fragment.1:幕間Ⅱ 楽園遊園
8月初め、うだるような暑さの中私達はエリジウムパークへやって来た。
夏季休暇前の試験もなんとか乗り切り、四人で来られたのは良かった。こういった所には初めて来るので内心ワクワクしながら入場ゲートを潜る。すると其処には笑顔溢れるキラキラとした光景が有った。様々なアトラクションがあり、家族やカップル、友人グループ等が笑顔で闊歩している。
「行くよ!ミタマ。」
見とれているとフレイヤに手を引っ張られた。
「嗚呼、ちょっと待って下さい。皆さんにお渡ししたい物が有ったんです。」
と言って取り出したのは虫除けのアミュレット。お揃いのチャームにも見える其れを三人に手渡した。
「ありがとう!可愛い~!」
「あ、ありがと。いいセンスしてるじゃない。」
「ありがとう。大切にするね。」
三者三様の反応をした後、三人共鞄に付けてくれた。
それからアトラクションに乗ったり、昼食を園内のレストランで食べたりとエリジウムパークを満喫していた。
お手洗いに行って戻る途中、困った様子の少女が目に入る。薄紫色の髪の、恐らく年下であろう少女なのだが、如何やら男性に絡まれているらしい。
「お嬢ちゃん一人?駄目だよこんなところに一人でいちゃ。一緒に迷子センターに行こうね。」
「いえ、ここでお兄様を待っていますの。ご心配はありがたいのですが大丈夫ですわ。」
「いやいや、一人じゃ危ないだろう?一緒に行こう。」
「いや、あの…」
若しや誘拐なのではと思うと見過ごせなかった。彼等の間に割り込んで話しかける。
「人の友人に何の用ですか?通報しますよ。」
「いや、俺はただ…」
「はっきり言って今の貴方は唯の不審者ですよ。」
圧をかけて睨むと、男はㇶェッと情けない声を出してそそくさと逃げて行った。
「全く、こないな子供に睨まれて逃げる様な小心者が何しとるんやろねぇ。」
「助けて頂きありがとうございました。」
「いえいえ、大した事はしてませんよ。貴女もお気を付けて。」
と別れ様とした時だった。
「遅くなってごめんよ、リーゼ。何もなかったかい?って…」
とても聞き覚えがある青年の声が聞こえて思わず振り向いてしまった。
視線の先に居るのはどう見ても葬冰で、目を見開いた。彼方も此方の姿が目に入ったのか笑顔だった顔が驚愕に変わる。
そして私と少女の顔を交互に見る。どうして…?とでも書かれている様な顔に笑ってしまう。
(なんやめっちゃ分かりやすい顔するやんこの人。プライベートなんかな?)
「ふふっ、どうも。」
「や、やあ。こんな所で遇うなんて奇遇だね。」
お互いこんな所で騒ぎを起こしたくないと言う事は共通認識らしくぎこちないが友好的な挨拶を返してくれた。
この様子を見て少女の方から口を開いた。
「お兄様のお知り合いだったのですね。私、リーゼロッテ・ツー=ファウストと言いますの。どうぞ仲良くしてくださいませ。」
「ええ…神代珠霊です。どうぞ良しなに。」
葬冰を見て一瞬躊躇ったが、名乗られたのなら此方も名乗らなければ失礼だろう。リーゼロッテの様子を見るに葬冰の所属も知っているか危うい。それに私個人としては間諜の件は気にしていないし、Warlocksだからと邪険にする理由はあまりない。むしろ少し仲良くなって情報を落としてくれた方が有難いくらいだ。
「それで、何をしていたのかな?」
「そうでしたわ!お兄様、ミタマ様が助けて下さったのです。先程お兄様をお待ちしていた時に男性にその、話しかけられていて…
なので、お礼をしたいのです。」
「おや、そうだったのかい?妹がお世話になったみたいだね。何かお礼をしないと。」
「え、いや、ええって。ほんまに大したことしてませんから。其れに友人が待っとるんで。」
「ああ、其れはいけないね。じゃあまた後日お礼させて貰うよ。勿論、“個人的に”ね。」
「…じゃあ其れで。では失礼しますね。」
ニコリと笑って今度こそ別れてアリス達のもとへ戻る。
「お待たせしました。」
「あ!ミタマちゃん。こっちだよ。」
「そろそろ帰らないと寮長に怒られるんじゃないかって話してたのよ。」
「確かにそんな時間ですね。」
言われて時間を見れば時計は16時半を指していた。
どのアトラクションが楽しかったか、なんて話に花を咲かせて帰路に就いた。
立地により不安に思っていた事も杞憂だった様だ。
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「こっち駆除終わりました。」
「お疲れ~。こっちも終わったし、報告して帰ろっか。」
エリジウムパークを囲う外壁の外、森の中に二人の男女が話していた。
「毎年こうなんすか?」
「そうそう。此処がそういう場所だからしょうがないんだよね~。まあ|万事屋Daybreakとしては毎年依頼が貰えるから有難いんだけどさ。さあ、帰ろう。」
「はーい。」