたなら。

 そしたらきっと今よりマシな恋愛ができるのだろうなと瑛美は思う。


 もう恋愛はしなくていいという思いと、誰かを愛したいという思いが交差する。

 とりあえず、今は、少しだけ休んでみよう。

 そしてちゃんと自分と向き合ってみようと思う。


 だって瑛美は都合のいい女だ。だから自分にとって今以上に都合が良くなれるはずだ。


 世界で一番瑛美のことを愛しているのは瑛美なんだから。

 せっかく都合のいい女なんだから、世界で一番愛してくれる人の都合のいい女になれるはずだ。


 そう思い、スマホを閉じる。


 「じゃあね、裕太くん」


 直接言えなかった言葉を声に出しながら。


最近現代ものこんなんばっかですね笑

もっと甘いものを書きたいが、甘いもの書くなら異世界系で書きたいです。

リハビリだと思っていただければ幸いです。

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