表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北空最前線  作者: ワンステップバス
第一章 北の防人
2/8

第一話 正月スクランブル

前回のあらすじ:札幌市内から基地までやって来た凪。

世間は正月の真っ最中。そんな中、彼女はアラート待機所へと籠る……

 2023年1月3日… 13:21… 千歳基地… アラート待機所…


「雪、積もってるね」


「うん、積もってるね」


「…見慣れたね」


「ね~」


 現在、私はスクランブル待機中。


「世間はまだまだお正月ムーブだよね」


「そんな中俺らは待機所で缶詰状態…もうちょっと実家に居たかったです…」


 そう(こぼ)すのは整備員の月島二等兵曹。


「私も居たかった…実家で年越し蕎麦食べて~お雑煮食べたらすぐここ!」


「相変わらず中佐は食べる事ばっかりですねぇ…」


「初詣には行ったもん」


「…何お願いしました?」


「空軍の予算がもっと増えますように―って」


「増えた予算で何をして欲しいですか…?」


「ご飯の量をもっと増やして欲しいなーって」


「…中佐らしいですね…ははは…」


 軍隊のご飯って多いイメージがあったけど、全然そんな事無かった。

 むしろちょっと少ない位。

 皆は『多い』『多い』って言ってるけど…。


「凪ちゃんって沢山食べてるのに太らないよね~」(ツンツン)


「お(なか)ツンツンしないでよ~」


 スクランブルが無い時はこうしてゆったりしている。

 基本的にはレーダーで国籍不明機を捕捉し、防空識別圏に入る時間を割り出して、それに合わせて準備が行われる。

 でも、たまにレーダーに捕捉されない機体がある。

 いきなりレーダーの領空付近に出てくる機体。

 予告も無く、いきなり告げられて、ここから格納庫に走らないといけない。


「ホットスクランブル!」


 ウウウウウウウウウウ…


 スクランブル発進を知らせるサイレンが響く。

 サイレンが鳴ると同時に、私と葵。それと整備員たちが一斉に格納庫に向かって駆け出す。

 多分、寝てても駆け出すんじゃないかな?

 私にとっては起床ラッパよりも、こっちを鳴らされる方が嫌。


 格納庫…

 格納庫には2機のF-15Jが駐機されている。

 爆装もバッチリの状態で。

 私はハシゴを駆け上がって機体に飛び乗る。

 機体に乗り込むのを確認した整備員がハシゴを外す。

 そして、キャノピーを閉める。

 エンジンも既に付いていて、格納庫の扉も既に開いている。

 全ての作業が同時進行で行われる。

 発進準備完了!


 キィィィィィン…


 誘導員のハンドサインに従って格納庫を出る。


[Fog02、こちら千歳タワー。誘導路W-7を経由し滑走路36Lへタキシングせよ]


「Fog02、了解。誘導路W-7を経由して滑走路36Lへタキシングする」


 キィィィィィン…


 W-7誘導路を通って滑走路へ向かう。

 キャノピーに雪が付いたり、剥がれたりしている。


[Fog02、滑走路36Lからの離陸を許可する。風は方位021から2knot]


「Fog02、了解。滑走路36Lより離陸する」


 離陸許可が出た。

 まだ誘導路だけど、これで滑走路に入ったらすぐ離陸できる。


AZUR(アズール)、準備良い?」


[勿論]


AZUR(アズール)』は葵のTACネーム。

 戦闘機どおしの通信はほとんどTACネームを使用する。


 キィィィィン…


 滑走路36Lに入る。

 滑走路には雪がほんの少しだけ積もっていた。

 滑走路の端っこじゃなくて、少し先の所で停止。

 葵の機体は私の少し後ろで停止。

 離陸準備完了!


 私はスロットルを操作して出力を上げる。

 そして、出力を上げると同時にアフターバーナーを炊く。

 普通に加速するより加速が早い。


 キィィィィィン…!!!!


 操縦桿を引いて機体を上げる。


「上がっておいで!」


[OK!]


 後ろを見てみると、葵の機体が離陸していた。

 このスクランブル発進も誰かに撮られてるのかな。

 最近はカメラを構えている人が多いから…。


[Fog02、ディパーチャー管制にコンタクトせよ]


「Fog02、了解。ディパーチャー管制にコンタクトする」


 周波数を千歳ディパーチャー管制に合わせる。


「千歳ディパーチャー。こちらFog02。現在高度2000ftを通過、高度20000ftへ上昇中」


[Fog02、こちら千歳ディパーチャー。レーダーで捕捉した。方位そのまま。フライトレベル300まで上昇せよ]


「Fog02、了解。方位そのまま。フライトレベル300まで上昇する」


 

オホーツク海上空…

 そろそろ見えてくるはずだけど…。


[Fog02、目標は前方。方位288。捕捉出来るか?]


「捕捉出来る」


 飛んでいたのはロシア軍の機体では無かった。

 …プライベートジェットの様だ。


[プライベートジェットじゃん]


「G650かな?まぁ、いつもの位置に付けよう」


[了解]


 私は機体をプライベートジェットの左前方に付けた。

 葵は右後方に付ける。

 …これがいつも通りって何か嫌だな。


「こちらFog02、位置に着いた」


[機種、国籍を報告せよ]


「国籍…ロシア。機種、ガルフストリームG650」


[了解。通告を実施せよ]


「了解。通告を実施する」


 通告を実施する。従ってくれたら良いのだけど。

 機体を左右に揺らし、航空灯をとにかく点滅させる。

 …従ってくれるかな?


「通告1回実施。行動に変化なし」


[了解。再度通告を実施せよ。領空まで6マイル]


 もう1度通告を行う。

 再度機体を左右に揺らして、航空灯を点滅させる。

 このまま領空に入りそうな気がする。


「通告2回実施。行動に変化は見られない」


[了解。再度通告を……目標、領空に侵入。領空侵犯機と認められた。警告を実施]


「了解。警告を実施」


 〈ロシア機に告げる。ロシア機に告げる。こちらは日本空軍である。貴機は日本の領空に侵入した。直ちに領空から退去せよ。さもなければ、撃墜も辞さない〉


 まずは日本語で警告。次に英語。その次にロシア語。

 警告は国際緊急周波数の121.500MHzと234.0000MHzで行われる。

 まずは121.500Mhzから。

 民間機…民間機かぁ、軍用機よりは扱いやすいのかな。


[そんな固てぇ事言うなよ!]


「!?今の誰!?」


[わ、私じゃないよ!]


[Fog02、DCでもない]


「と言う事は……」


「アイツか!」 [[アイツか!]]


 全員ハモった。DCもハモった。

 ってか日本語!?ロシア機だよね!?どうなってんの!?


[領空とかさ~どーでもいいじゃん?正月なんだから~]


 何コイツ!今すぐ撃ち落としたいんだけど!!!

 あまりにも舐め腐った態度に操縦桿を持つ手が震えていた。


「AZUR AZUR!」


[ん?]


「撃ち落として良いよね?」


[待って待って!これでも民間機だよ!]


「だって~!」


 と、とにかく。これで警告は日本語だけで良くなったんだ。


[Fog02、さ、再度警告を実施する]


「りょ、了解…]


 〈ロシア機に告げる。ロシア機に告げる。こちらは日本空軍である。貴機は日本の領空に侵入した。直ちに領空から退去せよ。さもなければ、撃墜も辞さない〉


「警告を実施…行動に変化は無い…」


[りょ、了解…。警告射撃を実施せよ…]


「Fog02……了解……」


[OK、警告射撃だね]


「AZUR!当てても良いよ!」


[良くない!当てちゃ駄目!まだ警告射撃!]


「チェッ」


[もう…。じゃ、やるよ]


「OK」


[Fog02、警告射撃を実施する]


 ダダダダダッ…ダダダダダッ…ダダダダダッ…ダダダダダッ…。


 G650の右側を20mm機関砲の弾が霞める。

 こ、これで流石のアイツらでも戻るでしょ!

 …コイツ強制着陸させたく無い…。

 むしろ今すぐエンジントラブルか何かで墜落して欲しい。

 アイツ、ホントにパイロット?

 信じらんないんだけど。


[オイオイ、冗談通じねぇ奴だな~]


 待って、警告射撃されてもこんなんなの!?


[け、警告射撃1回実施…。行動に変化無し…]


[了解。再度警告射撃を実施せよ]


[了解。Fog02、再度警告射撃を実施する]


 ダダダダダッ…ダダダダダッ…ダダダダダッ…ダダダダダッ…。


 これ効果あるの?

 コイツには意味無い気がしてきたんだけど。


[警告射撃を実施。行動に変化無し!]


 ほら、意味無い。

 強制着陸させるなんて無理なんじゃないの?


[ねぇ、どうするFUJI(ふじ)?」


FUJI(ふじ)』が私のTACネーム。

 私が乗ってるバイクのメーカーから来てる。


「どーするも何も、撃ち続けるしか無いでしょ。墜とす訳にもいかないし…」


[そーだよね…]


「DC!どうすべき?!」


[そのまま警告射撃を継続、検討する。10分待ってくれ]



「Fog02、りょーかい!AZUR!撃て撃て!」


[了解!Fog02、警告射撃を実施する!]


 ダダダダダッ…ダダダダダッ…。


[フー!当たりそうだぜ!でも当てれぇねぇよなぁ~!ハッハー!]


 国際緊急周波数を何だと思ってるのコイツ!

 空軍をこんなにおちょくって…!

 こっちは海軍機の偽物を墜とした事もあるんだぞ!

 …嘆いても、制度的にまだ墜とせない。

 うぅ…ホント何コイツ…。


「…お腹空いた」


[さっきご飯食べたばっかでしょ?]


「そーだけどー…変な奴の対応は疲れるから…」


[それは…そうだけど…」


 こんな変な奴は初めてだからいつも以上に疲れる。

 あっ、そう言えば今どこ飛んでるんだろう?

 もう礼文島とか超えてるかな。


[!目標!東へ変針!]


「!?」


 G650が左旋回している!

 G650の左旋回に合わせてこちらも左旋回する。


「コイツ何処行く気なの!?」


[分かんないよ…]


 コイツは何処目指してるの?

 日本?ロシア?


[こちらDC、そのまま監視を続行せよ]


「Fog02、了解。監視を続行する」


 車と違って、飛行機はそう簡単には止められない。


「ねぇ、コイツって何でこんな事すると思う?」


[うーん…何か考えてるんじゃない?]


「何かって?」


[なんだろー…]


「…自爆テロ?」


[こんな小型ジェット機で?]


「でも、こんな小型機でも結構影響あるんじゃないの?」


[確かに…それに、積荷が可燃物だったら…]


「…考えたくも無いね」


 仮にそうだとしたら、陸上に墜落させると凄く不味い事に…!

 うーん、どうしよう。


「…積荷が有毒ガスとかだったら?」


[………。可燃物以上に考えたくないよ、それ]


 有毒ガスって事も考えられるから、本当に怖い。


「DC、DC、こちらFog02。積荷を相手に聞いて良いか?」


[構わない]


「了解」


 また周波数を国際緊急周波数に切り替えて話しかける。

 こんなに使いたくないんだけどな…この周波数。


「ロシア機に告げる。貴機の積荷は何だ?」


[おっ、質問か~。そ~だな~。積んでないって言うのは嘘かな~]


 つまり積んでるって事か。

 回りくどいね。


[あっ、取扱注意ね]


「取扱注意…?」


 少なくとも積荷は普通の物じゃなさそう。

 困ったな。


 対処を考えていると、G650はまた左旋回し始めた。

 私も合わせて左旋回する。

 方位…0!

 何がしたいの?


「DC、目標変針。真北に進路を取った」


[こちらでも確認出来ている。そのまま監視を続けろ]


[ねぇねぇFUJI]


「何?」


[撃ち落として良い?]


「もし積荷が有毒ガスだったら、お空から名寄辺りにガスを撒き散らしちゃうよ?」


[あっ、そっか…]


「積荷が危ないって分っちゃったから…」


[いや、分かんないのも分かんないで駄目だからね!?]


「そっか…」


 あっ!目標が右旋回!

 私もそれに合わせて右旋回を行う。


「方位…187!」


 急に南に方向転換した。

 本当に何なの?


[ん~飽きたから中身言っちゃお]


「は?」


 え?飽きたから中身を言う?

 何やコイツ!?F-15の翼に括り付けて飛んだろか!!!


[ほら、入ってこーい]


[…人?]


「動物とか…?」


[[[[ウェーイ!]]]]


 聞こえて来たのは沢山の『ウェーイ』と言う声だった。

 …取扱注意ってどういう事?


[コイツら酒癖悪ィからな~。今も機内の何かぶっ壊してるし~。まっ、そゆ事よ!]


「……」[[……]]


「ロシア機に告げる、これより千歳基地に誘導する。我の誘導に従え」


[いきなり固くなっ……]


「我  ニ  従  エ。イイナ?」


[ハ、ハイ…ワカリマシタ…]


[FUJI怖っ]




 16:15… 千歳基地…

 基地に戻って来た。

 いつものスクランブルより疲れた。

 あのG650に乗ってた奴らは全員警察行き。

 ざまぁ見ろ。


「あ~!疲れた~!何アイツら!ホントにパイロット?」


「しっかり免許持ってたらしいよ」


「嘘~!信じらんないんだけど!」


「私も!私も!」


 やっぱり葵も信じられないみたい。


「免許持ってるーって言われた時さ、5回くらい聞き返したもん!」


「5回!」


 私は笑いながらそう返す。


「そういえばさ、アイツら機内で何してたの?」


「なんかパーティーやってたよ」


「ロシアから?日本人が?」


「うん。なんか日本のは高い―って言ってたよ」


「へぇ~。日本人だから領空入っても何も言われないと思ってたのかな」


「多分そうなんじゃない?」


「知識って大事だね~」


「ね~」


 私と葵は笑いながら食堂へ向かった…。

 今日はご飯大盛にしよ。

お読みいただき、ありがとうございます!

ほんの少しでも「良いね」と思ったらブックマーク、評価の★の方を是非!

(付けると作者が凄い喜ぶよ)

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ