改造
電助が大学を辞めて数年、彼は私立探偵として生計を立てていた。
依頼の大半は探し物や素行調査だ。
地道に物事に取り組む彼はこれが得意だった。
依頼に必要な調査のためささいな事象でも逃さず、納得できるまで調べる。
必要とあれば、彼が独自に築いた交友関係(裏社会の情報屋等も含まれていた)も活用し、知る人ぞ知る評判の事務所となっていた。
彼自身、ひょんな縁から始めた仕事であったが、意外と気づいていない才能があったものだと驚いていた。
当初彼が思い描いていたよりも地味ながら、依頼人の役に立つこの仕事を悪くないとも考えるようになった。
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「じゃあ、グデ丸、行ってくるよ。」
その日も電助は素行調査依頼の仕事にとりかかった。
ペットとして飼っているジャンガリアンハムスターのグデ丸だけが心の癒しだった。
聞き込み調査は時には深夜帯に及ぶ。
長い夜になりそうだと、電助は感じていた。
繁華街での聞き込みを終えて、電助が裏路地を通っていたときだった。
「・・す、けて・・・」
かすかだが、かすれ声のようなものが聞こえる。
ビル間の人がたちいらないようなところだ。
一瞬、どうするか迷ったが行くことにした。
裏路地へ入ると、そこには大男が立ちすくんでいた。
「あの、なにかあったんですか?」
電助が声をかける。
すると、大男がゆっくりとこちらへ振り返った。
その顔は、人間のものではなかった。
目玉は複眼、口から大きな牙が生え、その肌にはうろこのようなものが生え、緑色に輝いている。
「なっ!?」
謎の怪人の、奇妙な風体に驚きが隠せない。
さらに注目すると、怪人の足元には子供が横たわっている!
目には涙をうかべ、おびえた表情だ。
怪人にさらわれてきたのだろうか。
怪人は電助を一瞥したが、興味を失せた様子で再び子供を見下ろした。
「た、助けて・・・。」
少年が不安そうにか細く言葉を発した・・・。
瞬間、電助は全力で怪人にタックルした。
まるで岩のように重い。
しかし、怪人にとって想定外であったようで怯んだような様子をみせる。
「はやく逃げろ!!!」
電助は少年に怒鳴る。
その声に少年ははじかれたように走り出した。
「にがさんぞ・・・。」
怪人は少年の方に向かおうとしたが、電助はくらいつき行く手を阻む。
「邪魔をするな・・・。」
「事情はわからんが、尋常じゃないからな。ここは僕が通さない!!」
怪人は少しいら立った様なそぶりを見せた。
「じゃあ、死ね」
瞬間、怪人の手にはカマキリのような鋭い鎌が生えた。
どういうトリックなのか。
電助は理解が追い付かないが、対応しようとした次の瞬間。
目にも止まらぬ速さで肉薄した怪人により、電助は自分の体が貫かれたのを感じた。
「がは・・・。」
引きちぎられるような痛み・焼けつくような熱さ、次第に薄れゆく意識・・・。
「なんてこった・・・、このまま死んでしまうのか・・・。」
ふと後ろを振り返る。
少年の姿はもう見えない。
このまま無事に逃げてくれたらよいが・・・。
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気が付くと電助は、見知らぬ真っ白な部屋にいた。
たしか先ほど自分は殺害されたはずである。
ここがあの世なのであろうか。
まわりを見渡す。
「目が覚めたかい。」
唐突に響いた声にぎょっとする。
慌てて周囲を確認すると、そこには毛むくじゃらの物体がいた。
もう一度驚く。
よく見るとその物体は手足が生えている。大きさは50cm程であろうか。
生き物なのだろうか、しかしこんな生物は知らなかった。
「な、ななん・・・・な?」
「わしはモリモ。フーターズ星から来た。
単刀直入に言おう。君はザンパイアに一度殺されて、わしがサイボーグ手術で
生き返らせた。」
「は!?」
「ザンパイアとはフーターズ星で昔生物実験の果て生まれてしまった怪物だ。
駆除したと思ったら、太陽系に数匹逃げていたことが分かってな。
数百年探してやっとこの地球にいたとわかったのだ。
やつらは地球では、密かに勢力を拡大したようでな。
こちらの言葉では”吸血鬼”と呼んだ方がよいかな?」
「???????」
理解が追い付かない。
「わしはフーターズ星の生き残りとして、やつらの中で地球原生生物に害をなす個体群を駆除する義務がある。
そこで君を見つけてな。
勇敢な姿を見て、ザンパイア駆除用のナノロボット駆使型オリハルコンがいしサイボーグとすることにしたのだ。」
「な・・・、ちょっとまってくれ!
理解が全く追い付かない。
なんだよフーターズ星って・・・。」
「論より証拠じゃ、そこの鏡で自分を見てみろ。」
言われて電助は鏡で自分の姿を見る。
そこには、
白銀のロボットのような男が立っていた。
自分の手を見ると、同じように白銀だ・・・。
「な・・・、なな・・・!?」
「ふむ、現地の言葉で命名してやろう。
お前は今から、”スパークマン”じゃ!!!」