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Cross✖Fragments  作者: 弦月雪啼
10/22

fragment.2:Forget-me-not Ⅰ

お兄様いつも嘘を吐く。

「大丈夫だよ。」

「何でもないよ。」

だなんて。

お父様も嘘を吐く。

「お前は私の誇りだ。愛している。」

だなんて。

(わたくし)には、それらが全て嘘だと解っていました。

それでも怖くて動けなかった。

分かっていたのに、知らないフリをしていました。

きっと安寧を選ぶのならば、そのまま知らないフリを続けるのが最善でしょう。大人しく、何も知らない愚かな娘で居続ければ良いのです。

しかし私には、夢で見た彼女がくれた勇気を、忘れる事など出来なかったのです。


12/25 リーゼロッテAM.03:35


永い、永い夢を見ていた。

終末の世界で怖くて震えていた私に勇気をくれた人の夢。

目が覚めて、こんなにも夢の内容をはっきりと覚えている事に驚いた。本当は現実だったのではないかとカレンダーを見ると12月25日。次いで時計を見るとAM.03:35を指していた。

「……12月…25、日?えっ?き、昨日は25日だったはず…そこから夢だった…?」

私は昨日の事は現実として認識している。昨日は家族と謝神祭のパーティをして、お兄様にプレゼントを頂いて……そのプレゼントは何故か枕元にある。

護身用の魔導宝珠。

夢の中でもとてもお世話になった物。

____真逆

非現実的、しかし有り得ない話では無い。


「これはただ過去に戻るだけの魔術では無い。」

「世界がこの悲劇を忘れ去る魔術だ。」

「だからこの悲劇を覚えていられるのは、この悲劇を防ぐ事が出来るのは……」

「彼女だけだ。」


「私は、忘れません。貴女が助けてくれた事、貴女くれた勇気を。決して忘れたり致しませんわ!」


そう、私はあの時彼女にそんな啖呵をきったのだ。

忘れられる事を恐れた彼女が、覚悟を決めたのはその後だった。

夢の記憶を整理すると言うのは少し奇妙な感覚になったが、整理すればする程現実味を帯びてくる。

襲い来る魔物、焼けた街、狂った人々、飛び交う魔術や兵器……助けてくれた彼女。

夢の中の出来事だと認識している“この記憶”はきっと……

未来の記憶だ。

(そうであれば、どうして私が朧気ながら覚えていられるのかは疑問ですわ。…でも、これなら彼女の役に立てるかもしれません!)

疑問は尽きないけれど、不安は多いけれど。

それでも、あの悲劇を防ぐ事が出来るのなら。

彼女の役に立てるのなら――


それから記憶を整理して、決意を胸に、未だ寝静まる家族を起こさぬように家を出たのはAM.04:03の事だった。

プレゼントの魔導宝珠と身を隠す魔道具のマント、貯めていたお小遣いや携帯端末。寒空の下を歩ける様に防寒はしたものの、持って行けるのはこれくらいだった。

(先ずは、“彼女”との合流。話はそれからですわね。)

居場所はおおよそ検討が着いていた。

何故なら彼女自身がレヴェリースート魔法学校の生徒だと教えてくれたからだ。一瞬、今は冬期休暇で帰省しているかもしれないとも思ったが、体調を崩して寮で休んでいたとも言っていたから間違い無い。

(そんな状況で連れ出すのは気が引けますが…せめてあの悲劇を防ぐ方法だけでも教えて頂きませんと。)

レヴェリースート魔法学校への侵入経路を考えながら近場の駅を目指す。国境付近までは電車で移動するからだ。

それから隣国のクリオス王国に入らなければならない。

国境を越えるからには検問をどうするかが問題になってくる。この歳で一人入国するのはきっと止められるだろう。

だが、もたもたしては居られない。

彼女曰く、あの悲劇は25日の昼過ぎには既に起こっていたと言うのだから。

思考も止めず、脚も止めない。

そうして殆ど人の居ない駅に辿り着いたのはAM.04:21。

若干の焦燥に駆られつつ電車を待つこと10分余り、やって来た電車に飛乗る様にして乗車した。


検問にかからず国境を越えるには誰にも見られない事が一番だと考え付いて、お兄様のお部屋から盗んだマント。

確か、名前は隠匿のマント。魔力を篭めれば起動可能と言う代物だ。ただし、音は消せないし実体もあるのでぶつかれば意味が無い。それに……

(効果時間は当然ながら使い手の魔力次第、ですわ。

私の魔力でどれだけもつかは分からない。その後に動く事も考えて起動時間は最小限に抑えませんと。)

駅から国境までのルート、そしてクリオス王国内でどう動くか……


目を閉じれば、思い浮かぶのは褐色の肌に薄い色の髪、ミオソティスの瞳。それが、私の中のヒーローだった。

(ノタリア様、待っていて下さいませ。)

電車を降り、駅を出る頃には日が昇り始めていた。

時刻はAM.05:02。

もう、時間がない。

__________________________

それは永い様で短い記憶。

瞬く間に日常が崩れ落ち、世界が終焉へと転がり落ちた。

そんな世界で希望を求めて歩き続けた記憶。


12/25 ノタリアAM.03:35


ハッと目を覚ましその勢いで体を起こすと、ぐらりと視界が揺らいだ。そしてそのままベットへと逆戻りしてしまう。

「…うぅ……倒れてる、場合…じゃ……はぁ…」

息を整え、再び目を開ける。

先ず確認するべきなのは日にちと時間。

無理に起き上がらずに目だけでカレンダーと時計を見る。

12月25日、AM.03:35。

(良かった、これならまだなんとかなる…!)


蘇るのは地獄を体現した光景。

「うっふふふ、あはははは!!見ていてノタ!!」

お見舞いに来てくれた片割れは突然目の前で笑いながら自死した。

「私は、行けへん。……フレイヤはんの仇は…必ず討ちます。だから、貴女…だけでも、逃げて」

ボロボロの友人になんとか敷地外へ逃がされ、どうしていいか分からないまま、魔物や狂気に堕ちた人々で混沌とした街を彷徨った――そんな光景。

二度とそんな事は起こさない。

その為に記録を消して“戻って”来たのだから。


鉛の様に重い体を起こし、考えるのは自分がするべき事。

(詳しい経緯までは分からないけど、きっかけは誘拐事件だよね。攫われた男の子が生贄としての素質が高かったのが原因で、あの子が儀式に使われなかったら何も起こらないはず…)

そう、事の発端はとある宗教団体の儀式だ。

それにより降り立った“神”と開いてしまった魔界の扉、この二つがあの地獄を作り出したのだ。しかし、肝心の儀式には致命的な欠点が二つある。

一つは星の巡り合わせから今年を逃せば次が数十年先となる事。

もう一つはそもそもとして成功する事が殆ど無い儀式である事。

つまり、今の私がするべき事は……

(あの子の奪還と今年が終わるまで逃げ切る事!)

簡単な事では無い。

ドジだし、運動は苦手だし、魔術だってろくに使えない。

付与魔術で多少強引に体を動かす事しか出来ないのだから、いざ戦うとなったら逃げるしか無い。

(でも……それでもやるしか無いんだ。私にしか出来ないから。)

7日間逃げ切る為には……と考えて大荷物になりそうだったが、そんな事ではあの子を助けるのが難しくなるから結局はお小遣い全額が入った財布と防寒具、携帯端末、魔道具の手袋、杖、小さな救急箱に落ち着いた。

寮を出たのはAM4:15。

ルームメイトが帰省していたのは運が良かった。居たらきっとバレてしまっていただろうから。


「…ケホッケホッ……」

体は怠いし、頭も重い、咳も出る。

(こんな体調で寒空の下を歩くなんて、きっとおじいちゃんやフレイヤには怒られちゃうな……

でも、二人が怒ってくれる未来の為にはここで頑張るしか無いんだ。)

私は重い体を半ば引き摺りながらとある場所を目指していた。「教団」の祭儀場。

何時、彼が誘拐されたかは分からないが、早い時間からそこで張っていれば彼らは嫌でもやってくるはずだ。

儀式を行う場所に生贄を連れていかないはずがないのだから。大丈夫、場所はちゃんと覚えてる。

メインストリートから裏路地に入ってすぐの道を左に、四件目の酒場。その地下室。入口は外に有った筈。

記憶を頼りに地図を思い浮かべてひたすら歩く。

「はぁ…はぁ……ケホッケホッ、っうぅ………」

(少しでも気を抜いたら倒れちゃいそう…ダメだ。これじゃ……)

「……“付与魔術・力エンチャントストレングス”…!」

焼け石に水かもしれないけれど、こうするしか方法がない。少しでも速く、少しでも長く動くためには。


そうして歩き続けてどれだけ時間が経ったのだろうか。

件の裏路地辺りに着いた頃には、空が白み始めていた。

時刻を確認すればAM.5:21。

__________________________

??


「見つけましたよ。君は時間遡行が出来るのでしょう。それで()()()生き残ったのですから。」

「ふえ!?びっくりした。ーーーさんか。そうですよ。でもその時は貴女のお陰でもあったけど…こんな時にどうしたんですか?」

「僕を、過去に送る事は可能ですか?」

「…なるほど!まだ諦めてないってことですね!できなくはないですけど…私が一緒じゃなきゃダメなんです。そうしたら私、動けなくなっちゃうので……」

「そうですか。解りました。戻った後の君の事は僕が何とかしましょう。」

「ほんと?じゃあ一緒に戻りましょう。」

「ええ、出来る事は全てやらなければ。少なくとも、彼女だけに押し付けるわけにはいきませんから。」

「何日まで戻れば良いです?」

「12月24日までお願いします。」

「分かりました!じゃあ、せーの……時間遡行(ティード・リアサ)!」

それは烈火の中、世界の記録が消えるほんの数刻前の事だった。

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