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あなたのメインヒロインになれたなら  作者: 棚旗夏旗
一章 さよなら、桜セピア
6/13

六話 ナカユビアクマ・ラヴリーレイナ


「御手洗くん、今お手すき?」


 「!?」と文字が視認できそうな空気が流れる。近づいて声を掛けただけなのだが、3組の教室にあった音のほとんどは伊吹の一声に反応して消えてしまった。

 変な言い回しをしたせいもある──それにしても昨日の今日だというのに随分な反応だ。人前で彼と話すのも、これで三回目だというのに。


「お、朱島。お疲れ。どうした?」

「お疲れさま~。昨日連絡先聞くの忘れちゃったのを思い出して。今聞こうかなーって」

「あー俺も完全に忘れてた。確かに交換しといたほうがいいな」


 もう慣れたものだが、異性と話しているときはだいたい無遠慮な視線の数々に見舞われる。人懐っこく明朗快活、その上で整った容姿をもつ伊吹は4月中にかなりの男子生徒からの視線を集めていた。本人は運命の相手以外興味がないため意識の外だが。


「おい、御手洗のやつ昨日朱島さんと一緒に帰ってたらしいぞ」

「あいつマジで何なんだよ、運動が出来て体がデカいからって。羨ましすぎるだろ」

「俺も朱島さんとレイル交換してぇ~」


 野次が聞こえる。

 「今まで接点のなかった男女が親しげに会話している」という今の構図は、周囲にとって気にならないわけがなかった。


「⋯⋯オッケー。なんかあったら連絡してくれ。ついでに乾のも交換しとくか」

「なんでついでなのよ。あんたとあたしに何の差があるのよ」

「今日もしっかり怖いな、目が」


 慎之介が流れで話を隣に振ると、ムスッとした顔の茉莉花が低い声音で返す。まだ帰りの準備をしてはいるが、彼女は毎日放課後になるとすぐに帰るらしい。


「茉莉花ちゃんも交換しよっ? それも目的の一つだったから!」

「⋯⋯いいけど⋯⋯何、なんで今?」

「え、ついでにお出掛けに誘おうかと思って」

「⋯⋯はい?」


 ぱちくりと瞬きをする。長く整ったまつ毛、よく見ると透き通った紫紺の瞳。見つめていたらどんな男だって一撃で落とせるだけのポテンシャルが茉莉花にはあった。

 本人はいつも他者を寄せ付けないように過ごしているらしいのだが、それがすごく勿体ないように思える。


「だから、今から放課後デートしよ? 茉莉花ちゃん」

「な⋯⋯な、なんであたしなのよ!? てか“心当たり”はどうした! そっちはいいの!?」

「沙凪ちゃんは御手洗くんがお見舞いに行く日にまた行くから、今日はお休みにするよ。病院行ってもいるか分かんないからね」

「いや、それでも意味わからんし。てかあたし用事が⋯⋯。⋯⋯⋯⋯」


 顔を赤くして反論の姿勢をとる茉莉花だが、一度言葉に詰まると俯いて黙り込んでしまう。前髪が垂れ下がり、周囲から彼女の顔が見えなくなる。サイドテールに纏めるためのシュシュは白黒の水玉模様。チャームポイント的愛らしさを感じた。


「いや⋯⋯だから、それはさぁ」


 ブツブツと何か独り言めいたものを呟いている。伊吹にも慎之介にも話しかけているわけではなさそうだ。


「乾どした? 腹でも壊したか?」

「デカい男は黙ってくれる? 今取り込み中なの」

「はは、辛辣すぎるだろ」


 両手を上げて降参のポーズ。彼らのやり取りは数日見ただけでも、平時の様子が分かるくらいパターン化されていた。これはこれで仲が良いようにも感じる。

 十秒ほど経っただろうか、三人で話し始めたことで周囲の視線も少しずつ分散し始めたのを感じた頃、茉莉花は顔を上げた。


「いいわ、今からでしょ。どこ行くの?」

「ほんと!? 嬉しいな! じゃあドーナツ食べに行こうよ、新作出てるんだって!」

「⋯⋯あたし甘いものとかあんまり食べないんだけど」

「大丈夫辛いものもある!行こ!」

「わ、分かったから。ちょっと待ちなさいよ」


 勢いに押され、帰り支度を終えた茉莉花はされるがままに引っ張られる。二人のやり取りを眺めていた慎之介は「いってらー」と手を振っていた。


「ふん! あんたは混ぜてやんないから! 寂しく一人で帰ってなさい!」

「茉莉花ちゃんって案外ノリいいよね」

「いやっ、別にこれはあいつが気に食わないだけであって深い理由はないから!」

「はいはい」


 教室に向かって中指を立てる彼女を引きずり、伊吹はそのまま学校の外へ出る。昨日は慎之介と二人だったから集まっていた視線はそこまで感じられなかった。

 代わりに別の層から注目を受けていた気がするが、誰ともつるまず孤高を貫いてきたらしい茉莉花と伊吹の組み合わせに対するものだろう。


「⋯⋯あとで聞いてほしいことがあるんだけど」

「えっなになに!? 相談ならいくらでも乗るよ!」


 引っ張っていた手を振りほどいて、茉莉花が切り出しにくそうにつぶやいた。しっかり伊吹の耳に届くくらいの声量ではあったのだが、どうにも話しづらそうだ。


「⋯⋯言っとくけど、あたし高校入って友達とか作る気なかったから。あんなにしつこく話しかけてきたのはあんたが初めてよ」

「勿体ないよね、こんなにかわいいのに。これから色んなお話ししようね」

「⋯⋯まあ、うん」


 横目で伊吹を見ながら歩く彼女は、複雑な表情をしていた。色々な感情が混じって吐き出せず、抱えて靄になっているような。

 鞄のストラップが歩みに合わせて揺れている。並ぶと伊吹より僅かに高い背丈だからか、同じ制服を身に着けているはずの茉莉花が大人びて見えた。


「中学の時はお友達いた?」

「あんたこれで“いない”って言ったら最悪の空気になるわよ。⋯⋯いなかったわけじゃないけど、先月引っ越してきたからもういないわ」

「そうなんだ! どこ出身?」

「岡山⋯⋯最初は」

「岡山! めっちゃ遠くない!? え、最初って何?」

「待ってずっとこのノリで会話するの? 疲れないのそれ」

「何が?」

「何がって⋯⋯まあ、いいならいいけど」


 そこそこに会話しながら目的地へ向かう。最寄りの駅の傍にあるドーナツのチェーン店だ。放課後になると溜まり場になりやすい店の一つで、逆に寄り付かない生徒もいる程度には高校生で溢れ返っている。

 入店時は「よくここに来ようとおもったわね」とうんざりしていた茉莉花だが、ドーナツ二つを買って席に座ると少し口元が緩んでいた。


「あれ、甘いものあんまり食べないんじゃなかった?」

「えっ、いや違──違わないから!」

「落ち着いて?」


 多少声を荒げても周りが騒がしすぎてほとんど目立たない。平日の夕方特有の喧騒というべきか、全てがノイズと化していくこの時間は心地よかった。

 伊吹は新作の『イチゴ宇治抹茶味』を遠慮なく頬張る。名前と商品を見たときは盛り過ぎ感が否めなかったが、いざ食してみると互いの味が程よいバランスで主張し合っていた。

 ウーロン茶をちびちびと飲みながら茉莉花はその様子をじっと見ている。


「⋯⋯美味しい?」

「思ってたよりずっと! 茉莉花ちゃんも食べる?」

「ほんと~!? じゃあ一口貰ってもいいかなっ?」

「いいよ──え?」


 違和感の塊みたいな声がした。随分可愛らしい、鈴が転がったような声音だ。どこから聞こえたのか分からないが、耳にするだけで釘付けになるだけの魅力があった。

 近くの会話を拾って返事してしまった。茉莉花は何も言っていないのに――そう思うと少し恥ずかしくなる。


「ご、ごめん。隣の声に反応しちゃって。えっと⋯⋯食べる?」

「だから食べるって言ってるじゃん~。返事したのになんでもっかい聞くの? オマエ意外と天然だな!」

「⋯⋯あれ、茉莉花ちゃん?」


 豹変、という言葉がこれほど似合う現象もないだろう。向かいの席でチョコ味を齧りながら話す茉莉花には、先ほどまでのツンツンした雰囲気は欠片もなかった。伊吹以上に明るく、キャラが崩壊したのではないかと心配になるほどハキハキ喋っている。

 誰? と思わず言いたくなる。しかし異様に明るくなった表情以外、外見は茉莉花そのものだ。


「も~。くれるって言ったんだから貰うぞ~? ⋯⋯あっヤバ。多めにちぎっちゃった。許してね~」

「あ、えと⋯⋯全然それはいいんだけど」


 分け方に失敗して抹茶クリームが垂れているドーナツの欠片を一口で食べ、「抹茶かよ、あんま好きじゃな~い」なんて悪態をついている。本当に同一人物だというのか。


「あ、ごめんごめん。リカちゃんがいつまでもお話しないから出てきちゃった。レイナだよ~、よろしく★」


 瞳の奥に黒い光が見える。黒いのにどの色よりも輝いている不思議な光。レイナと名乗る彼女は茉莉花の体を動かして喋りながら、にこにこと八重歯を見せて笑っている。

 流石に呆気に取られてしまう。何が起こっているのかよく分からない。


「まあ、ちゃんと説明してあげるから。レイナちゃんのこと★」




 ◇◇◇




 シングロイド、という文化が存在する。

 二次元アイドルを謳うコンテンツで、現実離れしたデザインのキャラクターたちがまるで現実に居るかのような世界観で実況・動画投稿などをしてくれるものだという。数年前に先駆けとなる動画投稿者が複数人現れたことでそれらをまとめて“シングロイド”と呼称するように成り、そこから年月をかけてじっくり名前を広めて現在に至る。


 キャラクターの中身は当然人間。二次元からキャラクターが出てきたのではなく、そうしたデザインの皮を被ることで現実の人間があたかも非実在のキャラクターのように見える、ということだそうだ。

 名前から歌を歌う人たちのことを指しているのかと思ったが、案外そうでもなく――ゲーム実況や雑談配信など、幅広い活動を行っている。勿論歌関連のコンテンツ展開をメインに据えている配信者も存在するのだが。


「昨日のローレン魔王見た? あのカバーは反則だよな~!」

「いやお前⋯⋯っ⋯⋯握手だ! 最高過ぎ!」


 クラスの男子の話し声。おそらく今の会話もそのシングロイドのものだ。

 数多のシングロイド動画投稿者の中で、特に人気を博しているのが『パールライブ』に所属する『ローレン魔王』や『ベリショ有栖川』などらしい。最近は企業ぐるみの活動の方が伸びやすく個人勢は死滅している傾向にあるそうで、数年の間にシングロイド業界も様々な推移をみせているそうだ。


「ねえ、シングロイドの話してるの?」

「そうだけど──って、朱島さん!? えっそうだけど朱島さん!?」

「ふふっ、驚き方面白いね吉村くん。良かったらお話し聞かせて欲しいな」

「いやそりゃ全然いいけど⋯⋯え、いいよな? 坂田」

「お、おう」


 伊吹が唐突に話しかけたものだから、クラスの男子二人の動きはかなりぎこちないものへと変容してしまった。


「あ、朱島さんもシングロイドとか見るんだ。誰推し?」

「あっごめん、わたし全然詳しくなくて。だから詳しい人に教えてもらえたらなーって」

「そうなんだ! じゃあ俺のイチオシを──」

「バカこのお前バカ!」


 腕組みで座っていた坂田が吉村の頭を叩く。得意げに話し始めようとしていた吉村は面食らったように硬直し、その隙に引っ張られて伊吹と距離をとられた。


「おい、いきなり自分の推しなんて紹介してみろ! 詳しくないって言ってるんだぞ、趣味丸出しの紹介でキモがられたらどうするんだよ。朱島さんに“オタクキモ”なんて言われた日には女子全員から煙たがられて終わりだろうが」

「そ、それもそうか。慎重に選ばないとヤバいよな、そうだよな」

「もっと無難なとこいこうぜ。もしくはすげー話題なやつ。ローレン魔王はビッグネームだけど衣装が際どすぎる」

「⋯⋯?」


 小声で話しているため二人の声は伊吹には届いていない。しかしその様子はしっかりクラスメイトの視界に映っており、話しかけに来た伊吹を放ってヒソヒソ話す危険な奴らというレッテルが貼られつつあった。


「ごめんお待たせ! いやー数が多すぎてさ、折角ならすげー面白い子紹介したいと思って、相談してた」

「そこまでしてくれたの? 嬉しいなーありがとう!」

「⋯⋯え、ええと⋯⋯誰の事言おうとしてたんだっけ⋯⋯」

「おい坂田全然ダメじゃねえか! そこ代われ!」


 伊吹がちょっと距離を詰めて笑いかけると、坂田は目を逸らして機能停止してしまう。女子グループの中心人物の伊吹だが、男子との関りはあまりなかった。ない、というか話す機会のある男子生徒とだけ交流がある。

 吉村と坂田には交流が生じるだけの切っ掛けも共通点もないため、こうして話すと美貌から繰り出されるインパクトが大きかった。


「あー、それじゃあ俺が代わりに。最近流行ってるのは、美声で有名になった『三澄スミレ』と大食い配信がメインの『ののはちゃん』とかだな」

「大食いってできるの? この前ちょっとだけ説明してもらったけど⋯⋯中の人が映ったらダメなんだよね?」

「中の人とかいないから! ののはちゃんは食前食後の写真をアップして、配信中も机の上を映して食べてるよ。基本は箸しか映らないけど、咀嚼音がガチだから嘘ってことはないと思う」

「へー⋯⋯他には?」


 少しずつ饒舌になっていく吉村に「ステイステイ」と坂田が背中をさすっている。仲が良いのだろう。見ていて微笑ましい。


「他にはー⋯⋯あっ、三月末くらいから配信を始めた子が一人いる! すげー有名になってきたよな。名前なんだっけ⋯⋯ナカ⋯⋯悪魔のなんとか⋯⋯」

「あーいたいた。アホみたいに流行りすぎて逆に見てないわ。なんだっけ中指のなんとか」

「⋯⋯『ナカユビアクマ・ラヴリーレイナ』?」

「そうそれ! なんだ朱島さん詳しいじゃん!」

「⋯⋯」


 喉に突っかかった名前を代わりに答えたからか、二人の態度が少しだけ柔らかくなる。一言一句間違わず配信者の名前を言い当てたことで親近感がわいたのだろう。


「二人はそんなに詳しくない? その人のこと」

「そうだなあ⋯⋯こいつはさっき言った通り逆張りオタクだし、俺もあんまり。なんか一発目からやべーことやったのは知ってるけど⋯⋯」

「分かった、ありがと! 吉村くんと坂田くん!」


 ぺこりと一礼すると、伊吹は二人のもとを離れて教室外に出ていった。会話を切られて取り残された二人は二、三秒動きが止まり、先に我に返った吉村がぼそりと呟く。


「⋯⋯俺明日髪切る予定だったんだよね」

「は? 俺は今日切るけど」

「真似するな。⋯⋯でもまあ、あれだな」

「ああ……」


 甘い香りだった、と。二人の意見が合致した瞬間だった。

 勿論クラスの女子からはゴミを見るような目で見られた。




 ◇◇◇




「どうだった?」

「うーん、知らないって。なんか話題になったのは知ってるみたい」

「えぇ~! まだまだじゃん。レイナちゃんの魅力伝わってないとか、センスねーな!」


 休み時間。伊吹は茉莉花と廊下の隅の方に来ていた。

 正確には、茉莉花ではなく──“レイナ”と。


「あ、昨日動画見たよ。すごいね、本当に配信者なんだ」

「当たり前だろ~なんてったってレイナちゃんだぜ? 配信も話題かっさらうのも朝飯前⋯⋯なのになんで知らないのかなーおかしいよね!」


 時間帯を無視して無視して菓子パンを貪る姿は、育ちの悪い子どものよう。壁にもたれ掛かって無邪気な顔をしている姿は、何か幻覚でも見せられている気分だった。


「⋯⋯二重人格、なんだよね?」

「あん? だからそー言ってんじゃん。めんどくせーリカちゃんの代わりに今はレイナちゃんが出て来てるよ」


 二重人格。聞き馴染みがあるかと言われればノーだが、聞いたことくらいはあるしなんとなくは理解している概念。

 曰く、茉莉花とレイナが“そう”なのだという。

 容姿の違いはなく、サイドテールの紫髪と紫紺の瞳。レイナになっている間だけは瞳には仄暗い光が宿っている。


「茉莉花ちゃんは何してるの?」

「お部屋に閉じこもってるよー⋯⋯なんかうるさいから代わるね★」

「? 代わるって」

「そのまんまの意味よ。なんていうか⋯⋯体を操作する権利を入れ替えるみたいな感じ」

「わっ、茉莉花ちゃんだ」


 伊吹は目を丸くする。

 瞬きすらする間もなく、レイナの態度が一変して茉莉花に戻った。姿勢も正され、遠慮なく菓子パンを食べる動きも止まっている。


「すごいね、本当に演技とかじゃないんだ」

「これ信じるとは思ってなかったけど、信じるんだ。随分お花畑な頭してるのね」

「だって友達の言うことだもん、信じるよ! それにわたしの夢、最高のメインヒロインになることだし!」

「──⋯⋯ああ、あれそういう意味か⋯⋯」


 何か思い出した様子の茉莉花。気だるげな様子で、若干肩が落ちていた。

 伊吹がクラスの男子にシングロイドの話を聞いた理由。それはシングロイドとして活動するレイナがどの程度浸透しているかの調査だった。

 レイナは茉莉花が中学卒業したあたりに生まれた新しい人格で、彼女の趣味で配信者をしている。二重人格は過剰なストレスから主人格が逃避するために生み出されるもの、と何かの漫画で読んだことがあるが──


「言っとくけどこいつは現実では何の役にも立たないわよ。現実逃避のためにレイナが生まれたなら、いつもあたしが表に出てるのおかしいでしょ。こいつは人の体使って遊んでるだけなのよ」


 彼女の場合かなり特殊で、後からできた人格が表の人格の苦難を肩代わりするようなことはないという。


「⋯⋯なんで話してくれたの?」

「別に。そういう気分だっただけよ』『うそうそ! リカちゃんほんとは友達欲しくてさぁ~、積極的に関わってくれるオマエなら話聞いてくれそうって超超超期待してたんだよ?」


 どうやら途中からレイナに代わっていたらしい。声色が大幅に変化する上に態度もだいぶ異なるため、どのタイミングで切り替わったか分かりやすい。切り替わる瞬間に世界がズレるような違和感もあり、その気持ち悪さだけは慣れるのに時間が掛かりそうだが。


「リカちゃんはほんとに友達作らなくてさ、昔の思い出がニガニガすぎてみたいな? だからってあんなツンツンしなくてもいいよね~。すげー態度悪くてさあ、だからぼっちになるんだよな」

「ちゃんと話したら面白いのにね」

「ね~! オマエとあのでっかい男の子だけはちゃんと話しかけてくれたから、レイナちゃんも気に入っちゃった! リカちゃんこんなだけどマジでチョロいから、友達として変なやつから守ってあげ』『はい、終わり終わり! 休み時間なくなるわよ!」


 再び交代すると茉莉花は羞恥に顔を染め、虚空を片手でパタパタと振り払った。表情も仕草もころころ変わって面白いのだが、何も知らない人が目にすれば奇妙極まりないだろう。完成度の高い一人芝居を見ている気分ですらある。


「⋯⋯で、あんたに話したいこと。もう一個あって」

「うん、なあに?」

「えっと⋯⋯どう言えばいいのかしら⋯⋯でもストレートに言うのもなんか違うし、いや⋯⋯どうしよう⋯⋯」


 レイナの時と比べてかなり歯切れの悪い様子。顔は赤いままだが、言葉を連ねていくたびにどんどん赤みが増していく。覗く八重歯がかわいいな、なんて呑気な感想が浮かんだ。

 どうやら人には言えない事情がもう一つあるらしい。何を言われても受け止める覚悟で構える伊吹――気分は大海原だ。


「⋯⋯み、御手洗のこと、好き⋯⋯っていうか、その⋯⋯あんたになら話してもいいかもみたいな⋯⋯協力してほしい、というか⋯⋯」

「え」


 にこにこと話を聞いていたのに一瞬で頭が真っ白になった。言葉はしっかり脳にしみ込んだのに、内容が深く入ってこない。

 茉莉花は否定する勢いで壁から離れ、更に続ける。


「いや、二重人格で気持ちが混ざっちゃうみたいな話見たことがあるから、それかなと思って! レイナってまともに人と関わったことないから優しくされたらすぐ惚れちゃうみたいなとこありそうだし』『違うよ~リカちゃんでしょ! レイナちゃんを恥ずかしさの言い訳にするのやめてくれますか~!?」

「えーっと⋯⋯えっと、もっかい聞いていい?」

「え~また~? しょうがな』『イヤよ! なんでこんな恥ずかしいこと何回も言わせようとしてんの!?」


 顔はもう真っ赤も真っ赤。乙女らしい表情で、いつもより見開かれた瞳孔と落ち着きのない動作がなんとも可愛らしい。


 彼女の言葉を反芻する。茉莉花は慎之介に恋心を抱いていて。その手伝いをしてほしいという申し出を受けているわけだ。


「⋯⋯とりあえず、レイナちゃん? のことは言わなくても良かったんじゃ⋯⋯?」

「まあ⋯⋯その、一旦レイナを挟んでから言えば恥ずかしさ半減するかなとか思ったり⋯⋯とにかく、あの男とどうしたら⋯⋯な、仲良くなれるか。それの相談!」

「そんなブラフみたいな感じで打ち明けちゃっていいんだ⋯⋯」


 傾聴しながらスマートフォンの時計を見る。あと数分で休み時間も終わる──思っていたよりも会話に気が向いてしまっていたらしい。

 時間がないという事実に脳は全く焦る気配はなく、むしろ冴え渡っていた。茉莉花とレイナの言葉をゆっくりと飲み込んで理解し、伊吹は一つの結論に辿り着く。


 茉莉花の矢印が慎之介に向いている。

 彼女は友達で、縁を大切にするならばこの恋は応援するべきだ。


(ということは、つまり⋯⋯御手洗くんはわたしの“運命の相手”ではない⋯⋯?)


 茉莉花の相談は、要約すると恋路を応援してほしいということだ。これを反故にすれば縁を大切にしていないということになり、願いを達成する条件を満たせなくなる。

 そうなると伊吹がメインヒロインになれる相手から慎之介は除外されるだろう。運命の相手はまだ知らない誰かか、閑流か沙凪ということになる。


 ともあれ、友達の恋は全力で応援するというのが朱島伊吹のスタイルだった。


「まあリカちゃんこんな感じだから。これからよろしくね★」

「任せて! 超ラブラブにして一生くっついて離れられなくしてあげる!」

「いやそれはやり過ぎだろ、レイナちゃん配信できなくなると困るんだけど⋯⋯」


 胸を張って答える伊吹。若干困惑するレイナ。二人の会話を余所に休み時間の終わりを告げるチャイムが、容赦なく鳴り響いていた。



書き溜めが20万文字近くあるのでしばらく毎日更新ですが、今後のモチベーション等にも繋がるので宜しければ作品ブックマークや感想、評価よろしくお願いいたします。

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