fragment.1:幕間Ⅰ 美化礼装
さて、やって来てしまった週末。
先週約束した通りに公園の噴水前で待つ。白を基調としたレンガ造りの街並みを眺めていると、時計が目に入る。時刻はAM.9:40。集合時間の20分も前に着いてしまった。
10分程待っているとお洒落にキメているユルリッシュが此方へやって来るのが見えた。
私は相変わらず制服で来ているので少々気まずい。
「おはよう。待たせちゃったかしら?」
「いえ、そんな事ないですよ。」
「そう?じゃあ早速行きましょうか!」
やる気満々といった風体で歩き出す彼の後を付いていく。かく言う私も久々の買い物に胸が躍っている。こんな風に人目をはばからずに個人的な買い物をするのは何時ぶりだっただろうか。
結局、夕方まで様々な店を連れまわされ半ば着せ替え人形の様になりながら数セットもの服を購入する事になった。これだけ買っても有り余っているのだから本当に有難い臨時収入だった。
そろそろ帰ろうかという頃にとある看板が目に入った。
“魔道具屋|Tradescantia”。アンティーク調の建物の突出看板が妙に気になった。
「ユルリッシュ先輩、あそこだけ寄ってもええですか?」
「あらお洒落なお店じゃない。行きましょ。」
カランカラン
扉を開けると来店を告げるベルが鳴る。
魔道具屋の名の通り、店内には手作りと思われる道具が売られている。その中でもケースに入れられた小物に目が行った。
様々なアクセサリー型のアミュレットが売られている中で虫除けのアミュレットを見つけた。
(之はええ物やな。ほんまに“丁度善い”。)
「あら、何か気に入った物が有ったの?」
「ええ。店主はんが居ればええんですけど…」
「お呼びですか?」
ユルリッシュと話していると、カウンターの奥から一人の少女が顔を出した。ベレー帽に三角の花の様な飾りを着け、首から鍵を下げている少女。
「貴女が店主はんですか?」
「はい。何かお求めですか?」
「この虫除けのアミュレットを三つお願いします。」
「ほう、お目が高い。エリジウムパークへのお出掛けですか?」
「ええ。彼処は“蟲”が多いですから。」
「そうですねぇ。ふふふっ…少々お待ち下さい。御用意致しますので。」
終始淡々と何処か不気味な笑みを浮かべて対応する彼女は、そう言い残して再びカウンターの奥へと消えて行った。
改めて店内を見てみると鞄等の道具から杖や手袋等の魔術補助道具、更には短剣など武器の類まで揃っている。
(之等を全部一人で作ったんかな…)
どれだけの費用と時間が費やされたのやら。
感心していると若き店主が戻って来た。
「お待たせ致しました。此方でお間違いないでしょうか。」
「はい。」
淡々と会計を済ませてお店を出る。そのまま寮の前まで送って貰った。
「今日は有難う御座いました。」
「いえいえ、アタシも楽しかったわ。」