fragment.2:Forget-me-not Ⅳ
リーゼロッテAM.05:30
隠匿のマントで姿を消してクリオス王国へ続く大橋を渡り、人目のつかない場所でマントを脱ぐ。
(さて、此処からどう動きましょうか…上手く入国は出来たものの今現在、彼女が何処にいらっしゃるのか見当もつきませんわ。せめて地図でも有れば良いのですが…)
そう思い街中を歩くが、この時間だ。人も中々居ないし店が開いている筈もない。
仕方がないのでこの魔眼に映る筈の魔力を探す。夢の中で名も知らぬ魔女に“透き通る魔眼”と呼ばれたこの魔眼は魔力やその流れを視覚的に見る事が出来る為、個人を探す事も可能ではある。視界の範囲内を通っていれば、だが。
中々見つけられず途方に暮れかけたところで“OPEN”の文字が目に入った。
二階建てのアンティークな建物の一階部分、“魔道具屋|Tradescantia”と書かれた突出看板の下にこれ見よがしに“OPEN”と書かれたプレートが掛けられていた。なんだか誘導されている様な不自然さを覚えるが他に頼りもなさそうなので入ってみる事にした。
カランカラン
「いらっしゃいませ。どの様な御用事でしょうか。」
ベルが来店を告げると一人の少女が出迎えてくれた。自分よりかは年上だろうが、見た目は少女と言って差し支えない様に見える。真逆彼女が店主なのだろうか。
(何処かで見覚えがあるような…)
「すみません。この辺りの地図はありませんか?」
「ええ、有りますよ。少々お待ち下さい。」
と直ぐに持って来て、広げて見せてくれた。
「現在地は此処、貴女が目指すべきはこの辺りでしょう。」
「…え?」
ペンでマークを付けながら教えてくれる彼女に思わず聞き返した。現在地は有難い、でも目指すべき場所なんて彼女が知る筈がない。私だって分かっていないのだから。
「どうしてそんな事が分かるのですか。」
「ふふっ、何故でしょうね。信用するかは貴女にお任せしますよ。」
「…ありがとうございます。参考にさせて頂きますわ。」
不気味に微笑む彼女を、私は信じてみる事にした。
何故ならこの目に嘘は通用しないから。昔から兄の嘘を、父の嘘を、そしてその裏に有る意図を見抜いて来たこの目が彼女を信じろと言っているから。
「聞きたい事は沢山有りますけれど、今はそれどころではございませんので後程お聞きいたしますわ。お代はおいくらですの?」
「いえ、お代は要りません。元より商品ではありませんので。それより早くお行きなさい。」
「分かりました。それでは失礼致しますわ。」
店を出ると地図で示された裏路地に向けて駆け出した。正直に言えば殆ど根拠の無い賭けだ。けれども、行ってみる価値は有ると思ったのだ。幾つかの路地を抜け、目的地に近づくにつれ激しい物音が聞こえてきた。
(ノタリア様、もしや危険な状況なのでは!?)
そう思うと自然と足が速まる。彼女の無事を祈り走る。
曲がり角を曲がった先に彼女はいた。蹲り肩で息をしていてとても辛そうだ。隣に倒れている少年は生贄の為に誘拐されていた子だろうか。
「ノタリア様、私です。リーゼロッテですわ。移動出来ますか?」
「…リーゼ、ちゃん…?なんで……」
かがんで問いかければ意識はあった様で此方を見た。その表情は困惑と驚愕を示していた。
「私もよく分かっていませんが…今は使える物は使うべきでしょう?さあ、逃げましょう。」
そう手を差し伸べた時だった。
「……ん…?え?何事?」
少年が目を覚ました。起き上がって周囲を見回して困惑している様だ。
「詳しい話は後程。走れますか?」
「えっと…何?に、逃げれば良い?」
「はい。取り敢えず今はそれで良いですわよね?ノタリア様。」
「…ふ、たり、で…はぁ……逃げ、て…も、一人、いるの……」
「えっ?」
「足止め、して、くれてて…」
最優先事項は決まっているが、問題は彼女が納得して動いてくれるかだ。
断続的に鳴る物音は激しさを増している気がする。此処が見つかるのも時間の問題だろう。
「ノタリア様、貴女が捕まってしまっては元も子もありませんわ。足止めをして下さっている方がいらっしゃるのであれば、むしろ我々は一刻も早く此処を離れるべきではありませんこと?」
「よく分かんないけど、逃げるなら早くした方が良いんじゃない?」
「…でも……いや、そう…だね。…はぁ…行こう。」
押し切れたのだろうか。彼女は複雑な表情を浮かべていたが賛同してくれた。呼吸も多少落ち着いてきた様で壁を伝って立ち上がる。
そうとなれば先ずはなるべく遠くへ逃げて身を隠さなければ。
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眞詩AM.05:57
「はぁ…彼女達は無事であろうか。」
目の前には倒れ伏す追手達と小さな血痕。死にはしないだろうが暫くは動けないだろうと判断して出血すらしていない彼等を残し去る。
一先ずこの場は凌いだものの、これで終わる組織とは思えない。
(ノタリア殿が三人でこの路地を離れるよう動いたのは聞こえていた。一旦は合流すべきでござるな。)
そう考えながら左手の包帯を巻き直す。人数が多かった為にやむを得ず使ってしまったが、なるべくこの血を使いたくはないし不用意に他人に触れさせるわけにもいかないからだ。包帯を巻き終えて耳をすませれば彼女達の大まかな現在地は分かった。そちらへ向けて歩き出すが、ふと昨晩の出来事が脳裏に過ぎって溜息を吐く。
(本来この様な場合、船に乗せて貰っている以上は船長殿に一報入れるべきでござろう。彼の人は人が良いからきっと突然消えた拙者を心配されているだろうし、若しかしたら捜索までしてくれているやもしれぬ。…其れは分かっているが、今は……)
この行為は言い訳にしかならないけれど、彼女達が助けを必要としている事も事実だ。
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リーゼロッテAM.06:17
比較的大きな通りを越え見かけた廃屋で身を隠した。
恐らく少年は一切事情を知らないだろうし、私も彼の素性を知らない。説明する時間は必要だろうと思い、比較的綺麗な部屋に腰を下ろした。
「それで、取り敢えず着いて来ちゃったけどどういう事なわけ?」
口を開いたのは怪訝な表情をした少年だった。ノタリアは話すのも辛い様子だったので代わりに私から話をする。
「先ずは自己紹介からですわね。私はリーゼロッテ・ツー=ファウストと申しますの。此方はノタリア・アシュリー様。私達は…どう説明致しましょうか…えーっと……」
たどたどしくも経緯を説明した。
宗教団体が少年を生贄にしようとしている事、その儀式が成功すると世界規模の厄災になる事、儀式にある制約の事。分かる範囲の事をノタリアに捕捉して貰いつつ全てを伝えた。
真剣に話を聞いてくれていた彼は此方が話し終えると顔を明るくしてこう言った。
「オッケー、大体分かった。俺はリヒト・ホーエンハイム。あと6日くらい?よろしく。」
「信じて下さるのですね…!」
「うん、まあなんかこんな嘘つく理由分かんないし。取り合えず、的な?」
「そうですか、ありがとうございます。」
「んで、こっからどうする?ノタリアさんダウンしちゃってるけど。」
「そうですね……」
悩んでいると。
ノタリアの方から音楽が聞こえた。恐らく携帯のコール音だろうが、彼女は出られる状態では無い。
代わりに出る為に彼女の荷物を探り、端末を見てみると画面には“ミタマちゃん”と表示されていた。
(“ミタマ”って……あ!エリジウムパークで助けて下さった方と同名ですわ。珍しいお名前ですし、あの方かも知れません。もしそうなら頼りになるのでは!)
そう期待を込めて通話ボタンを押した。
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12/25 とある掲示板サイトにてAM.05:25
【Robin murdersの御茶会議】 全体ルーム
die:あっれ~?なんかつまんない事になってな~い?
clerk:よお、どうした?
die:折角ドキドキハラハラする逃亡劇だったのに、こんな助け船出しちゃったら台無しじゃん
clerk:お前教団側か?だったら大人しく座って賭けでもしとこうや
die:成立しない賭けなんて愉しくな~い
clerk:いや、“彼奴等の中で誰が一番成果挙げて来るか”とかどうよ
die:えーつまんない。
あ、ボクが勝ち筋を作ってあげれば良いじゃん。それで賭けしよ!ね、愉しそうでしょ?
clerk:余計な事すんなお前!




