fragment.2:Forget-me-not Ⅵ
リーゼロッテAM.06:54
「あの…何事ですか…?」
私は何も知らないフリをして玄関に顔をだした。如何にも大きな音に驚いただけの様に。
其処に居たのは数人の武装した男性だった。案の定彼等には私の情報は無いらしく先頭の男性が問い掛けて来た。
「嬢ちゃん、こんな所で何してるんだ?」
「私は秘密基地に遊びに来たんです。お兄さん達は?さっきの大きい音はお兄さん達ですか?」
「嬢ちゃん、俺達は乱暴な事はしたくないんだ。正直に言ってくれよ?」
「何の話でしょう?」
「じゃあ聞くが嬢ちゃん、色黒の女と濃い青の髪の男。お前さんと同じ年くらいの奴だ。見てねえか?」
「さあ?私は此処で一人で遊んでいましたので。」
素知らぬフリで答える。見ないフリ、知らないフリは得意分野だから。
相手は元々短気なのか切羽詰まっているのか、苛立ちが顔に出ている。
「本当に知らないのか?こっちに来たって情報が有るんだが。」
「知りません。」
「本当か?俺等にゃあこういう手段の有るんだぜ?」
と武器を見せつけて来る。此処で怯んではいけない、けれど武器を向けられるのなんて勿論初めてで。怖い。怖いけれど恐怖心を押し殺して、しかし怯えたフリをして嘘を吐く。
「し、知らないです。本当に。…あっでも、私、裏口をいつも使っているから、あっちから玄関口を出入りしていたら分からないかも…」
リヒト達が逃げた方と逆方向を指さしながら尻すぼみになって答えると彼等は納得したのか玄関から出て行った。
「…はあ……行ってくれましたかね…?」
足音が遠く聞こえなくなったところで安堵で力が抜けて思わずへたり込んでしまった。
(こんな所で安心している場合では有りませんでしたわ。)
自分の携帯を取り出して覚えておいたノタリアの携帯番号を入力する。何方かが出てくれれば良いのだが。という希望を込めて発信ボタンを押した。
――呼び出し中
――呼び出し中
――呼び出し中
『も、もしもし?』
聞こえて来たのはリヒトの声。彼に渡していたので当然だろう。
「リヒト様、私ですわ。リーゼロッテですの。今、何処にいらっしゃいますの?」
『無事みたいで良かった。えーっと…ここ何処だろ。ごめん、土地勘無くて。』
「見える物で大きな物とかは有りませんか?」
『えーっと……「建物の隙間から、噴水が見え…たよ。中央広場だと思う、から…そこで、合流しよう。」…らしいよ。来れる?』
困っている彼にノタリアが助け舟を出したらしい。声色からして先程より体調はましになっている様だ。
「はい。今から参りますわ。」
『分かった。俺等も行くよ。』
「お気を付けて。」
『そっちもね。』
通話を切って、隠匿のマントを羽織った。そして、裏口から廃屋を出て噴水を目指した。
最も近い通りを道なりに行けば噴水が見えてきた。それと同時にリヒトと彼の肩を借りるノタリアの姿も。
「お二人共!ご無事の様で何よりですわ!」
マントの効果を切って二人に駆け寄った。その時だった。
建物の角から強力な呪いを纏った赤黒い液体が迫ってきた。驚いて咄嗟にマントを脱いで盾にしたがこれは一体…
「視覚を奪ったからと、拙者を欺けると思ったのでござるか?」
敵意の籠った鋭い声と共に建物の影から現れたのは異国の服を着た白髪の少年だった。異様なのは頭や左腕から血が滲んでいる事。そして驚くべき事に彼はノタリア達を背に庇う様に立っているのだ。
(ノタリア様の話とこの態度を合わせると恐らく足止めをしてくれていた方なのでしょう。ただ、どうしてこんなにも私を敵視されているのでしょう?聞き出すしかありませんわね。こんな所で争っている場合ではありませんから。)
「な、何のお話ですの!?どなたかと間違われているのではありませんか?」
「白々しい。つい数刻前に襲撃しておいて…」
「待って、マユキくん。」
臨戦態勢になっている彼を止めたのはノタリアだった。
「…リーゼちゃんは、敵じゃ、ないよ…さっきまで、私達と一緒にいた…から。あと、怪我、手当しよう?」
「…え?」
「それは俺も保証できると思う。多分アンタと別れてすぐ後くらいにあの子が来て一緒に逃げたから。人違いじゃない?」
そう問い掛けられた彼は困惑した様子で私とノタリア達を交互に見た。そして、少しの間考え込むと
「…人違いか……。」
と呟いた後、私に対し
「誠に申し訳ない。拙者の勘違いであった。」
と深く頭を下げた。
「いや、頭を上げて下さい。貴方の怪我を見れば事情は分かります。それに先程視覚が奪われていると仰っていましたからなおの事。ですから、何処か安全な場所で休みながら手当しましょう。」
誤解が解けたのならそれで良い。此方も怪我はしていないし、平気そうに振舞っているが彼は結構な重症だ。彼の目に魔術がかけられているのはこの魔眼で分かっている。まるで見えている様な行動をしているが視覚が奪われているというのも事実だろう。
ただ、一つ問題が浮き上がった。
(声が似ていただけの人違いなら良いのですが…そうでないのなら、意図的に私に変装した者が居るということになりますわね。注意しなければなりませんわ。)
「そうだね。この通りなら、宿、あったと思うし…」
その一言に皆賛同し話が纏まった。
それから移動して地図上では商業エリアと書かれている場所に入った時にはちらほたと人が現れ、賑わい始めていた。宿泊施設が多く有るのは南西のエリアのようなので、そこまで行って安宿を探す。問題は宿屋が開いているか、この時期に予約が埋まっていないかである。そういった意味でも、コスト面でも大きなホテルより素泊まりが出来る小さな民宿の方が都合が良い。
賑わい出した大通りであればそうそう襲われる事は無いだろうという考えは今のところは正しかった様で堂々と歩いていても襲われる事は無かった。
「あそことかどう?」
不意にリヒトが指さしたのは横道に入って少し奥まった所にある小さめの宿屋。大通りから外れてはいるものの、それなりに人通りは有りそうだ。
「良いですわね。入れて貰えるか聞きに参りましょう。」
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12/25 ??AM.08:40
「もしも~し、シュラウドさ~ん?既に流血沙汰になってるみたいだけど大丈夫?」
朝方の薄暗い裏路地に場違いな程明るい声が響く。黒を基調としたまるで喪服の様な服装をした少女が壁にもたれかかって電話をしていた。
『はァ?マジで?お前以外で戦闘してんならガチで一般人なんだが?』
「そんなの私に言われても困るよ~。嗚呼でもこの血痕の主には好きな墓石の形を聞きたいかな。」
『誰にでも聞いてんだろ、お前。』
「そのくらいの出血量って事。今なら特別出血大サービスで50%オフにしても良いくらい!」
『いや分かんねェよ。葬儀屋ジョークか?』
「まあね。それで、一般市民を気に掛けるお優し~い公僕さんはこの報告を聞いてどうするのかな?どうして欲しい?」
『お前教団に殴り込みに行ける?』
「一応ロビンさんの依頼で来てるからね。でも、パーソンさんに伝えた方が早いんじゃない?ほら、あの人の組織が迷惑被ってるって言ってたし。」
子気味良く言葉の応酬をしながら血痕を辿って歩きだす。
『アタシの立場知ってて言ってんのか?マフィアを焚きつける様な事出来るわけねェだろ。』
「でも偶にやってない?」
『やむを得ない場合はな。今回は一般市民が逃げてるから無理。むしろ情報統制してるくらいだよ。』
「え?なんでさ。スピード解決した方が安全でしょ。」
『マフィア連中が随分おかんむりでな。そりゃあもう一人残らず殲滅しそうなくらいには。んでその為には手段を選ばねェ。そんな連中に“教団が求める生贄が逃走中”だなんて知れたら?恰好のエサを捕まえて教団を釣り出す為に使おうとするだろうよ。
アタシ等はな、凶悪犯を捕まえる為だろうと無辜の民を危険に晒すわけにゃいかんのさ。』
「成程ね。つまりは“誰か逃走中の一般市民をマフィアが手を出せない安全な場所に導いてくれないかな”って言う事で良いのかな。」
『頼むわ。アタシもこっちの仕事終わったら行くからさ。』
「りょーかい。じゃあ情報送ってね。」
そう言って電話を切った。請け負ったからには確りと熟そう。それが私の流儀なので。
(それにしても気になる血痕だなぁ。こんなにも死の気配が強いなんて…)
辿っていた血痕は物陰で途切れていた。此処で止血でもしたのだろう。
(さて、早々に手掛かりは途絶えちゃったけど…どうしようかな~)




