第三話 派遣のお話
前回のあらすじ:千歳基地の異常な人事異動に戸惑う凪と葵。
異動は各所で行われており、もしかしたら自分達も異動の対象かもしれないと言う疑問を持っていた……
2月4日… 19:11… 千歳基地…
「隊長!聞きましたよ!」
トイレを出るなり、長津田大尉が駆け寄って来た。
「え?」
「二航戦!行くんでしょう!?」
「えっ、あっ、うん。そうだね」
私は二航戦に派遣される事になった。
「な、なんだかそんなに嬉しそうじゃない気が…」
「そんな事無いよ」
「嬉しいんですね?」
「勿論!」
勿論、嬉しい。嫌なはずがない。
その理由は、ただ1つ。
大好きな妹である七海が配属されているから。
「その間、飛行隊を頼んだよ」
「分かってます。隊長が不在の間、しっかり副長を務めますので、安心して呉へ行って下さい」
「大尉は頼りになるね~」
「そ、それ程でも……あっ」
「?大尉どうしたの?」
「隊長が最近海軍機の訓練をしてた理由がようやく分かりましたよ」
「発着艦はやってないけどね」
流石に発着艦訓練は出来ない。
でも、呉に行けばそれが出来る。
「それで、F15とどっちが扱いやすいですか?」
「F15」
扱い慣れていない海軍機よりも扱い慣れたF15の方が扱いやすいに決まってる。
「じゃ、私は帰るから。後の事頼んだよ」
「はい、お任せください!」
大尉に任せれば、私が居なくても問題無さそう。
私は安心して家路についた。
22:18… 北23条東… 凪自宅…
家に帰って来た。
お風呂とご飯を済ませて、荷造りをする。
2月中旬って言われてたけど、予定が繰り上がったらしい。
「えーっと…2週間だから…沢山持っていかなきゃ…」
この為だけに新しいスーツケースも買っちゃった。
「服は洗濯して着回しすればいいから…4着位でいいかな」
パジャマ2着、通勤用の服2着。ほとんど洋上で過ごす事になると思うし、これだけで十分かな。
そう言えば、二航戦ってこの前の屋久島沖海戦でボロボロになってた様な…。
でも、空母の修理は終わってるでしょ。
「陸地に寝泊まりする事になったら……やっぱり官舎かな」
官舎は凄く古臭いらしい。
コバエが湧いて、床が腐っているとかなんとか。
……え?
「…ホテルに泊まろう。絶対にホテルに泊まろう」
私は絶対に広島のホテルに泊まることを決意した。
翌日… 18:28… 新千歳空港…
私は今、広島行きの搭乗開始を待っている。
旅客機なんて久しぶりだから、保安検査場で慌ててしまった。
でも、後は乗るだけ。
ピンポンパンポーン…
<ANAから、広島へご出発のお客様にご案内いたします>
「!」
<ANA1272便。定刻18時55分発、広島行きをご利用のお客様は只今より搭乗口7番から………>
無機質な機械音声が広島行きの搭乗口を知らせる。
予定されていた通り、7番から乗れる様だ。
私は立ち上がって、搭乗口の近くまで行く。
[Grop2搭乗中]
搭乗口にはそう書かれた看板が置かれていた。
私はGrop5。一番最後。通路側の座席だから。
「旅客機なんて何年ぶりかな…」
そう零すと、看板の紙が貼り替えられた。
[Grop3搭乗中]
張り替えられると同時に、スタッフさんがGrop3の搭乗開始を告げる。
ゾロゾロと人が改札を抜けて機内へと吸い込まれて行く。
その大多数はスーツを着ていた。
きっと、ビジネスマンなのだろう。
搭乗開始までちょっと暇だから、少し外を覗いてみた。
あれが、今から乗る機体。
ボーイング738。737-800とも言うらしい。
いつもは基地から飛び立つのを眺めているだけだけど、今日は違う。
〈……ただいまよりGrop4番のお客様をご案内致します……>
Grop4、後少しで搭乗開始だ。
私は窓から離れて、搭乗口の近くに戻る。
人気は少なくなっていた。
皆、機内に吸い込まれて行った。
〈大変お待たせいたしました。広島行き1272便はGrop1から5番まで、皆様ご搭乗ください〉
ようやく搭乗開始だ。
私はスマホの画面に搭乗用QRコードを表示させる。
これをかざすだけで、全ての改札機を通過できる。
わざわざ発券機で発券する必要も無い。
「私が知らない内に、色々進化してるね」
改札を行う列に並ぶ。
私の前にも後ろにも沢山の人が並んでいる。
しかし、前のGroupよりは少ない。
「6H…」
自分の座席位置を今一度確認する。
6H。前から4つ目の座席。
ようやく私の番。
搭乗開始の案内から15分位経った気がする。
改札機にQRコードをかざす。
ビロン!
何ともいえない音を立てて改札が開く。
改札を抜けて、ボーディングブリッジを歩く。
丸い窓も相まって、まるで宇宙船みたい。
「雨に濡れなくて良いね、コレ」
戦闘機に乗る時はいつもラダーを使って乗り降りする。
格納庫で乗り込む時は良いんだけど、屋外の時は雨に濡れたり、雪がついたりして大変。
機内…
「いらっしゃいませ、こんばんは」
機内に入ると、CAさんが丁寧な挨拶をしてくれた。ちょっと嬉しい。
「6H…6H…あ、ココはプレミアムクラスなのね…」
前の4席はプレミアムクラスの座席。
私もいつかは乗ってみたいなぁ。
プレミアムクラスを抜けて2列目。
左側の座席。
「あった、6H」
座席に座り、鞄を足元に置く。
通路を見てみると、まだまだ人が流れ込んで来る。
「時間は…」
腕時計で時間を確認する。
[18:49]
後数分で出発時刻。
この調子だったら、定刻に出発出来そうだ。
「機内モードにしとかないと…」
スマホを機内モードに変える。
危く忘れる所だった。
〈皆様、只今ドアが閉まりました。皆様が指定されている席に着席している事を確認して出発致します。また、携帯電話などの電波を発する機器は………〉
機内モードヨシ!
〈皆様、こんばんは。スターアライアンスメンバーANA、1271便。広島行きをご利用頂きまして、ありがとうございます〉
〈この飛行機は、ANAとスターアライアンスパートナーのコードシェア便でございます〉
コードシェア…?スターアライアンス…?何それ…?
私の知らない単語がどんどん飛び込んで来る。
私は戦闘機や爆撃機の事は良く知ってるけど、旅客機の機種とか、航空会社の事は全く知らない。
〈今日この便の機長は大山。チーフパーサーは時乃でございます〉
時乃…珍しい名前。
〈客室には9名の客室乗務員が乗務しております。御用の際には遠慮なくお知らせください〉
〈後程この飛行機の非常用設備についてご案内します〉
英語放送が始まった。
ふと窓の方を見てみると、既に機体は動き出していた。
今はタキシング中の様だ。
数分後……
非常用設備の案内が終わった。
映像と音声が更新されていた。
ポーン ポーン
〈皆様、まもなく離陸いたします。シートベルトをもう一度お確かめください〉
離陸する様だ。
今回は…19R。一番近い滑走路から離陸する様だ。
「あっ」
ターミナルビルの向こう側に、赤と緑の点が2つづつ見えた。
きっとスクランブルで飛び立っていったのだろう。
キィィィィィィィィン…!
離陸し始めた。
あぁ、自分で操縦しない事がこんなに楽なんて。
その上、映画やドラマを見れて、飲み物まで飲める。
…戦闘機って結構過酷かも…。
広島まで約2時間。
いつもとは違う空の旅を楽しもう。
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