fragment.2:Forget-me-not Ⅴ
珠霊AM.07:30
一通りの連絡を終えて少し経った時、廊下をパタパタと走る音が聞こえてきた。こんな時間に此処へ走って来る様な者等一人しか居ないだろう。案の定、息を切らせたフレイヤが走って来る姿が見えて来た。
「お早う御座います。フレイヤはんも早起きですね。」
「うん、お早う。はぁ…ノタは?って…あれ?」
余程心配なのだろう。半ばなだれ込む様な勢いで部屋に入ったフレイヤが目を丸くした。
「居ない、ですよね。一応御手洗とか確認してみたんですけど居らんくて。心配なんで校長にも連絡しとったとこなんです。」
「えっそうなんだ。何処行っちゃったんだろ……あ、おじいちゃんはなんて?」
「通報とかそういった事はしてくれはるみたいです。私達で寮内確認して居らんかったら連絡欲しいって。」
「分かった、探しに行こう。」
フレイヤがよく見る前に無難な嘘で言いくるめ部屋を離れる。この場に居ては不自然さに気がつくのも時間の問題だろうから。二人一部屋とは言え六学年分の個室と食堂などの設備が有る為、寮内を探し回れば時間稼ぎは出来るだろう。寮が終わったら学校敷地内、それから警察に任せる提案をして、どうしても納得して待っていてくれない様なら私がついて行ってメインストリートで聞き込みをしよう。と計画しながら歩いていたが、ぐ~という腹の虫が聞こえた。
「あら、フレイヤはんも朝ご飯は未だやったんですね。」
「う、うん。ノタの様子見てからにしようと思ってたから…」
「私もなんです。食堂探すついでに軽く何か食べましょ。」
「うん。」
当然ノタリアは其処に居なかったので、朝食をとってから寮内を探し始めた。
昼頃までかけて寮内をくまなく探したが一向に見つからず彼女の顔はどんどん曇っていった。
「ノタ…何処行っちゃったの……?」
「…一旦校長先生に連絡しましょうか。」
「…うん。」
と言って彼女はアシュリー校長へ電話を掛け始めた。彼が上手く宥め賺してくれると助かるのだが。
「もしもしおじいちゃん?ノタが、ノタが寮じゃ見つからなくて…!…………うん。
………………うん。…………………………………………うん。分かった。でもちゃんと連絡してね。…うん、じゃあね。」
「ミタマ、おじいちゃんが通報はしたから待っててって…だから、ちょっと待ってよう。」
どうやら上手く言いくるめてくれたらしい。電話を切った彼女は不安げではあるもののそう言った。
「ほなら私の部屋で待ちましょうか。」
「うん。」
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眞詩AM.06:01
ノタリア達のもとへ行こうとしていた最中、足音に気が付いてルートを変えた。
「…ところで、何時まで其所で隠れているつもりでござるか?」
路地に問い掛ければ一人の、10歳くらいだろう紫苑色の髪の少女が姿を現した。
「お〜さっすが!鋭いねぇ。鎖国中の国から逃げ遂せただけの事は有るって感じ〜?」
「何用かは知らぬが拙者は急ぎの用が有る故失礼致…っ!」
突然飛んできた鋭い風を反射で躱す。
「ロビンちゃんがねぇ余計な手を加えてくれちゃったからさ、面白く無くなっちゃったんだよね〜。だから…
あちきとちょっと遊んでくれない?」
(何の話であろうか…?)
身に覚えが無い話に困惑しつつ様子を伺うが、相手はニコニコと笑みを浮かべるばかりで真意は見えない。しかし、確かに分かる事が一つある。
「断る、と言いたいところでござるが…お主が許してくれなぬのだろう。」
そう言い懐の短刀を抜く。
「あっはは!話が早くて助かっちゃう♪」
彼女は杖を翳し無数の魔法陣を展開する。瞬間、流星群が如く星が降って来た。
何とか初撃を避けるも、数を増やし降り続ける其れを避ける事で手一杯で冷汗が流れる。
(…不味い、これ以上増えたら避けきれぬ。近付く事さえ出来れば…否、其れもこの調子では難しい。……仕方ないか。)
左手首の包帯を解き、刃を突き立てた。溢れ出る鮮血は形を成し幾つもの球になると縦横無尽に飛び回り降り注ぐ流星群を破壊する。
「わ〜!すっご〜い♪それが禍血って奴?君、それで何人殺したの〜?」
「っ!…先程から知った様な口を利くがお主、何者でござるか?」
僅かに滲む怒りを噛み殺して、あくまでも冷静に問う。すると彼女はペラペラと愉しそうに話しだした。
「あはは♪怒っちゃった?わっち等【愚者の庭】の情報網って結構広いんだ〜。だから君の国の事だって知ってるの。
ねぇ、国を逐われた大罪人さん?」
「……好きに言うと良い。」
「怖~い♪でも、無傷で逃げられると困っちゃう!」
と笑みを深める。何かをされる前に禍血を飛ばして無力化を試みる。
手応えは有ったが少し遅かった。目の前が眩く光り視界が真っ白に染まる。その隙を突く様に星が放たれる音が聞こえた。咄嗟に避けようと動いたものの、左腕を抉られてしまった。
「わざわざ殺さない様に調整してくれてるの?やっさし~。でも残念、こんなんじゃ私は止められないよ?」
(普通なら立つ事もままならぬ筈でござるが…数を重ねるしか無いか。)
目が見えずとも、耳をすませば相手の位置もその攻撃も周囲の地形も把握は出来る。だから、彼女が飽和攻撃を仕掛けて来た事も分かった。其れを躱し、或いは相殺し続けるも限度が有る。突破口を見出そうと接近を試みたが、行く手を阻む様に星が落ちる。
(しまった…!)
「…ッカハ……っ!」
後ろに跳んで避けるが着地先に降って来た攻撃に対応出来なかった。容易に吹き飛ばされた体は受身も碌に取れず壁に叩き付けられた。
そのことを認識するのに数秒を要したのは頭部を打ったからだろう。
そんな自分の様子を見て満足したのか彼女は攻撃を止めて此方に近づいて来た。そして
「そうだ、良い事を教えてあげる♪実はねぇ、教団がやろうとしてる儀式って君でも成立するんだ~。信じるかは君次第だけど…
頑張って逃げてね?ああ、そうそう視力は2、3時間で戻るだろうから安心して!じゃあね~♪」
と一方的に、心底愉快そうに言ってからスキップする様な軽い足取りで去って行った。
壁を伝って立ち上がり、この場を離れようと歩き出す。先程の戦闘音が聞こえたのか、はたまたあの少女が教えたのか定かではないが複数の足音が向かって来ているのが聞こえたから。
このまま合流してはノタリア達のもとへ敵を連れて行く事になってしまう。この場で迎え撃つか、彼女達とは別方向へ逃げるか。自身の状態を考えれば採れる選択肢は二つに一つだろう。彼等だけなら対処出来るだろうが、援軍を呼ばれてしまう。そうなればその全てを捌き切る事は今の自分には難しい。息を殺して身を隠し、手探りで抉られた左腕に包帯を巻いて止血した。そしてまた歩き出し、裏通りを抜けると大きな噴水が有る広場に出た。幸い時間帯のお陰か人通りは殆ど無く静かだった。其処から続く大通りを進む。
暫く彷徨い歩いていると、遠くから爆発音が聞こえた。
(この方向は…真逆!)
間違いなくノタリア達が逃げた方向だ。そう思うやいなや踵を返して歩調を速めた。
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12/25 とある掲示板サイトにてAM.07:25
【Robin murdersの御茶会議】 全体ルーム
shroud:誰かレヴェリー地区にいない?
clerk:話だけなら聞いてやるよ
die:居るよ~
mourner:残念、王都なう
shroud:@ die お呼びじゃね~~!つい2時間前の書き込みを見てねェと思ったか?
他は?
grave:港だよー
blood:同じく。というか私がお前達に協力を求めたいくらいなんだが。
psalm:はいはーい!お呼びかな?
die:@ shroud あはっ♪
shroud:@ psalm お前か~この中じゃマシか。ちょっと面倒事押し付けて良い?
psalm:@ shroud まあ聞いてあげるよ
shroud:@ psalm じゃあ個人で
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リーゼロッテAM.06:51
「詳しく話すと長くなりますので簡潔に申し上げますわね。私達、とある宗教団体の儀式を阻止したいんですの。それで……」
ミタマと電話をしていると玄関あたりから突然爆発音が聞こえた。
『ちょっと、大丈夫ですか!?』
電話超しでも音が届いたらしく彼女の心配する声が聞こえたが応える余裕は無かった。
「ヤバい!場所バレたっぽい!」
リヒトは焦った様に声をあげる。先程まで冷静だった彼だが、こんな状況に慣れている筈がなかった。ノタリアも指示を出せる体調ではない。
(私も慣れているわけではありません。不安も有る。でも、出来る人が居ないのならやるしかありませんわ。)
「分かっていますわ。貴方とノタリア様が捕まる訳には参りません。少し時間を稼ぎますので彼女を連れて逃げて下さいまし。」
「でも、アンタ戦えんの?」
「私は未だ姿を見られていませんわ。誤魔化しが効きますので御安心を。」
「それってどう言う…」
「良いから早く!」
「わ、分かった!マジ死んだりしないでよ!」
「ええ、また後で合流致しましょう。
ミタマ様、申し訳ございません。余裕が有りませんので失礼致しますわね。」
と電話を切り、携帯を渡したのが合図だった。裏口が有る事は把握していた為、リヒトはノタリアを支えながら其方へ向かう。私は彼等が逃げた方向を確認してから玄関の方に向かった。




