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Cross✖Fragments  作者: 弦月雪啼
22/22

fragment.2:Forget-me-not 終

珠霊PM.13:00


ネヴァの転移門で儀式場が有るという酒場の地下への入口まで来た。入口は酒場の外に巧妙に隠されていたが事前に教えられていたので問題は無かった。しかし、ノタリア達が逃げ出した後、隠し直した者が居たという事だろう。石造りの階段を下りながらネヴァに言っておかなければならない事が有った事に気が付いて話し掛けた。

「先輩?私、最低限殺さへんよう気い付けますけど多少やり過ぎても御目溢し頂きたいんですが…ええですよね?」

「お、おう多少は良いけど…お前もしかしてめっちゃ怒ってる?」

引き攣った顔で指摘されてようやく抑えていた感情が漏れていた事に気が付いた。ノタリア達の前では努めて冷静に繕っていたがその姿が無くなって気が抜けてしまったらしい。誰だって友人、家族等の大切な人が傷つけられたなら怒りを覚えるのは必然だろう。私も例外では無いのだ。

「そんな大事な相手なのか、あの少年。」

「…幼馴染みですよ。一つ上の。色々と複雑なんでこれ以上は聞かんといて下さい。」

「オーケー、分かった。」

そう、本当に複雑なのだ。彼の立場も国を出た理由も。しかもその半分以上は我が家のせいなわけで。

合わせる顔が無い、生きていて良かった、またあんな無茶して…。ノタリアから名前が出た時様々な感情が渦巻いていたが、姿を見た時、真っ先に込み上げて来たのは怒りだった。あの場で感情を殺して葬冰を諫めるよう動けた事を褒めて欲しいくらいだ。

階段の先には男が二人立っていた。

「おや、見張りは確り立ててたみたいですね。」

「任せた。手出し無用だろ?」

「おおきに。」

小声でのやり取りだったがどうやら聞こえたらしい。

「何者だ!ってガキじゃねえか。」

「ここから先は立ち入り禁止だぞ。」

振り返った彼等は此方の姿を視認すると構えかけていた杖を下ろして面倒臭いと言わんばかりの対応をとる。嘗められたものだと思いつつ残りの段数を飛び降りた。片方の懐に入り込むと顎を蹴り上げ、よろめいた隙に背後に回り込んで背を蹴りもう片方ぶつける様に飛ばすと二人纏めて壁に打ち付けられて昏倒した様だ。

(全く、肩慣らしにもならんわ。)

そう思いながら後ろを振り向くとネヴァが顔を引き攣らせて怖っと呟いていた。

「早う行きますよ。」

「へいへい。すぐ行きますよっと。」

鉄格子の前を通り抜け、更に下へ続くを下りる。全くと言って良い程に人の気配がしない扉に聞き耳を立ててみるも、何の音もしない。こんな重要な拠点に見張り二人しかいないなんで事はあり得るのだろうか。罠なのではないかと警戒しながら扉を開ける。が…

一つたりとも人影は無かった。

中央の祭壇、隅に有る棚。その全てが見渡せるがらんとした空間が広がっていた。

おかしい。幾ら人員が居ないにしても本当にあの二人しか居ないだなんて。

「お~、流石誘導のプロ。やっぱこの手の事はアイツに頼むのが一番だな。」

「!…成程、彼ですか。と言うか知っていたなら言ってくれても良かったんやないですか?」

(わり)(わり)い。」

大して悪びれもせず口先だけで謝る彼女は知っていたのだろう。此処に人が居ない事を。否、恐らく正確には彼女が頼んでいたのだろう。あれから姿を見せていないキャルムと名乗った男に。別れた地点から真直ぐ拠点へ向かった、つまり彼等が探すまでもなく拠点の場所を知っていたのなら可能な話だ。彼女は討伐依頼が出ているなどと言っていたのだ。十二分に有り得る。

「向こうは心配要らねェよ。こっちの部隊に加えて有志の助っ人までいるからな。」

「さいですか。んじゃ、ちょいと祭壇から離れといて下さいね。」

彼女が十分に下がった事を確認してから祭壇に御札を張り付け魔力を込める。

すると、ドカンと言う轟音を響かせて祭壇は木端微塵に砕け散った。

「おいおい、鎖国が続く神秘の国ってのはもしや修羅の国だったりするのか?」

「はて?何の事やら。」

揶揄う様な質問を軽く受け流し、棚を調べる。経典と思われる本と薬品の入った小瓶が並んでいた。適当な経典を手に取ってパラパラとページを捲っていると、隣で小瓶を押収し始めたネヴァから声が掛かった。

「そういやお前、この教団の何を知ってんだ?あの時は最低限の注意しかしなかったし、教えてくれても良いじゃねえか。」

「…まあ良いでしょう。これで確信も持てましたし。」

経典を投げ渡し、語りだすのは遥か昔の亡国の話。

「今から約1200年前、黄金の楽園と称される、その時代に最も栄えた国が有りました。襲撃を防ぐ為の高い城壁と外敵を滅ぼす守護神。この二つが揃っていたのであの時代ではそう呼ばれるのも必然でした。

…が、その栄華も永くは続かなかった。

守護神_“金色(こんじき)の騎士”と呼ばれた竜_は突如として民を襲い始めたのです。正確には民のみならず周囲全てを破壊していたのですが…

端的に言えば彼は狂ってしまったのです。そうして彼の国は滅びに向かって行きました。しかし、慈悲が掛けられた。他でもない魔術の神、クリオスに。

そうして、その城壁を再利用されたのが…このレヴェリー地区の城壁と言う訳です。

まあ、彼等の子孫が居ても可笑しくはあらへんな。」

「…マジか。……ってお前何者だよ!それホントの話か!?」

綺麗な程の二度見でツッコミを入れる彼女に思わずクスリと笑みが零れる。

「信じるも信じないも貴女次第ですよ。私は唯の歴史好きですから。」

「よく言うぜ。レガリアも知らずによ。」

「また今度教えて下さいな。まあ今はその薬の方が気になりますが。」

「良いぜ。丁度あの場には先生も居たしな。」

(…先生?そんな人居ったんや。)

肯定に続いた言葉を疑問に思っているとネヴァは証拠品を確認し終えたらしい。何処までも便利な術式だなと感心する。棚を丸ごと転移門で移動させた様で先程まで有った筈の棚が無くなっていた。流石に受け取る側に事前連絡はしているだろうがもしも虚空から突然棚が出てきたらたまったものじゃないだろう。

それをやった張本人は何でも無い様に新しく転移門を作っている。その先は喫茶店。どうやら帰りの門らしい。戻るぞ、と呼ぶ彼女の後に続いて門をくぐると、口々にお帰りだの、お疲れ様だのと労いの声が掛けられた。それに応えつつ、この件を一番心配している人物に報告する。祭壇を破壊したため儀式は出来ないという事、頭は潰した上、警察隊が手を回しているため組織的にも壊滅は近いという事を。

「そっか…良かったぁ。」

聞き終えた彼女は力が抜けた様にそう呟いた。

「有難う、ミタマちゃん。本当に有難う。」

ノタリアは泣きそうな表情でそう続けた。

「どういたしまして。何はともあれ丸く収まりそうで良かったです。」

応じた声は自分でも驚く程安堵に満ち溢れていた。

一先ずは一件落着と言ったところだろう。気がかりなのはあの薬品についてと、教団が儀式の方法を何処で知ったか、それと教団に手を貸したルシアという少女の存在くらいだ。

(…否、多いな。まあ薬品についてはネヴァ先輩に聞けば分かるやろけど。)

「これでお開きにしましょか。帰らな心配する人もいはるやろし。」

「だな。心配しなくても王都と港の支部は壊滅済み、この地区の残党はモナー…じゃねェや、キャルムの奴と警察隊、後は有志の連中が追ってるからこっちまで手は回らねェ筈だ。」

ネヴァがそう言うと葬冰とリーゼロッテは二人で帰る様でリーゼロッテは恭しく頭を下げて喫茶店を出て行った。

ノタリアとフレイヤは何時の間にか呼ばれていたアシュリー校長が迎えに来ていた。心配した、無事で良かったと言った言葉の後に続いた厳しくも愛の有るお説教は、私もノタリアの隣で聞く事になった。一緒に怒られてあげると約束してしまったから。その後、三人は自宅に帰るそうなので店先まで見送った。

残っているのはリヒトとその保護者、未だ固く目を閉じている眞詩だ。

ネヴァに薬品の事を聞くなら今しかないだろう。

「先輩、薬品の事なんですけど。」

「ああ、そういや教えるっつったな。…ちょっと良いかい?ホーエンハイム先生。」

彼女が呼んだのはリヒトの保護者だった。彼は無機質とも言える声色で

「…何だい?」

と言って振り返った。

「例のアレ、室長が結構気にしてたんだが…進捗どうだ?」

「嗚呼、すまない。まだ結果は出ていないんだ。随分と特殊な物の様で時間が掛かっているんだ。」

「…あのー、その人研究に没頭し過ぎてぶっ倒れたばっかだからさ、あんま急かさないで欲しいんだけど。」

すかさずリヒトが肩をすくめて割り入って来る。

「!?…マジか。そりゃ悪い事言ったな。アンタ等には善意で協力して貰ってんだ。急ぎっちゃ急ぎだがアンタの体は優先してくれ。」

「否、倒れたのは僕の悪い癖だから気に病まないでくれ。それにこの件の重要性は承知しているつもりだよ。こちらこそ報告が出来なくて悪かったね。」

「すみませんが詳細をお聞きしても?」

そう聞くとシナバーはネヴァに伺うような視線を送った。そして彼女がそれに頷くと彼は口を開いた。

「“鬼胎の水”と呼ばれる摂取した人間に恐怖を植え付ける魔法薬の類だよ。少し前から裏市場に出回って問題になっているらしい。妙なのは魔力は確かに籠っているのに術式を使っていない事かな。」

「古来からの魔女術なら可笑しな話では無いかと。随分古臭いですが素材の相性のみでの魔法薬の精製と言う事でしょう?」

「そりゃあそうだけど…それは効果が全て同じなら言える事なんだよな。」

ネヴァは苦々しい顔で否定した。

「今言ってたのは押収した物の一つだ。他にも悲嘆やら憎悪やら。先生曰く全部成分が同じなんだと。」

「……成程?液体の成分はあくまでもベースに過ぎないにも関わらず術式を使った様子が無いから可笑しいと。」

少し考えて出した結論に二人は頷いた。

さて、どうしたものか。実を言えば心当たりが有る。と言うか私が態々アシュリー()()()()と交渉してまで国外で活動している理由に関係していると思われる。我が国は鎖国状態で物資の情報も行き来が制限されている。その情弱さを利用した国外の組織と公家の一つが手を組んでいるという証拠の文書が発見された事が切っ掛けで此方に来ているのだが…彼等が数年前に無理矢理通してしまった“税”が関係していると推測できるからだ。

問題はこれを教えるか否か。教える場合、必然的に私の地位と立場も明かさなければならなくなる。それが今後どう影響するか分からない為、未知数のリスクを背負う事は出来ないのだ。

少なくとも二人は秩序側には属しているのだろう。しかし、ネヴァは唯の警察隊員ではない。特殊な立場、若しくは正確には警察隊員ですらない可能性がある。

そしてシナバーは完全に未知数だ。

ぐるぐると思考した結果、私が口に出したのは

「興味が有るので協力させて下さい。知識には自信有るんで。」

と言う、あくまで唯の学生としての言葉だった。暫く彼等に協力してみてリスクとリターンを見極めるのが賢明だろう。最も、この提案が受け入れられればの話だが。しかし、

「オーケー。先生も良いよな?」

「構わない、と言うかそれは僕が判断する事じゃないよ。」

意外にもあっさり受け入れられた。まあ、怪しまれる覚悟で何かしら役に立つ事は示してきたのだから、その成果が出たと考えれば妥当か。

「では、宜しくお願いします。」

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