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北空最前線  作者: ワンステップバス
第二章 日本海軍
7/8

第六話 姉妹対決

前回のあらすじ:講堂での紹介やら、幹部の紹介を終え、基地司令室でゴロゴロしてると七海が入って来た。七海は凪に飛電を見せる。

その生き生きした様子に凪は嬉しく思った。

 2月13日… 14:22… 蒼龍飛行甲板上…  

 これから七海との模擬戦闘。

 空母からの発艦初挑戦。七海曰く『発艦より着艦の方が何千倍も難しい』らしい。


 キィィィィィィン…


「よろしくね、羽賀(はが)大尉」


「えぇ。宜しくお願いします」


 私が乗っている機体は複座型の飛電。

 後部席に座っているのは、発着艦サポートしてくれる羽賀大尉。

 七海の部下。


 《隼隊、発艦準備良いか》


 《隼1、準備ヨシ》


「隼…何だっけ、大尉」


「隼11ですね」


「隼11、準備完了」


 いつもはFogとか、Hawkとかの英名を使ってるから新鮮。


 《発艦始めェ!》


 号令と同時にカタパルトが作動し、機体が激しく動き出す。

 七海の機と同時に飛び立つ。


「!!!」


 つい1秒前までは甲板上だったのにもう海の上。


「中佐。機体を水平に保ってください」


「O、OK」


 大尉の進言通り機体を水平に保つ。

 千歳でやった訓練でも同じ事を言っていた。


「いいですね。流石です中佐」


「ありがとね、大尉」


「いえいえ」


 《隼1、11。高度制限を解除。予定の位置へ》


 《隼1、了解》


「隼11、了解」


 七海の機がかなりの角度で上昇して行く。

 私もそれに追従する。


「大尉。七海はどう?」


「そうですね~。まだまだ余力がある感じですかね」


「と、言うと?」


「遊ばれてる…と言いますか。我々は追いつくだけでも精一杯なのに、中佐は…」


「ふーん」


 追いつくだけでも精一杯…か。


「私は追いつけるかな」


「それはご自分の手で確かめてみればどうです?」


「それもそうだね」



 数分後…

 私と七海の機体は何のトラブルも無く予定空域に到達した。


 《隼1、準備良いか》


 《隼1、準備ヨシ》


 《隼11、準備良いか》


「隼11。準備ヨシ!」


 いよいよ七海との1対1。

 これを楽しみにココに来たと言っても過言じゃない。


 《了解。では、状況開始》


『状況開始』の号令と同時に七海がコブラを仕掛けて来た。

 飛電ってコブラ出来るんだ…。


「って!」


 避けないと!

 機体を右に急旋回、七海を後ろから剥がす。

 七海も追従してくる。


「よくコブラを決めた後に急旋回出来ますね…隊長」


「そもそもコブラが出来る事自体ビックリしたんだけど」


「いつもはあんな事しないんですよね。隊長」


「そーなの?」


「はい」


 こうやって話している間も、七海の後ろを取る為に必死に操縦桿を操作している。

 こんなに苦戦した相手は初めて。

 葵でもこんなに苦戦した事は無かった。


「ねぇ、七海っていつもこんな感じなの?」


「いえ…いつもはもっと…優しいですよ…それでもキツいですけど」


 これが七海の本気?


「………」


「大尉?」


「隊長…まだまだ余裕があるように見えます…」


「え?」


 嘘。

 これでも本気じゃないって言うの!?


「あ、あくまで推測ですがね…」


 初めて七海に対して恐怖を感じた。

 一体誰に訓練して貰ったらこうなるの?

 きっと教官はただ物じゃない。



 数十分後…

 まだ決着はつかない。

 これまで七海の後ろを取れた事は無い。

 そしてようやく後ろを取れた。


「よし、さっさと墜として…!」


 七海の機体が凄い勢いで反転して行った。

 私も追従しないと。


「良くあんな急旋回が出来ま――」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「あれ?そんなに驚く?」


「いきなりインメルマンターンしないでくださいよ!」


「え?ご、ごめん」


 インメルマンターンは機体を背面飛行させ、背面飛行に至った後に機体を水平に戻すと言う機動。

 一言で言うと、縦向きにUターンする事。


「と、とにかく!後ろ取れたからさっさとロックオンして墜とすよ!」


「そ、そうですね」


 そう言っていると、七海は急降下して雲の中に消えて行った。

 当然、私も追従する。


「七海は墜落させる気かな」


「これは模擬空戦ですよ。操縦ミスを誘発させるはずが…」


「七海ならやりそう」


「ま、まさか…」


 七海を追いかけて降下を続けていると、遂に海上が見えて来た。

 七海はまだ降下を続けている。

 降下中でも当然七海は回避機動を取っている。


「そろそろ高度上げないと七海、墜ちちゃうよ…?」


「大丈夫ですよ。隊長ならそんなヘマはしませんよ」


「ホント?」


「はい。本当です。隊長は超低空飛行が得意な人ですから」


「そうなんだ」


 本当、一体誰に教えて貰ったのだろう。

 空戦が終わったら聞いてみよう。


 そうこうしていると、七海が海面スレスレを飛び始めた。

 私はそんな低くは飛べないので少し上から追いかける事にした。


「中佐、ロックオンしないんですか?」


「いや…もっと七海の飛び方を見たいなーって…」


「そ、そうですか」


 初めて見た七海の飛び方。

 これまでこんな飛び方をする人は見た事が無い。


 七海をじっと見つめていると、七海の機体が急上昇し始めた。ほぼ90度。

 私も操縦桿を引き、七海より少し緩い角度で上昇する。

 そして、また雲の上へ到達する。


「中佐」


「?」


「私はこんなに長い戦闘を経験した事がありません」


「そっか」


「それに…」


「それに?」


「こんな映画みたいな派手な戦闘。私は初めてです」


「うん。私も初めて」


 葵との空戦でもこんな機動はしなかった。


「それにしても…」


「?」


「中佐って、隊長と姉妹ですよね?」


「うん。そうだけど?」


「失礼を承知で申し上げるのですが……」


「うん」


「…そ、その。あんまり…似てない…ですよね」


 私と七海は姉妹と言うにはあまりにも似ていない。

 顔付きも、体格も、身長も、何もかもが似ていない。

 でも、七海は私の妹。

 大切な妹。


「伊吹と摩耶みたいに似てる方が少数派だよ」


「そ、そうなんですね」



 数分後…

 七海とこれまで経験した事の無いドッグファイトを繰り広げた。

 その結果、後ろを取られてしまった。

 何とかして後ろを取り返さないと。


 ピッ…ピッ…


 ロックオンされた…!

 回避しないと…!


「あっ…!」


[撃墜]


 撃墜されてしまった。

 七海の方が一枚上手だった。


「やられちゃった」


「隊長に40分も粘ったのです。上出来ですよ」


「そう?」


「えぇ。普段の我々じゃ10分も経たずに墜とされてしまいます」


「そうなの?」


「えぇ。姉妹揃って天性の戦闘機乗りですよ」


「そ、そっか」


 ちょっと嬉しい。


 《隼1・隼11、状況終了。帰投セヨ》


「了解。隼11、帰投する」


 《隼1ッ、了解!帰投する♪》


 七海は私に勝って嬉しそうだ。


「ここまで粘れる人を見つけて嬉しいんですかね?」


「私に勝って嬉しいのかもよ?」


「あ~。それもあり得ますね」


 七海は昔から私にだけは負けず嫌い。

 だから、あんなに嬉しいのかもしれない。


「さ、蒼龍に戻ろ」


「はい。帰るまでが演習ですからね」



 数分後… 空母蒼龍後方…


 キィィィィィィン…


「500、400、300…」


 大尉の距離報告と共に甲板がどんどん近づいて来る。

 いざと言う時は大尉が何とか墜落しない様にしてくれる手筈。

 だけど、そんな事はさせない。

 訓練は沢山した。

 その腕を信じて、蒼龍に着艦する。

 ただ、それだけだ!


「よしっ……」


「中佐なら大丈夫です。着艦出来ますよ」


「うん…!」


 私は操縦桿を更に強く握りしめる。


「………!!」


 キィィッ!


 甲板に車輪が触れるとほぼ同時に、機体が勢いよく停止した。

 無事にワイヤーに引っ掛けられた様だ。


「中佐、演習、お疲れ様です」


「うん。大尉もお疲れ様」



 降機後… 司令官室…

 機体から降りて、着替えた後、すぐに伊吹の部屋に向かった。

 演習中に浮かんだ疑問をぶつける為だ。


「ねぇ、七海の教官は誰?」


「あぁ、一航戦の司令」


「名前は?」


「榊原 大樹中将。ボクもあの人に教わった」


「そんなに凄い人なの?」


「……あぁ…そうだね…うーん」


 伊吹は回答にだいぶ悩んでいる様だ。


「…普通のパイロットからしたら凄いだろうけど、ボクからしたらあんまりかな」


「え?」


 驚きの返答が帰って来た。


「基礎とかを教え込んだのはあの人。だけど、応用を叩きこんだのは違う」


「誰?」


「……ボク?」


 伊吹は首を傾げながらそう言った。


「伊吹なの?」


「…分かんない」


「!?」


 また驚きの返答が帰って来た。

 分からない!?

 一体どういう事だろう。


「なんか、勝手に成長して行った気がする」


「勝手に?」


「そう。勝手に。誰も教えず、自分だけで」


「本当?」


「分かんない。でも、ボクにはそう見えた」


 自分だけで…あそこまで?

 にわかには信じられない。


「もしかしたらボクの動きを元にしてやってるのかもしれないけど…」


 勝手に成長したのはともかく、伊吹が元になってるのは間違いなさそう。

 …となると、七海が本気で対等に渡り合える相手って私と伊吹だけ…?


「あっそうだ」


 私はもう一つの疑問をぶつける。


「超低空飛行は誰に教わったの?」


「ボク」


 さっきまでとは打って変わって即答だった。

 超低空飛行は伊吹に教わったのか。


 こうして伊吹の話を聞いてると、伊吹の飛び方も見たくなって来た。

 でも、今はパイロットを退いた身。

 それはきっと難しい。


「ねぇ、ボクが飛んでる所見たくなったでしょ?」


「え?何でわかったの?」


「顔に書いてある。見たいなーって」


「そ、そっか」


 そこまで顔に出ていた様だ。


「でも難しいかな。機体もほぼ無いような物だし」


「だよね」


 何かが引っかかる。

『無い』と断言しなかった。

 と言う事は、機体はあるけど何かがあって操縦出来ないって事かな。

 機体…何だろう。二式戦かな?いや、一式戦かもしれない。


「それで、七海との空戦はどうだった?ボクはそれが聞きたい」


「今までに無い程興奮したよ。あんな空戦、私は初めて」


「そっかそっか。それは良かった」


 伊吹は嬉しそうに答える。


「大尉もビックリしてたよ。あんな空戦は初めてだって」


「だろうね。七海、凪と空戦するって聞いて張り切ってた物」


「そっか」


「それに、久しぶりに本気でぶつかれたんだ。それも原因の1つだろう」


 本気……やっぱりそうだったんだ。

 飛行隊の隊員には手加減をしていた。でも私には手加減をしなかった。


「…なんで、手加減しなかったのかな」


「凪が相手だったからじゃない?」


「…やっぱり?」


「凪もそう思うよね」


 私に絶対勝ちたいから、手加減をしなかった。

 やっぱり、そうなのだろう。


 コンコンコン


「箕面一等兵。入ります」


「はーい」


 ガチャッ


「司令、艦橋で副司令がお呼びです」


「OK、今行くよ」


 伊吹はベットから立ち上がり、ドアへと向かう。

 髪は結ばれておらず、腰まである黒髪がなびく。


「ゆっくりしてていいよ、好きに使って」


 そう言い残して、伊吹は艦橋へ向かった。


 バタン


 扉が閉まり、司令官室には私一人となった。


 私は部屋を見回し、模型を見つけた。

 戦闘機のプラモデルの様だ。

 見た感じ、一式戦みたい。日の丸も付いてるし、きっとそうだ。

 灰色の塗装。洋上塗装じゃない。


「…………」(スンスン)


 私はベットにある掛け布団の匂いを嗅ぐ。


「………何だろう、この匂い」


 何処かで嗅いだ事のある匂い。

 でも思い出せない。

 何処だっけ…えーっと、何処で…


「…………あっ!」


 思い出した。夜だ。夜の匂いだ。

 夜、特に深夜。外を出歩く時、よくこの匂いがする。


「…………」(スンスン)


 また掛け布団の匂いを嗅ぐ。

 妙に中毒性がある。


「…なんか懐かしいな」


 昔の七海を思い出す。


「………七海」


 懐かしい。

 よく、一緒に勉強したなぁ。


「…………」


 …もっと、一緒に色々したかったな。

 でも、今となればそれは伊吹の役割。

 伊吹の方がお金も、余裕もある。

 ――何より、七海がそれを望んでいるのだから。


 私は七海が幸せになってくれればそれで良い。

 私のそばに居なくても良い。

 近くに居なくても、私の妹である事実は変わらないのだから。

お読みいただき、ありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!


【ご案内】

演習中、艦隊では…

【パイロット目指してたら艦隊司令にされた 第四十八話】

https://ncode.syosetu.com/n4473hq/52/

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