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Cross✖Fragments  作者: 弦月雪啼
7/22

fragment.1:紫電黎明 終

「おや、バレてしまったか。そのまま当たっていれば苦しまずに済んだと言うのに。」

そう彼がニヤリと笑うと、周囲を取り囲む様に魔物が現れる。数にして十にも満たないが、一般生徒なら逃げる事を優先するのだろう。だが、此処に居るのはただの一般生徒では無い。

「ハッ流石は召喚術教諭と言ったところか?」

「まあ一度に召喚した数は大した物やろうけど質はそうでも無いですよ。確保するんなら御自分で。」

「あいよ。んじゃ魔物は頼んだぞ。」

その場で役割分担をしすぐさま行動に移した。

ネヴァが敵へ向かって一直線に駆け、その行く手を遮ろうと動く魔物は私が一太刀のうちに斬り伏せる。

ネヴァは振り返らない。

私も彼女を気にせず魔物を斬る。

迷いの無い行動に目を剥いたのは召喚術教諭であった。

「クソ!まさか貴様ら協会の人間か!?」

彼はネヴァの手から逃れようと駆け出すが、其れを見逃す彼女では無い。すかさず転移門(テイゲ・ネオプ)で回り込み退路を塞ぐ。

「それに答える義理はねェ。大人しく捕まって貰うぜ。」

ネヴァが手を伸ばした時だった。

気温がグッと下がった。

先程までの暖かさが嘘の様に刺す様な寒さが場を支配する。一瞬、その場の全員が驚愕に固まった。

嫌な予感に突き動かされ、私はネヴァに駆け寄り首根っこを掴んで距離を取らせた。


刹那。

視界を埋めつくしたのは刺々しい氷柱の塊だった。

「っぶねェ。助かったわマジで。」

「気ぃつけて下さいね。

てか寒いんですけど、今六月でしたよね?」

そんな会話をしているところにこの場に似つかわしくない様な爽やかで柔和な声が届く。

「あれ、今のが避けられるんだ。これは楽しめそうだ。」

声のする方へ目を向けると歩み寄って来る青年の姿があった。十代半ばから後半辺りだろうか。幼さを残す顔は極薄い青色の髪に半分を覆われ、その瞳は光を反射していおらず、吸い込まれる様な印象すら受けた。

そして何より、只者では無い武人だと分かる振る舞いだった。

隣のネヴァが心底嫌そうに苦々しく顔を歪めている所から察するに有名な人物なのだろうか。

警戒を高めて対話を試みる。

「何処の誰だか知りませんけど退いて頂いても?」

「おや?こんな事に加担しているからてっきり俺の事も知っているのかと思ったよ。」

「知りませんよ。」

「そっかあ、じゃあ名乗っておいてあげるね。

“Warlocks”代行者第七席、葬冰(ライフ)だ。彼を見逃してくれるなら酷い事をしなくて済むんだけど……

どうかな?」

「残念ながら出来ねェ相談だぜ。其奴は連行させて貰う。こっちも仕事なんでな。」

「へぇ、じゃあ楽しませてくれよ!」

彼は光の無い目をギラつかせ、氷の双剣を作り出した。

構える間も無く懐に飛び込んでくる葬冰を紙一重で躱したネヴァは設置したままにしていた転移門へ飛び込み距離をとった。

「こんなの相手にしなきゃならねェとか運悪すぎんだろ!巫山戯んな!」

などと喚きつつも彼女は仕事には極めて真面目らしく連行する隙を伺っている。

そんな彼女を尻目に葬冰は此方に標的を変えて双剣を振り下ろして来る。其れを刀で受け流したが……

「チッ厄介やな。」

なんと当たった箇所から凍り始めた。

すぐさま変化魔術を解く事で事なきを得たが、恐らくあのままにしていたら身体をも凍らされていただろう。

「良いねぇ!良い判断だ。じゃあ、こんなのはどうかな!」

彼は片手を天へ掲げると幾つもの氷塊を展開した。

「…之はちょっと不味いですねぇ。」

右手に持つ杖を構えると同時に氷塊が射出される。

体勢を低くして、一気に駆けだす。

降り頻る氷塊をひらりと避け続け葬冰へと迫る。

彼の注意が右手の杖にある事を確認して、背中に隠し持っていた短刀を左手で抜いて投げつける。

葬冰は僅かに目を見開いたが短刀は避けられてしまい、髪を掠めるのみに終わる。

……筈だったが

「やるじゃないか。」

「ナイスです。先輩。」

短刀は葬冰の右肩を抉っていた。

ネヴァが避けられた短刀を転移門で拾い、別の場所から打ち出したのだ。咄嗟の事で狙いが定まっていなかったのだろう。致命傷にはならなかったがダメージは与えられた。

「…先輩?」

反応の無い彼女を確認すれば、満身創痍と言った様相で寒さに耐えていた。よく見れば先程の氷塊が当たったのだろう、左腕が凍りついている。

驚いて駆け寄ろうとしたところに何かが飛んで来るのを感じて咄嗟に身を引く。其れは凍った短刀だった。

葬冰へと目を向けると

「……マジか。」

刺した方の肩は氷に覆われ、其れが砕けると傷は綺麗さっぱり無くなっていた。

(特定の自然環境で恩恵を得る、その環境を創り出せるって完全に上位精霊の戦い方なんよなぁ…

その上低い気温と冰と来た。

真逆…精霊種の最高位、冰龍精(アデュラリア)に関する何者かか?

何にせよ此処は……)

「降参です。これ以上続けたら凍死しかねへんので。」

両手を挙げてそう言えば葬冰は驚いた様なそして少し残念そうな顔をして溜息を吐いた。

「はぁ、オーケー。君とはもう少し遊びたかったけど降参だって言うならしょうがない。

約束通り彼は引き取らせて貰うよ。」

「どうぞお好きに。先輩は動けませんし、私も動きませんので。」

「そうかい。じゃあまたね。」

彼が召喚術教諭を連れて去って行くと、気温は元に戻り氷も溶けた。しかし、ネヴァは体が冷えきってしまっているらしく動けない様なので、制服の上着を変化魔術で厚手の毛布に変えて肩に掛けてやる。

「大丈夫ですか?先輩。」

「…わりぃ。」

「いえ。此方としては実質追放出来た様なもんやからええんです。其方は?」

「連行までが仕事だからなァ…はぁ……結局お前も誰と繋がってるか分かんねェし。」

「露骨に聞いて来ましたね。まぁ最早隠す必要無くなったんで言いますけども。」

「マジで?」

「まぁ、はい。何を隠そうアシュリー校長ですからね。依頼して来たの。」

「…え?って事はお前、協会側の人間だったの?」

「いえいえ、あくまで個人間の取引ですから。彼の策にのる代わりに入学時の面倒な諸々をやって頂くというね。」

「へ、へぇー。尚のこと何者だって話になるわけだが?

あんだけ精巧な変化魔術とか何処で覚えたんだよ。」

「授業でやってみたら得意やっただけです。

貴女こそ移動系の魔術は制限が掛かるって話はどないなっとるんです。」

「知合いに頼んで解いて貰った。」

「さいですか。それにしても未成年をこき使う組織ってどうなんです?」

「まぁ給料は良いし…。」

「今さっき死にかけましたけどほんまに割に合ってます?」

「……………………まぁ。」

苦々しい顔でたっぷりと間を置き、蚊の鳴くような声で答える彼女の様を見ると流石に同情してしまう。

「…まあ、取り敢えず寮にでも戻って休んだらどうです?」

「……そうするよ。」

「送りましょうか?」

「否、大丈夫だ。転移門(テイゲ・ネオプ)。」

「じゃあお大事に。」

ここで解散する事になった。

ネヴァが転移門でこの場を離れたことを確認して携帯端末を取り出す。

「もしもし、アシュリー殿?」

『やあ、ご苦労じゃったの。神代殿。まさか孫から連絡が来るとは思わなかったが、証拠は十分集まった。すぐにこの学校を追放出来るじゃろう。』

「其れは良かったですね。嗚呼、ノタリアはんには詳しい事情は伏せて貴方への託けのみを頼みましたので御安心を。流石に彼女を巻き込む様な事はしませんから。」

『そうかそうか。兎も角助かったぞ。有難う、ゆっくり休んでおくれ。』

「ええ、そうさせて頂きます。それでは。」

電話を切って帰路に就く。

想定外の戦力に無駄に疲れた気もするが収穫も有ったので良しとしよう。

明日は休日なのだから、彼の言う通りゆっくり休ませて貰おう。

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